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リトライ!!─救国の小女神様、異世界でコーラを飲む─  作者: 山本桐生
鬼ごっこ編

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指示と能力

 リアーナとタカニャの作戦は非常にシンプル。

 探索魔法で少数の鬼達を探す。タカニャと帝国兵が囮となり、そこへリアーナが奇襲を加える。

「鬼っていう種族なんだってね!!? 確かに聞いていた通りだ、強いじゃないか!!」

 タカニャから繰り出されるレイピアの刺突。細い剣針はしなり、不規則な軌道で迫るのだが、鬼はその連撃を重く太い金棒で受け止めていた。

 ただ技量はタカニャの方が上である。なぜなら同時に三人を相手にしているのだから。

 キンッキンッキンッ、金属音が連続し、まるで一つの繋がった音のようにも聞こえる程の攻撃速度。

 その鬼の背後に迫るのはリアーナ。気配を殺して近付き、間合いに入れば一気に飛び込む。そして一瞬にして二人を叩き伏せる。

 驚き、動きが止まる残り一人。その鬼の顔面に、タカニャは拳を叩き込んだ。

「タカさん、今ので気付かれました。すぐ次がきます」

「任せな。あんた達は正面から戦うんじゃないよ!! 私が分断するから、複数で当たりな!!」

 そうしてタカニャは少ない帝国兵を連れてまた全面に立つのである。


 こちらはほぼリアーナの思惑通りになっている一方、混戦で酷い状態なのは川の上流、森林内でベレントの相手をするヴイーヴルとユリアンだった。


 相変わらず、ヴイーヴルにとっては木も岩も関係無い。振るう大剣クレイモアは全て斬り砕く。ただそんな一撃を受け止めるベレントもまた同じ。振り回す金棒には木も岩も関係無い。

 二人は互いだけを狙い、武器を振り回すのであった。


 そして帝国兵を指揮するユリアン。

「左!! それ以上は追わなくて良いから壁を作って維持!!」

 周囲から聞こえる罠の爆発音。木々の隙間からは立ち上った煙が見える。ユリアンは常に周囲の状況を確認していた。

「いや、追撃すべきだ!! 相手は少人数、こっちの数なら叩潰せる!!」

「必要無い!! それに深追いすれば自分達が罠に引っ掛かる」

 ハリエットの罠は無造作に設置されているわけではない。

 大まかに言えば、白黒に分けた碁盤の目のようなチェック柄。その黒の部分だけに罠を設置する。そして爆発音と煙の位置から推察して、自分達は罠の無い白の部分だけを移動する。

 それが罠を回避しながら移動する方法。

「おい、どうする?」

「もう少しくらい大丈夫だろ」

 帝国兵が逃げた鬼を追撃してしまう。

 目の端でそれを捉え、ユリアンは心の中で舌打ち。

「すぐ今の奴等を連れ戻して。孤立したらこの人数じゃ助けられない」

 手近の帝国兵を捕まえてそう指示するのだが……

「大丈夫ですよ。俺達だって罠の事は聞いていますし、ここは見知った森の中なんですから」

「死人が出る」

「いやいや、俺達は兵士ですよ? 死ぬ事なんて怖くないですし、そんな臆病を言っていられませんよ」

 帝国兵は笑う。

 そんな帝国兵の胸倉を掴み上げるユリアン。

「ここで相手を止められなかったら、鬼が町に流れ込む可能性がある。そうなったら死ぬのはあんたらじゃない。町の住人だ。分かってんのかよ?」

「……分かりました」

 不満な表情を隠そうともしない帝国兵。そしてわざと聞こえるように言う。

「……ガキが……」

 ユリアンの指示に帝国兵が従わない。

 ミランはユリアンの優秀さを知っている。だからこそ帝国兵にはユリアンに従うよう指示していたが、帝国兵から見ればユリアンは子供。子供の指示など信用していない。


 ヴイーヴルとベレント。

 戦いながら二人は森の奥へと入り込んでしまう。その先は罠が仕掛けられている一帯。ヴイーブルも罠の設置は知っているが、そこに気を回す余裕は無い。


「半分はここで待機して壁を維持。撤退しながらでも、壁の維持をして少しでも相手の進行を遅らせる。もう半分は俺に付いてきて」

 二人を追って、奥へ進もうとするユリアン。

「待てよ。この奥は罠がある所だろ?」

「その罠を解除するんだよ」

「どうしてだ? せっかく仕掛けた罠なのに」

「だな。それにさっきは追わなくていいみたいな事を言っていただろ。矛盾していないか?」

「分かった。確か、あのヴイーヴルってのはお前の母ちゃんだろ? じゃあ俺達が助けてやるよ、お前の母ちゃん。へへっ」

 帝国兵達は口々に言う。

「……」

 馬鹿過ぎる。母さんに助けられているのはお前達なのに……周りの程度は普通にこんなものなのか?

 ヴイーヴルの戦いを見れば分かるはず。帝国兵を百人集めてもヴイーヴルには勝てない。それと同等のベレント。

 ヴイーヴルだけが罠で負傷して、ベレントだけ無事だったなら、ここは一気に崩される。

 シノブなら……リアーナなら、ロザリンドなら……他のみんなならそんな事を言う必要も無い。

 ユリアンは大きく溜息をつくのだった。


★★★


 フォリオが周囲の警戒。

 アビスコと直接に対峙するのはロザリンド、ビスマルク、ドレミドの三人。

「ほら、来いよ。これでやりやすくなっただろ?」

 アビスコ鬼王は金棒を振り回し、周囲の木々を力でへし折り視界を広げた。

 一歩前に進み出るビスマルク。

「まずは私が確かめる」

 そして一気にアビスコとの間合いを詰めた。

「フンッ!!」

 ビスマルクの突き。その鋭い爪をアビスコは金棒で受け止めた。金棒は爪を弾き、横薙ぎにされる。

 ガキンッ、と金属音。手甲で固めた片手でビスマルクは受け止める。

 戦いの様子を確認してロザリンドとドレミドも攻め込むのだった。

 そう、確認。なぜアビスコはビスマルクの一撃を受け止めたのか、なぜビスマルクはアビスコの攻撃を受け止められたのか、なぜ帝都第十四都市でシノブを助けられたのか……以前の不完全なアビスコは攻撃を避ける素振りすらせず、逃げる事もできず全滅寸前だったのに。

 理由は分からない。ただ『不完全なアビスコ』よりも、今の『完全なアビスコ』の方が弱い。

「楽しいな!! お前達もそう思うだろ!!」

 アビスコの前蹴りでビスマルクが吹き飛ばされる。

 ロザリンドとドレミド、二人の凄まじい連撃。その間を縫うようにすり抜ける金棒が二人の体を打ち据える。

 ロザリンドは飛び退き、入れ替わるようにビスマルクが飛び込んだ。

 鋭い爪がアビスコの腹部に打ち込まれるのだが体を貫く事はできない。しかしそれでもアビスコの動きが一瞬だけ鈍る。その一瞬を見逃さないドレミド。

「タァァァァァッ!!」

 振り下ろされる長剣。それを左手前腕で受け止めるアビスコ。僅かに肉へと食い込む。

 そこでビスマルクは小さく跳躍し、大きな体がクルッと回転した。至近距離からの胴回し回転蹴り。狙うのはアビスコではなくドレミドの長剣。

 長剣を押し込むような一撃、そこでアビスコの左手前腕は切断された。

「離れて!!」

 ロザリンドの言葉にビスマルクとドレミドは飛び退く。そこに風魔法が掛けられた刀の一振り。風の刃がアビスコを包み込んだ。

 ドサリと地面に落ちるアビスコの左手前腕。

「……これくらいならお前達と釣り合うか?」

 左手前腕を失い、風の刃を受けてもアビスコは余裕の笑みを浮かべる。

 そして右腕一本で金棒を振るう。

 それを刀で受け流そうとするロザリンドだったが……

「っ!!?」

 タイミングが合わず叩き飛ばされる。

 すかさずビスマルクとロザリンドがアビスコに迫るのだが、二人とも金棒で殴り飛ばされるのだった。

「おら、どうした。来いよ」

 アビスコは斬り落とされた左手を拾おうともしない。

「いきなり強くなったぞ」

「明らかにな。遊ばれているという事か……」

 ドレミドの言葉にビスマルクも同意。

 アビスコの強度が明らかに増した。だからロザリンドも受け流しのタイミングを合わせられなかった。

 その時、ロザリンドの頭の中にふとシノブの言葉が浮かぶ。

 あれはアイザックと決着した時。シノブの作戦に驚いたタックルベリーの言葉の後。


『まぁ、私は追い込まれて危機になった時こそ真価を発揮するから』


「ねぇ」

 ロザリンドは囁く。

「アビスコは損傷を受ける程に強くなるんじゃないかしら?」

 それがアビスコの能力……ロザリンドはそう思い至った。

「どういう事だ?」

「……そういう事か」

「だからどういう事だ?」

「そうなら全て説明ができるわ」

「シノブに伝える必要があるな」

「ええ」

「ど、どういう事なんだ? 私にも教えて欲しいぞ……」


 シノブ、アバンセとパル。三人と戦った時のアビスコは体の損傷が大きく、だからこそ三人に勝てた。ロザリンドも含めて相手にもしなかった。

 そしてバッカスと戦った時、アビスコは損傷を負っていなかった。だからこそバッカスに負けた。一瞬で首を落とされた為に自らの能力を使う事ができなかった。

 今、ロザリンド達がアビスコと戦えているのはそういう事。


「ビスマルク、ドレミド。少しだけアビスコをお願い」

「ああ、任せろ」

「分かったぞ。説明は後だな」

 諦めるドレミドである。

 すぐさまその場を離れるロザリンド。

「コソコソと話していたようだが、何か面白い作戦でも思い付いたか?」

 そう言ってアビスコはまた笑うのだ。

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