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リトライ!!─救国の小女神様、異世界でコーラを飲む─  作者: 山本桐生
鬼ごっこ編

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213/244

戦いの始まりと織り込み済み

 帝都第三十都市、そのガーガイガー道場。

 今でも剣術道場として使われていた。地下に瞬間移動装置なんて大層なものがあるとは思っていなかっただろうけど。

 その地下、魔法陣が淡く光を発していた。ここに乗り、頭の中で目的地を考えるだけで自動的に飛ばされるという優れもの。

 その周りを飛ぶのは小さなサンドンとヤミ。

「しかしシノブは相変わらずとんでもない事を考えるのぉ」

「そうね。でもアバンセとパルより強いのだから、これくらいの事をしないとダメなんでしょう」

「でも本当に助かったよ。こんな事ができるのか本当に分からなかったから」


 ガーガイガーの道場のうちの一つ。その地下部分をゴッソリと刳り貫きパルが火山上空、空中で支える。

 ただ瞬間移動装置は大地を走る竜脈を利用するもの。そこで空中まで竜脈を延ばす為にアバンセ、サンドン、ヤミが中継に入るのだ。


「じゃあ、みんなお願いね。こっちもそろそろアビスコが来るみたいだから」

 戦いの始まりである。


★★★


 石造りの物見櫓。

 それほど高いわけではないが、それでも他の建物の倍以上は高く、遠くまで見通す事ができた。

 その櫓の足元、中心に流れる川が町を左右に分断している。周囲にはゆるやかな丘陵地帯が広がり、そのさらに外側を森林が囲んでいた。


 まずその離れた森林部。こちらから見れば下流の方向。

 ドンッ、と爆発音。黒煙が上がるのが見て取れた。ハリエットが設置した罠である。

「キオ」

「は、はい」

 キオの左目、カトブレパスの瞳。いくつもの色が渦を巻き輝く。

「ま、間違いありません。アビスコです。そ、それとアルタイルさんも一緒です……」

「あの裏切り者がぁぁぁ、あたしがあの包帯全部巻き取ってリコリスのパンツにしてやる!!」

「どうしてわたくしですの!!?」

「いや、だっていつも濡れて汚すような事してんじゃん。いっぱい必要で、フガッ」

「余計な事を言うなよ」

 ユリアンはシャーリーの口元をガッと掴み上げた。

「でも拙者、アルタイル殿には何か意図があるんじゃないかと思いますぞ」

 物見櫓にはキオとシャーリー、伝令役のリコリスとユリアン、そして護衛のコノハナサクヤヒメ。

「まぁ、私もそう思うけど……」

 少しの後、物見櫓を駆け上がるのはベルベッティアだった。

「シノブ。ベリーからの報告よ。数は下流から約50名。その反対側、上流から約300人。約150人程度が周囲に散開しているわ」

 ユッテの話では鬼自体は1000人いるかいないかの人数らしい。つまり半分が参加している。

「シャーリー」

「了解」

 クルクルと指先を回すシャーリー。

 魔弾をアビスコ方向、川の下流方向へと飛ばす。散らばるみんなに向けてのメッセージ。この方向にアビスコはいる。

 ベルベッティアはみんなに現状を伝える為に再び駆け戻る。

 そして今度は上流の森林部で爆発音。黒煙が上がる。

「む、向こうにはベレントさんがいます、はい」

「ユリアンはヴイーヴルさんと上流の方をお願い。あとアリエリと帝国の人達半分連れてって良いから」

 相手はベレントを含めての鬼300人。こちらは戦力の大半をアビスコに向ける為、そこに割けるのはヴイーヴル、ユリアン、アリエリ、帝国兵100人のみ。キツ過ぎる。

「ユリアン」

「大丈夫、分かってるって。今回の作戦で重要なのは相手に勝つ事じゃなく、アビスコを道場に誘い込むまで負けない事。無理はしない」

「それもそうなんだけど、ヴイーヴルさんはベレントとの一騎打ちで余裕は無いと思うから。だから現場の指揮は任せる」

 ベレントはヴイーヴルで抑える。

「ユリアン、頑張りなさい!! パパやシノブにも負けない統率力がある事を証明するのです!!」

「いや、さすがに無理でしょ。恋が盲目過ぎる」

「うるさいですわ!!」

「はいはい。でもまぁ、将来的には証明できるとあたしも思ってるからさ。それまで死なないように」

「が、頑張ってください!!」

「頼んだよ、ユリアン」

 みんなの言葉にユリアンは笑うのだった。


 これは後から聞いたみんなの話。俺の見ていなかった部分である。


★★★


 シャーリーの青い魔弾が頭上を通り過ぎる。

「アビスコに一番近いのは私達みたいです」

「爆発音からしてまだ距離はあるみたいだね」

 森林の中に潜んでいたのはリアーナとタカニャだった。

 リアーナは探索魔法を飛ばす。通常の者なら一度で魔力切れを起こすような広範囲を難無く調べ上げる。そんなリアーナを見て、タカニャは内心で驚き笑った。

「……今、町で待機してたヴイーヴルさんが上流の方に向かっています」

「じゃあ、ベレントって奴はそっちだね。アビスコと一緒じゃないのはありがたいが、聞いた話だとこの人数じゃどうにもならないんだろ?」

 そんな二人に預けられているのは帝国兵20人程度。対抗できる戦力ではない。

「そうですね……とりあえず私達はここを離れます」

「……聞こうじゃないか」

 もちろん色々な想定はしてあった。だがアビスコ個人の戦力を考えれば圧倒的攻撃力を前面に出しての一点突破、それが一番効率の良い作戦……そう考えていたが、想定以上に相手は分散していた。

 こちらの戦力を分散させる、つまりアビスコと対抗する人数を減らしたい理由でもあるのか……疑問ではあるが、もうそこまで考えを巡らせる余裕は無い。

「敵の戦力は大きく分けて三つに分かれています。上流、下流、その他です。上流にはヴイーヴルさん。ここ、下流にはロザリンドちゃんとフォリオさん、ビスマルクさんとドレミドちゃんが向かって来ています」

 探索魔法は仲間の動きも捉えている。

「つまりその他の部分を私達が叩こうって事かい?」

「はい。散っていてその動きを把握するには探索魔法を使える私かベリー君じゃないと難しいですから。自由にさせるわけにはいかないので私達が対応する必要があります」

 タックルベリーは町での待機組。

「分かったけど、その事をロザリンドやビスマルクに伝える必要があるんじゃないか?」

「それは大丈夫です。これくらいの事なら」

「そうかい。なら行こうか」

 タカニャはニコッと笑顔を浮かべるのである。


★★★


 断続的に響く爆発音が相手の大体の場所を教える。

 駆けるのはロザリンドとフォリオ。

 森林の中では空を飛ぶという利点を失うフォリオであるが、猛禽類の血が混じる彼の聴力は非常に高い。

「ロザリンド、相手は五人。どうする?」

「それぐらいの相手なら今ここで対処するわ」

 ロザリンドは刀を逆に返して握る。峰打ちである。

 そして相手の方向が分かれば、先手を取るのも容易い。足の速度を一気に上げる。

 草木を踏む音で気付かれるが、すでにロザリンドは目の前。急所を狙った攻撃で、一瞬にして鬼五人を叩き……潰せない。

 二人が昏倒、しかし三人がその一撃に耐える。

 追撃。ロザリンドの刀の先端が一人の顎を叩き上げる。相手はそのまま気絶。

 そこから振り下ろす一撃を別の鬼の首筋に叩き込んだ。常人なら首の骨が折れるような一撃。だが鬼はそれに耐え、さらに刀身を腕力で押さえる。

 そして残ったもう一人の鬼が金棒を振り上げるのだが、その肩口に鋭い爪が食い込んだ。フォリオの足である。そのままフォリオは体を捻るようにして鬼を投げ飛ばす。

 ロザリンドの掌底打ちが残った鬼の視界を奪う。同時に膝蹴りを股間に叩き込む。力が一瞬だけ緩んだ隙に刀を引き抜き、そのまま頭部を殴り付けた。

 その一撃に最後の一人は沈んだ。

 そこに遅れて到着する帝国兵。その数は20。練度と人数では鬼相手に対抗はできない。あくまで後方支援である。

「人とは思えない体の強さね。全力で殴ったのに反撃してきたわ」

「ああ、掴んだ感触がまるで岩のようだ。三人以上の相手だった場合は回避する。時間が惜しい、それで良いな?」

「ええ」


 そんな感じで青い魔弾の先を追う。アビスコの相手をするのは自分達なのだから。

 森林の中を進み、目指した先。

 そこで合流したのは先に到着していたビスマルクとドレミドだった。

「ビスマルク」

「ロザリンド。来たか」

「……リアーナは?」

「私達が来た時にはいなかったぞ」

 ドレミドは周囲を見回す。この辺りにはリアーナとタカニャが待機しているはずだった。しかし今、その姿が見えない。

 ロザリンドは少しだけ考えてから言う。

「……リアーナがここにいないのは、リアーナにしかできない役割が他にあるから。何かと考えたら魔法、そう考えたら探索魔法」

 この面子の中でリアーナだけが特化している部分。それは魔法だ。ロザリンドは言葉を続ける。

「伏兵、または他に倒すべき相手がいた。そういう事だと思うの」

「だったら報告の為に帝国兵を残しているんじゃないのか?」

 フォリオは言うが、ビスマルクは笑う。

「ガハハハハッ、リアーナの中ではロザリンドがその答えに辿り着くのも織り込み済みという事だ」

「シノブといい……お前達はとんでもないな」

 呆れてしまうフォリオだったのである。

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