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リトライ!!─救国の小女神様、異世界でコーラを飲む─  作者: 山本桐生
鬼ごっこ編

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211/244

復活間近と復活済み

「アビスコを火山、マグマの中に落とす」

 アバンセとパルの二人で勝てないんじゃ、まず戦っては勝てない。

「マグマのダメージとアビスコの再生能力、どちらが上か……賭けだが現状ではそれ以上の策が無い、って事だな」

 俺はタックルベリーの言葉に頷く。

「でもどうやって?」

 と、リアーナ。

 俺は広げた地図に指を置く。それは帝国領土内。

「ここ。帝国第三十都市。ガーガイガーの道場があるんだよ」

「瞬間移動装置を使うつもりなの?」

 ベルベッティアは言う。

「うん。瞬間移動装置の出口をパルの所、火山の真上に設置する。誘導して転移後に装置諸共そのまま落とす」

 もったいないが、それぐらい値する相手だろ。

 装置の移動が可能かどうか、サンドンに話してみたが『多分、大丈夫』だろうとの事。ただ準備に手間取る可能性があるから時間稼ぎをして欲しいと。

 だからフラフラと逃げているように見せ掛けて時間を稼ぎ、第三十都市を目指すのである。


 まぁ、相手の当面の目的が俺じゃなけりゃ良いんだよ。時間的余裕が生まれるし、心臓探しをまだしててくれると嬉しいんだけど。

 こっちはもう何も持ってないんだから、わざわざ俺みたいな女の子を狙わんでもなぁ~


「シノブ。一日で追い付ける距離じゃないけど、昨日からこっちと進行方向が同じ一団だ。約五十人」

「普通の行商人としては多いね。すぐキオに確認してもらう」

 大きな商隊もあるし、大道芸人の一団とかもあるけども。

 とにかく相手の方向が分かるならキオの遠視で確認ができる。

 結果……

「あ、あの……た、多分、アビスコです……」

「……アビスコの状態は?」

「は、はい……か、体は前と同じく干からびていますけど、りょ、両手足もありますし、目も付いています、はい。そ、それとベレントさんの姿も」

 心臓は無いと仮定しても、本当に復活間近じゃん……じゃあ、次の手に移りますか。

 そして俺はキオだけに一つのお願いをするのだった。


「じゃあ、みんな。私はユッテを連れて逃げ回るから先に第三十都市で待機してて。アビスコ相手だとかなりの死闘になると思うから作戦とか準備とかしっかりしてよ。任せたからね」

 その言葉にみんなは頷き、そして俺はヴォルフラムに跨るのだ。


★★★


 ヴォルフラムの足で駆け抜ける。

 ユッテが乗る飛竜は警戒の意味を込めて、少し離れるように指示。何も知らされていないユッテはただ指示に従う。まぁ、そのまま逃げても構わんし、ヴォルフラムもいるから襲ってもこないだろ、多分。

「……ヴォル、ごめんね」

「どうした急に?」

「行先はこっち」

 俺が指さした方にヴォルフラムは首を向けた。

「時間稼ぎをするにしても逆方向だと第三十都市に到着する前にアビスコに追い付かれるんじゃないか?」

「第三十都市には行かない」

「……」

「帝国第十四都市。そっちにもガーガイガーの道場があるから」

「……」

 ヴォルフラムは黙って次の言葉を待つ。

「……相手は竜二人でも敵わないアビスコ鬼王。そんな相手と戦わせる事はできないよ。絶対に殺される」

「だからシノブが一人で決着させるつもりか?」

 状況を追えるキオには、行先が違う事を伝えている。だが作戦内容は教えていないし、他者への口止めもしていた。

 この作戦を知るのは瞬間移動装置を使う都合上、サンドンだけ。

「絶対に倒せる確信があるなら、みんなにも手伝ってもらったよ。でもアビスコをマグマに落とせば本当に勝てるのか分からない。そもそも瞬間移動装置を火山の真上に設置できるのかすらも分からない。こんな現状でみんなを巻き込めない。でもヴォルの足は必要だったから……」

「シノブも巻き込まれたようなもんじゃないか?」

「まぁ、そうかも」

 俺は苦笑いを浮かべた。そして言葉を続ける。

「でも私に何かあったら、ヴォルだけでも逃げて欲しい」

「分かった。いち早く逃げる」

「違うでしょ!! そこは最後まで付き合うトコでしょ!!?」

 ヴォルフラムは笑うのだった。


★★★


 そこそこ時間も稼いで、目的地もすぐそこだってのに……

「アビスコ鬼王とは俺の事よ。こっちの姿では初めてだな。シノブ」

 身長は二メートルを超える大男。額には燃える炎のような赤い角。はち切れんばかりの筋肉を閉じ込める黒い肌。手にする金棒は太く自らの身長よりも長い。ここまでの間に心臓も戻って復活済みって事かよ。

 アビスコ鬼王を名乗る男は帝国第十四都市で俺を待ち構えていた。ユッテにも行先を伝えていなかったのに……

「ベレント……これは一体どういう事?」

 ユッテが拳を強く握り締めているのが分かる。

「……」

 自称アビスコの隣にはベレントも立っていた。

「信じられないか? 目の中に指を突っ込んで体の中に魔法を撃ち込んでくれたよな。ケツからも火が漏れていただろ、ははっ、笑えたな」

 本当にアビスコか、コイツは。

 しかしそれ以上に驚きなのは……

「アルタイル……」

 アビスコの後ろ、包帯で全身を包むその姿は右半身が男性のもので、左半身は女性のもの。アルタイルだ。

「シノブ」

「うん。ヴォル、絶対に何か理由があるはず」

 やり取りを小声で交わす俺達に対して、アビスコは鼓膜が痛くなるような大声を張り上げた。

「それと俺の心臓だけどな、このアルタイルってのが持ってきたんだぞ。お前の仲間だろ? 裏切られたみたいだぞ、お前は。ここを教えたのもコイツだからな」

 そして笑った。

「……」

 俺は周囲に視線を走らせた。

 大きな川沿いを走る街道。向かう先にはアビスコ、ベレント、アルタイル。

 右手の川幅は広く、流れも速いように見える。深さも分からんし、こっちから逃げるのは現実的じゃない。

 左手はなだらかに上がる草地、その先には茂った木々が見える。逃げるならこっちの林だが、他の鬼が身を隠しているのは容易に想像できる。

 後ろも……まぁ、姿は見えないけど、回り込むようにして隠れているんだろうな。

 問題はヴォルフラムの鼻で気付けなかった事。魔法か何かで隠匿されているとしたら、その包囲網を突破するのは難しくなる。

「シノブ、お前の強さは知っているんだ。最優先に倒すべき相手、逃がさんぞ。まぁ、降参するなら無傷で許してやるけど、どうする?」

「……冗談でしょ。今度はその汚いケツから汚物でも漏らしてもらうよ」

「くぅ~、面白れぇクソガキだな、お前は」

 アビスコは笑いながら歩を進めた。

「まぁ、次の機会にだけどね!! ユッテ、できるだけ高く飛んで逃げて!!」

 俺がヴォルフラムに飛び乗るのと同時に、すぐさまユッテの飛竜は空高く舞い上がった。

「シノブ、しっかり掴まれ」

 包囲網を突破するのは難しいかも知れない、それでもヴォルフラムなら!!

 ヴォルフラムが後方に駆け出……なっ、冗談だろ!!?

 踵を返した目の前、そこにアビスコはいた。一瞬で回り込まれる。

「こんなデカい体だけどな、そこそこ速さには自信があるんだぜ」

 だがヴォルフラムの対応も速い。真上へと飛ぶ。その跳躍力でアビスコの姿が一気に小さくなる。しかしそこへ向かって林から何本もの金棒が投げ放たれた。やっぱり他の鬼も隠れてやがったか。

 しかしヴォルフラムは金棒を蹴りながら空中で態勢をコントロール。そんな俺達の目の前、飛び上がったアビスコが空中にいた。

 まさに怪物。

 アビスコの振り下ろされる金棒の一撃。

 咄嗟に体を捻り、その一撃を躱すヴォルフラム。

 そんな激しい動きに俺が耐えられるわけもなく、空中で投げ出された。

「シノブ!!」

 ヴォルフラムの声が急速に遠ざかる。

 あっ……このまま落ちたら……確実に死ぬわ……

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