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リトライ!!─救国の小女神様、異世界でコーラを飲む─  作者: 山本桐生
鬼ごっこ編

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210/245

追う側と追われる側

 大量の水に運ばれ運ばれ運ばれてぇ~かなり遠くまで流されてぇ~

「間に合って良かった。アバンセとパルはサンドンに任せたの。二人とも無事よ」

 それは麗しの水竜ヤミだった。

「ありがとう、本当に助かったよ」

 もちろん水で運ばれたのは俺だけじゃない。他のみんなも。

 ただ助かったのは良かったけど……所持していた右目も、千切った左手も落とし失う。クソッ、全てがパァになっちまったぜ。

「途中でサンドンから聞いたけど、相手はアビスコ鬼王なのね?」

「うん。だけどちょっと調べ直してみる」

 でもアバンセとパルで勝てないなんて普通じゃねぇ。一度情報を整理する必要がある。

 それと可能か不可能かは分からんが……

「ヤミ、お願いがあるんだけど」


★★★


 ヤミ達とは別行動。

 情報を整理する為、ヴイーヴルとユリアンの高速飛行でまずは王立学校へ。学校長チオ・ラグラックからもう一度話を聞く。

 その後、帝国側へ。


「ミラン、久しぶり、元気してた? ハリエット、いや、ハリエットさんも。聞いたよ、全裸に近い布切れ一枚で寝てたんだって? しかも街中で。さすが変態ハリエットさん」

「やめてください!!」

「あははっ、まぁ、面白い話は後回しで。ミランも少しは話聞いてるよね?」

「ああ、さっきリアーナから聞いた。アバンセ達でも勝てないなんて信じられない話だがな……」

「まぁ、ミランが信じられないのも分かるけど、実際に私も勝てなかったから」

「シノブが?」

「うん、ヴォル、後でお腹モフモフさせて。それとあなたがユッテね?」

「そう」

 ここは帝国、ミラン宅。さすが皇子様、お屋敷も大きいわ。その一室では鬼側の情報源でもあるユッテという名の鬼も同席していた。彼女はベレントと兄妹でもあるらしい。

 そこでミラン達とお互いが持っている情報を確認する。そこで相手の目的も大体は分かった。


 王立学校長チオから得たのはまずバッカスの情報。

 バッカスは風を操る竜。

 風の刃でアビスコを一瞬にして八つ裂きにした。

 ただアバンセやパル程には強くはない。

 そしてここが重要。バッカスから伝え聞いた話だと、アビスコは首だけで空を飛び、首の無い胴体だけでも動けた……が、ララの封印時にそんな動きは無かった。


 それを聞いたユッテは言う。

「首だけで空を飛んだ……なんて話を私は知らない。痙攣程度の動きはあったけど、実際に動き出したのは頭と繋がる部分だけ」

「えっ、じゃあ、その話は……」

「酔っ払いが話を盛ったんじゃないか?」

 ベリーは言う。

「そうね。本当に一部だけで動けるのなら、私達が所持していた時点でも暴れていたんじゃないかしら」

 ロザリンドも言う。

 確かに封印時の話とユッテの話から考えれば、バッカスの話は誇張。

 つまりアビスコの首を切り離せば倒せる。

 ただこれはユッテの話が本当だった場合。もちろんまだ信用はできない。

 何よりアビスコを倒したはずのバッカス、そのバッカスよりも強いアバンセとパル、二人が不完全なアビスコを倒す事ができない。

 俺達に見落としがあるのか、何か隠された秘密があるのか……分からんが現状で勝てないのだけは分かる!!

「ユッテ。今、ベレントとのやり取りが本当にできるの?」

「できる」

 それは鬼の特殊能力、ごく近い近親者同士はどれだけ離れていてもリアルタイムでテレパシーのように会話ができるらしい。ベレントとユッテは兄妹、これで時間差無くお互いの状況を把握しているんだとか。

「今、アビスコの体はどうなってるか分かる?」

 ユッテの、少しの沈黙。そして。

「まだ。完全じゃない。兄とアビスコはまだ合流していないから」

「それと全ての計画はお兄さんが考えたの?」

「そう、兄は鬼の中で一番強い。だからアビスコ復活の為の指揮を執っている。その兄が実はアビスコ復活の邪魔をしているなんて誰も思わない」

 表向きは復活前のアビスコを守る為、本体や捜索部隊をいくつにも分けて大陸中を移動。

 しかし真の目的はあえてバラバラに行動する事で合流を遅らせる。それがベレントの作戦らしい。

「分かった。ありがと。それとごめん、まだ信用はできないから、少し席を外してもらえる?」

 ユッテは頷き、退室。


 そして俺は一度、大きく深呼吸をして……

「さて。もうすぐアビスコとの戦いになると思うけど、どうする?」

「何で? やっぱりあのユッテってのが嘘言ってんの?」

 と、シャーリー。

「騙されている可能性が高いか」

 ミランは呟く。さすが、もう分かってるみたいだな。

「だから何でか説明しろ!!」

「ははっ、シャーリー、おバカなんだから静かにしないと怒られるぞ」

「そうですわ、シノブの言葉を待ちなさない、おバカ」

「ドレミドもリコリスもこっち側のクセに生意気な!!」

「お前達、ふざけている場合か?」

 ビスマルクの目がギラリと光る。

「……」「……」「……」

 三バカはある意味で癒されるなぁ~

 とはいえ確かにふざけている場合ではない。

「もしユッテとベレントが繋がっているのなら、ユッテの行動はおかしいわ」

 ロザリンドだ。そして後をリアーナが続ける。

「うん。もしユッテちゃんの事がバレたらベレントさんの立場が危うくなるからね。普通なら別の人を寄越すはずだよ」

 ベレントも第三者ならトカゲの尻尾切りができる。でもそれが妹ならそう簡単にはいかない。

「ベレントにとってここにいるのはユッテである必要があるという事だ」

 ビスマルクの言葉でユリアンも理解した。

 つまりそれは俺達の動向を知りたいという事だ。

「ベレントの狙いがシノブだとして、その場所を特定する為……でもユッテがベレントの意図を理解しているなら、特殊能力の説明をする必要が無い」

 だとしたらベレントは特殊能力の口止めをユッテにするだろう。

「お兄様の言う『騙されている可能性が高い』の意味はそういう事なんですね……」

 ハリエットの言葉に俺は頷く。

 何かがチグハグ、騙され、隠された意図がある。

「もちろんベレントが本当にアビスコ復活を邪魔してる可能性はある。でもこの場はもう特定されていて、すぐ攻め込まれる可能性はそれ以上にあると思ってる。それでね、こういう事があるといつも言ってるんだけど、相手はアバンセ達でも勝てない相手、私に付き合う必要は無いよ」

「ねぇ、シノブちゃん。こういう事があるといつも言ってるんだけど」

 その後に出てくるリアーナの言葉に全員が頷く。

 誰も逃げ出さない。そして力を貸してくれる。本当に嬉しい事だぜ。


★★★


「馬車の中は快適だなぁ。みんなには申し訳ないけど」

「まぁ、あたし達はああいうの乗り慣れてないし、仕方ないじゃん」

 みんなは飛竜や馬で移動、だけど俺とシャーリーは馬なんてあんまり乗った事が無いからな。それとタックルベリーと護衛役のホーリー。

「ベリーも嬉しいでしょ? こんな狭い中でかわいい子に囲まれて」

「いや、僕的には面子が気に入らない。シノブ、お前は対象外」

「この野郎……」

「じゃあ、あたしとホーリー狙い!!?」

 タックルベリーは呆れた視線をシャーリーへ向ける。

「無いわー」

「何で!!? あたしの方がシノブより育ってると思うんだけど!!?」

「この野郎……」

 そこでタックルベリーはホーリーと、俺やシャーリーを見比べる。

「……な?」

「『な?』じゃないよ!! 仕事しろ!!」

「してんだろが」

 ホーリーはそんなやり取りを見て小さく笑うのだった。


 俺達の作戦は、時間を稼ぎつつ目的地まで誘導する事。その為にユッテも同行させている。ユッテ本人には時間稼ぎである事しか伝えていないけどな。

 ただ目的地まで交戦はしたくない。そこでベレント達に追い付かれないように周囲の索敵が必要なのである。キオのカトブレパスの瞳は向けた方向の遠視しかできないが、タックルベリーの探索魔法は全方向に飛ばす事ができる。

 そして探索する範囲が広ければ広い程、必要な魔力量は多くなる。その負担を減らす為の馬車移動でもあった。


 しかし追う側から追われる側か……まるで鬼ごっこだぜ。

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