シャーリー探偵団解散と顔合わせ
しばらく時が経って。
「結論から言うよ。全ての黒幕はディン・ロイドエイク。シノブちゃんの元同級生だよ」
それがベルベッティアからの報告だった。
アバンセが淹れたお茶を一口。そして溜息。
「……そこまで馬鹿だったか……」
「でもロイドエイク家ではなく、あくまでディン・ロイドエイクの独断みたい」
まずシャーリーの赤い魔弾は、あの傭兵風の男を追った。口封じに殺されている可能性もあったが、男もそれを感じ取り逸早く逃走したらしい。
見事逃げ切ったようで、それ以降は黒幕らとの接触は無かった。ここから黒幕を追う事はできず捜査は打ち切り。
そこで今度は別方向からのアプローチ。
傭兵風の男が店を追い出された後に勧誘されたのなら、同じように勧誘を受けた人物が他にいるのではないか。男の後に来店した青年、あの仲間入りを志願した青年の行方を次ぎに追ったのだ。
結果としてこれが大当たり。青年の様子を窺う怪しい人物を発見。
その人物をベルベッティアが探る。
この青年も黒幕らに声を掛けられていた。歳近い俺を呼び出す為の使い捨て要員予定。ただ話を早々に断り、襲撃の話なども聞いていない。結果として口封じの必要は無いと判断されたらしい。
ただ襲撃失敗後に何かおかしな動きをしないか一応はこの人物が監視をしていたのだ。
その人物をシャーリーが目視。
魔弾はその人物の行動を追い、さらにその人物と接した別の人物へ。そうやって接触者を片っ端から追い、黒幕へと近付いていく。
そして辿り着いた先がディン・ロイドエイクだった。
「……理由は?」
「私怨」
「私怨……」
やっぱりね。
「ロイドエイク家は名門。その跡取り息子が王立学校を卒業できなかったのだからその恨みは相当」
「卒業できなかったんだ……」
「休学からそのまま退学だね。プライドも高いディンには王立学校の模擬戦結果は許せなかったの。それと周囲の馬鹿にする声も」
「……そっか」
「そこで持ち上がったのがシノブちゃんとの婚姻だよ。後ろ盾であるラムニタ海商の利益、それと同時に恨みのあるシノブちゃんを拘束する事ができる。それがロイドエイク家の計画。ただそれは立ち消えたの」
「ニーナさんだよね? 話はしてあったし」
「うん。シノブちゃんへの求婚禁止令が改めて強く王族から発せられたの。そこでロイドエイク家は諦めた。そこで関与は終わり」
「そこまでしてくれるんだ……ニーナさんって本当に親切だよねぇ。続けて」
「でもディン本人は違った。どうしてもシノブちゃんだけは許せなかった。それが今回の襲撃計画だよ」
「……分かった。ありがとう」
そこからの行動は迅速よ。
ニーナとメリッサ、両方へこの情報を伝える。二人ともこの件について調べるはず。本来なら真相には辿り着けないように工作がされている。しかし手順が逆、結論が分かっているからこそ二人は真相へ辿り着くだろう。
「話終わった? 凄いでしょ、シャーリー探偵団」
「ホント凄いよ。じゃあ、真相も分かったし、シャーリー探偵団解散で」
「うえっ!!?」
★★★
深い青色のドレスだった。裾に描かれるのは色とりどりの花。そんなドレスに身を包み、薄っすらと化粧を施す。
手櫛を通すと白い髪がサラサラと流れる。そして燃えるような赤い瞳。その姿は溜息が出る程に美しい……これでもうちょっと育っていれば完璧だったんだけどな。身長も、胸も……ぐすんっ
さて。じゃあ、乗り込んでやろうかね。
ロイドエイク家によ!!
王都。
その中でも王城に近い場所。
門戸を通り歩く。石畳のアプローチ、両サイドには木々が植えられ建物が見えない。どんだけ広いんだよ、王都でも一番良い場所だろ? なのにこの敷地って、それだけで家柄の凄さが予想できる。マヂでかーい。
お供はフレアとホーリー。もちろんドレスの中にはコノハナサクヤヒメが隠れているぜ。
これはニーナに頼んでセッティングしてもらった機会。婚姻を前提とした顔合わせ。
こうやって出迎えるディンの両親も、表向きはニコニコと笑みを浮かべているが内心は腸煮えくり返ってんだろうな。
たわいもない会話をしながらその部屋に通された。そこでフレアとホーリー、ディンの両親も退室する。
「久しぶりだな」
ディン・ロイドエイク。その顔付きは学生時代に比べれば精悍なのだろうが、なんせ嫌いだからな。イラッとする顔してやがるぜ。
もちろんそんな感情は表情に出さないけどな。
「うん。久しぶり。ディンも元気だった?」
「それなりに」
ディンは笑みを浮かべる。
その表情に恨みの感情は浮かんでいない。
そこからくだらない意味の無い会話を交わす。しばらくして。
「でもびっくりしたよ。ロイドエイク家が私との婚姻を望んでいたなんて。ほら、てっきり私はディンに嫌われていると思ったから」
「当時は。こっちとしては模擬戦で情けない負け方をしたからな。ただ二度大陸を救ったお前を見て、俺は少し変わったんだ。見た目、生まれ、容姿で人の優劣は決まらない。それが分からなかったから、俺はお前に負けた。その事に気付いた。だからお前にもう一度会いたいと思っていたんだ」
「安心した」
「安心……か。でも何処から婚姻の話を聞いた? ロイドエイク家として正式に話は出していないはずだったが」
「結婚する気なんて無かったんだけど、あまりにも求婚が多くてね。逆にそういう将来があっても良いかなって。それで王国の関係者に知り合いがいたから、良い相手を探してもらっていたの。その中にロイドエイク家の話があったんだよ。家柄としては名門、ディンは年齢も私と同じだから推薦をされた」
「それで今回の話か」
「そう。私としては良い話だったけど、過去の事があったから。だからまた会ってみたかったの。でもディンが変わってて私は安心したよ」
「やっぱり会えて良かった」
そう言ってディンは笑った。
それに答えるように俺も笑う。
……もうつまんねー話はいらんだろ。
「ダリル・ハイマン、傭兵。チェイン・ヒロー、冒険者」
「……誰だ?」
「知らない?」
「知らないな」
「知らないかぁ。まぁ、末端の中の末端だし仕方ないか。じゃあ、ツツレッタ、冒険者ギルド協会職員。他にデフーって男は?」
「さっきから何を言っているんだ?」
ディンから笑顔が消える。
「トーヘル・ボーレーは? さすがに知ってるでしょ。学生時代に模擬戦で一緒だった仲間だし、ボーレー家とは懇意の仲だよね」
「関係の無い話ばかり……お前、婚姻の話をしに来たんじゃないのか? そうじゃないのなら帰れ」
そのディンの表情は怒りそのもの。
「ここまで言ったらさすがに分かるでしょ? 私を殺そうとした件だって」
「言ってる意味が全く分からない。帰れ。今すぐにだ」
俺はディンを正面から見据えた。
「私がここに来た以上、確固たる証拠がある。そういう事だよ」
「……そんな話は知らないし、あったとしても俺はもちろん、ロイドエイク家は何も関与などしていない」
「もうね、真相を解き明かす段階じゃないんだよ。真相を知った上で話に来ているの。ディン、もう私に関わらないと約束して」
「……お前、さっきから何を……」
「数日のうちにロイドエイク家を取り巻く環境が変わる。ディンの態度次第で底まで転げ落ちるよ。あの時みたいに」
俺は微笑んだ。
「キサマ!!」
「……最後まで私と争ってロイドエイク家を潰すか、それとも最低限でもロイドエイク家の名前を守るか。ディンに決めさせてあげる。これは私の優しさだよ」
「……」
ギリリッと唇を噛み締めるディン。
そして俺は王都を後にするのだった。




