待ち伏せとシャーリー探偵団発足
アバンセを呼んだ。すぐにも来るだろ。
村から離れ、手近な森の中に逃げ込む。
「完全に私が狙われてるみたい」
「姐さんをすか……そいつぁ許せねぇな」
ミツバのこめかみに怒りの青筋が浮かぶ。
「まさか村一つを丸々犠牲にして罠を仕掛けているなんて思わなかったぞ。かなり大規模だ」
すでに意識を戻しているドレミド。大きな怪我も無いようだった。
しかし罠に絶対殺すという気概を感じるぜ……そこまで俺が何をしたってんだ……
ガサッと雑草が揺れる。
「シノブ様」
それは周囲の偵察に出ていたフレア。その胸にはコノハナサクヤヒメが抱かれている。
「まずいですぞ。すでに囲まれております」
「早過ぎでしょ……」
「これって村の周囲だけじゃなくて、もっと広い範囲で待ち伏せしてたって事っすか?」
「だと思う。そうじゃなければこんな早くに見付からないよ」
探索魔法の外側にまだこれだけの人数がいるとは……
「シノブ、近いぞ」
ドレミドは剣を抜き、ミツバは戦斧を構えた。
作戦は極めて簡単。
アバンセが来るまで耐える。以上!!
「ではシノブ様、ヒメ様、こちらへ」
「かたじけない」
「二人とも、すぐにアバンセが来てくれるから無理はしないでよ」
すでに俺は能力を使えない。この場では正真正銘のお荷物と化した。コノハナサクヤヒメも無尽蔵に水を生み出せるわけではない。すでに燃料切れでリタイア。そんな俺達の護衛はフレア。
そして……
★★★
「お前達、その程度の人数で私達を殺せると思うのか!!? 大陸を救った英雄だぞ!! 全く物足りないな!!」
ドレミドは大声を上げながら派手に剣を振り回す。そこを左右から挟み込まれた。
左側からの攻撃。振り下ろされた剣を受け止め、その腕を掴み上げる。そして力で強引に右側へと投げ飛ばす。挟み込んだ敵二人は激突して倒れ込んだ。その二人に蹴りを落とす。
悶絶。これで動けない。
「殺しはしねぇよ。けど死んだ方が楽だと思わせてやるぜ」
ミツバは力任せに戦斧を振り抜いた。刃の部分ではなくその側面で敵を殴り飛ばす。刃を横にするのだ、空気抵抗もかなりあると思うのだが、それを物ともしない剛力。
ゴギンッ
殴られた方は骨の折れる嫌な音。腕か足か肋骨か、起き上がる事などできず呻き声と共に地面へ転がる。
ドレミドとミツバは自分達に注意が向くように、なるべく派手に暴れていた。
圧倒的な二人の戦力。何人もの敵に囲まれようが、殺さず制圧する程の技量の差。その戦いの最中。
ドレミドは受け止めた剣ごと相手を叩き飛ばす。そして転がる敵のフードが脱げ落ちるとそこには……
「お前は……どうして……」
ドレミドはその顔に見覚えがあったのだ。
「傭兵ってのはなぁ、舐められたら終わりなんだよ」
男は憎々しげにそう搾り出すのだった。
★★★
その姿は夜空に紛れてよく確認ができない。
しかし翼がはためくその音はよく知っている。アバンセだ。
「フレア!! 来たよ!!」
俺の言葉にフレアは頷いた。その手にはコノハナサクヤヒメ。
「ではフレア殿、頼みますぞ!!」
そして……どひゅんっ
風を切る音。
身体能力を強化したフレアが思い切りコノハナサクヤヒメをブン投げる。
ビュオォォォォォッ
空を飛ぶコノハナサクヤヒメ。
「アバンセ殿ぉぉぉぉぉっ!!」
「この声……ヒメか? ん?」
そのアバンセの目の前を高速で通り過ぎ、さらに上空へ。
「……気のせいか。だがシノブは確かにこの辺りにいるはず」
何回かその場を旋回するアバンセ。その背中に……ポコンッ、コノハナサクヤヒメ着地。
「アバンセ殿!!」
「おお、やっぱりヒメだったか。どうかしたか?」
「今シノブ殿は下で正体不明の輩に襲われております!! お助けくだされ!!」
「……ああ。任せろ」
そして……
「このゴミ虫共が!! シノブを竜の花嫁と知っての行動だろうな!!」
それは怒号。空も、大地も、周囲全てを揺るがす。怒りで溢れ出す竜の力なのだろうか、その場にある生命全てが震え上がる。
「不死身のアバンセ。その身内に手を掛けようとするとは……生きている事を許さぬ。骨も残さず焼き尽くしてくれようぞ!!」
その口から吐かれる青白い炎が空で弧を描く。周囲を明るく照らす程の大火力。
さすがに竜が相手では敵も逃げる事しかできない。その場から離れていくのだった。
★★★
ここは大陸の中でも最も安全な所と言って良い。
竜の山、その山腹。アバンセの館である。
モシャモシャ
「いや、正直、舐めてたね。アバンセと敵対しても私を殺そうとする奴等がいたとは」
わざわざ遠い村に呼び出したのはアバンセが来る時間を稼ぐ意味もあったんだろ。
「心当たりは?」
胸に抱かれるミニアバンセ。
モシャモシャ
「分からないけど、前にうちの店に来た男がいたって」
ドレミドからの情報。
襲ってきた敵の中に、以前うちに来店した男がいたそうだ。それは俺に勝負を挑み、アリエリが無残に追い返した傭兵風の男。
追い返された後、何者かに今回の事を持ち掛けられたらしい。
「その男を拘束して、もっと詳しく聞き出す事はできなかったのか?」
アバンセは言うが。
モシャモシャ
「無理だと思う。あそこまで準備が周到だったんだから、きっと普通の手順じゃ追えない」
モシャモシャ
「それは普通の手順じゃなければ追えると……しかしよく食べるな!!?」
「モシャモシャ……だってアバンセのお菓子ってその辺のお店より美味しくない? ズズ~」
シャーリーはお菓子をお茶で流し込んだ。
「だからあえて拘束しなかったの。こっちにはシャーリーがいるからね」
赤い魔弾。
一度でも顔を見た相手なら、何処に居ても探し出す事が可能な破格の能力。世界に一つ、唯一無二。
この能力はシャーリーも隠している。相手もこんな方法で探されるとは思ってもいないだろ。
「まぁ、あたし達の働き口を潰されちゃ困るしね。何処に居ようが見付けだしてあげるよ」
★★★
シャーリーの赤い魔弾。追跡に優れたヴォルフラム。隠密に優れたベルベッティアとコノハナサクヤヒメ。さらにニーナの情報網も利用させてもらって、っと。
とりあえず狙われている俺はこのままアバンセの館で待機。後はシャーリー達に期待しようかね。まぁ、みんな優秀だし俺の指示とかいらんでしょ。
「じゃあ、今から指示を出すのはこのあたし。シャーリー探偵団発足するよ!!」
そして改めて赤い魔弾の優秀さを再確認するのだった。




