自宅療養と未来
自宅。
ベッドの上。俺は寝転がり、ただただダラダラする。
「シノブ様。王国から使者の方がお見えですが……」
「……シノブは激戦の疲れで自宅療養中です。って事でホーリーお願い」
「そのように」
ホーリーが対応に向かう。
それでまた俺はヴォルフラムとゴロゴロ。
「シノブ。もう10日くらいベッドから動いていないような気がする」
「ヴォル。それは気のせいだよ。オシッコとかお風呂とかに一応は行ってるから」
「一応……」
「そもそもだよ、私達ずぅーーーーーっと戦いっ放しだったじゃん。それでまたしても大陸を救ったわけじゃん。で、その後も治安維持だとか何だとかで休めなかったじゃん。1年くらい休んでも誰も文句は言わないと思うんだけど」
「でもそろそろだと思う」
ヴォルフラムの耳がピクリと動いた。その直後。ドアがバーンと。
「シノブ、そろそろいい加減にしなさい」
「お、お母さん!!?」
「全く毎日毎日、外にも出ずに閉じ込もって」
「で、でもシノブは激戦の疲れで自宅療養中だから……」
「もちろんやった事は立派よ。お母さんも誇らしい。でもそれはシノブだけじゃないでしょう?」
た、確かに……痛い所を……リアーナも学園に戻り、同時に冒険者として治安維持などに努めている。ロザリンドも島国に戻り普及の手伝い。ミランとハリエットは帝国への報告。フレアとホーリーもお店の手伝いだったりと、みんながもう行動を始めていた。スライムのコノハナサクヤヒメでさえ壊されたインフラ整備の為に水を提供して回っている。
「でもヴォルだって」
「俺は森の警備を母さんに代わってしている」
「あのね、働きなさいって言ってるんじゃないの。少し外に出なさい。このままずっと引き篭もっているつもり? それじゃ体にも良くないでしょう?」
「引き篭もり!!」
くそっ、俺は前世と同じ過ちをするトコだったぜ!!
「お母さんの言う通り、確かに体にも良くないよね!! 行くよ、ヴォル!!」
「わ、分かった」
そうして俺は部屋から飛び出した。
「ちょっとシノブ!! せめて着替えてから行きなさい!!」
★★★
「あっ、シノブだ!!」
「あれが二度大陸を救った救国の小女神様ね?」
「凄いね、シノブちゃん、この町だけじゃないよ、大陸全土の英雄様じゃないか!!」
「ちっちゃくて可愛い~」
「シ、シノブさん!! 握手してください!!」
「シノブ様だ!! シノブ様がこっちを向いてくれたぞ!!」
「シノブたん、シノブたん、ツバ掛けて!!」
外に出れば、そりゃ大人気よ。一部に頭のおかしい野郎もいるが。
「隣で歩いてるのがヴォルフラムさんだね」
「大森林を守る次期の森の主……さすがに佇まいが美しいな」
「毛がツヤツヤだし、カッコイイ、強そー」
「常にシノブの傍に控えて守っているんだろ。心強いよな」
「ヴォルちゃん、ヴォルちゃん、撫でて良いかな?」
もちろん隣を歩くヴォルフラムも大人気。
そして自分のお店に行って見たら、こっちも大人気。
行列ができてんじゃん。
その俺の頭にベルベッティアが飛び乗り笑う。
「やっとお目覚めだね」
「うん。よく寝たよ。でもお店凄いね。こんな繁盛しちゃってるの?」
「当然だよ。だって救国の小女神様のお店だもん。レオちゃんはもちろん、フレアちゃんとホーリーちゃんも大忙しだよ。ミツバちゃんも商品が足りなくてヒーヒー言っているんだから」
「あれ、シャーリーは?」
「シャーリーちゃんは激戦の疲れで自宅療養中です、だって」
「叩き起こしてやらぁ!!」
★★★
事後処理は大変だったと思う。
それでも俺と王国の間に入ったニーナがよく対応してくれた。俺自身はほとんど丸投げ。
特に実質的には王国の所有物でもある天空の城を勝手に使い墜落させた事。他にも色々とあるが全て不問。ニーナが手を回しているらしい事をレオから聞いた。
ちなみに墜落した天空の城であるが、そのニーナの権限で周囲は立入禁止、修復したらまた自由に使って構わないらしい。うーん、強権。
王国からは報奨金もいっぱい貰ったし、お店は大繁盛だし、こりゃ老後の心配は無いな。前世の無職から、俺はとうとうしてやったぜ!!
なんてとある日。
俺は竜の山でカップに注がれたお茶を口に運ぶ。当然、お茶はアバンセが入れたもの。そして目の前には手入れをされた庭園。
「ほら、シノブ。お菓子も焼いたぞ」
「焼き菓子まで……どんどんと料理が上手くなるね」
「美味そうに食べるお前の姿は魅力的だからな」
「私……アバンセに餌付けされてる……」
まぁ、実際に美味いから仕方無いぜ!!
そして一息付く。
「ねぇ、アバンセはさぁ、めっちゃ強いわけじゃん。世界征服をしてやろうって気は起きないわけ?」
「それを言うならシノブもだろう? シノブこそその気は無いのか?」
「無いなぁ。やっぱり価値観の問題か」
「俺もだ。こうしてシノブと一緒にいる事が俺にとっての幸せだからな。それに比べたら世界征服など何の価値も無い」
「そ、そんなご機嫌取りはいらないから」
嬉しいなんて絶対に言ってやらん!!
……アルテュールは未来に何を描いていたんだろうな……
もう知る事もできない。
アバンセの手が俺の頬に伸びた。
そして唇が重なる。
「菓子の味がするな」
「いきなりそういう事する?」
「すまない。見てたら可愛過ぎる」
「ド阿呆」
再びキス。
今度はさっきよりも濃厚なキス。お互いの舌が絡まり、濡れた音を立てる。
さらにその手が俺の体にも伸びる。
「昼間っからするつもり?」
「ダメか?」
「……」
「……」
「……ダメじゃないけど」
その途端、アバンセに抱き上げられた。
「い、いつも言ってるけど絶対に最後までしないから!!」
「分かっている。安心しろ」
「絶対にまだしないからね!!」
「『まだ』か」
「笑うな!! このエロ竜が!!」
とにもかくにも、こうして日常が戻るのだった。




