墜落と小心者
「もう、なんなん!!? マジ本当になんなん!!?」
魔弾を放つシャーリー。その頭上からはカニ船からの砲撃、女天使からの攻撃、瓦礫などが降り注ぐ。
「頭を下げろ!!」
ミツバの戦斧がそれらを弾き飛ばす。
「ちょっとミツバ、これマジにヤバイんだけど!!」
「ミツバ『さん』だろがテメェ!! 良いか、死なねぇようにだけ気を付けろ!!」
「でももう防げないって!!」
目の前に女天使の軍団が迫る。
しかしその場に割り込んだのはリアーナだった。
突撃、ハルバードが天使を貫き、さらに薙ぎ倒す。同時に放たれる魔法。無数のシャボン玉が四方八方に放たれ、それは触れれば大爆発を起こす。
「リアーナの姐さん、どうしてここに?」
「助かったけどさ、シノブの護衛は大丈夫なの?」
「うん。シノブちゃんのいる所はある程度の防衛機能があるから大丈夫だって。とりあえずここは私一人で受け持つから、ミツバさんとシャーリーちゃんはフレアさんとホーリーさんの応援に行ってあげて」
「リアーナは一人で大丈夫なの?」
「おい、リアーナの姐さんがそう言ってんだ。フレアとホーリーの所も大変なんだろ、おらっ、行くぞシャーリー」
「分かった。けど少し休めない?」
「うるせぇ、後にしろ!!」
「人使いが荒過ぎる!!」
なんてシャーリーは言いつつもミツバに続くのだった。そんな二人を見送ってリアーナは……
「今までみんなに任せて休んでいたからね。全力で行くよ!!」
ハルバードを構え直すのだった。
★★★
轟音に天空の城が激しく揺れる。
目の前のモニターはどれも赤く点滅し、警戒音を鳴らす。城中から火の手が上がる。コノハナサクヤヒメが消火に駆け回るがそれも全く間に合わない。
『出力低下中。城主様。落ちます』
「どっちが!!?」
『どちらもです』
「カタリナ。落ちる相手をこっちで受け止めて。そのまま王都の上から移動する」
それから間も無く。
ドズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ………
下っ腹に響くような低音。それは天空の城が圧し潰され崩れる音。美しかった城の外観が崩れ落ちる。
カニ船が落ちても、この城は落ちない……王都上空から移動するまでは。
天空の城は高度を落としながらも、王都から移動する。そして王都から離れると、そこで墜落した。
激しい衝撃と共に城も瓦礫と崩れ落ちる。
……
…………
………………
「……カタリナ。大丈夫?」
『申し訳ありません。城主様、限界です』
「……ごめんね。せっかくのお城だったのに……こんな事になって……」
『しばらくは私も眠りにつかせて頂きます』
「しばらく?」
『はい。天空の城には自動修繕機能がありますので。私の力もそちらに必要となります』
「えっ、元通りになるの!!?」
『はい。一年程は掛かりますが』
「そんだけ!!?」
天空の城、想像以上に凄い!!
そんなやり取りをしていて気付く。女天使軍団も撤退していたのである。
★★★
「あのね、シーちゃん、アストレアがアルテュールを連れて逃げた姿を見たのよ~でも追わなかったわ~ユー君に止められたのよ~」
「母さんと俺なら追えたと思う。でもシノブの指示も受けられなかったし、少ない人数で追うのは危険だと判断したんだけど」
「ユリアンのその判断は正しいよ。そもそもユリアンもヴイーヴルさんも消耗が激しいでしょ。その状態じゃ色々と不安だもん。それにみんなも本当に無事で良かったよ」
アルテュールが逃げ出す姿はビスマルクも確認していた。一応カニ船には居たみたいだな。
一時的とはいえ天空の城を失った。そして激戦でユニコーンの角も大半を失った。ただ王都を守った意味の大きさを考えれば安いもんだ。何より仲間が誰も死ななかったんだから。
★★★
これは後からロザリンドとベルベッティアから聞いた話。
俺達がカニ船と戦っていたのと同じ頃。
島国。
ロザリンドは飛竜で忍び込み、いつものようにベルベッティアが偵察として潜入する。
「簡単にして効果的、大胆な作戦だよね」
偵察を終えたベルベッティア。
「でもそれは手駒が分からないからこその作戦ね。私達には無意味だわ」
ロザリンドの言葉にベルベッティアも頷く。
アルテュールは島国から徴兵する為に、王族を脅していたのだ。
『従わなければ一人ずつ殺し、一族を根絶やしにする』と。
実際に誰かが囚われたわけではない。それでも従った理由……それはアルテュールが王族全員の細かな行動や、たわいない会話を把握していたからだ。
つまり『こちらはお前達をいつも監視している。そしていつでも殺す事ができる』という脅し。その場にアルテュールはもちろん、他の誰もいない、そんな場合でも全てを見抜かれていた。
その得体の知れない力を恐れたのだ。
だがしかし。
「アルテュールの主要部下はもうほとんど残っていない。その大半が王都だわ。その中で該当する能力を持つ者」
ロザリンドは言う。
それはおうし座の女。調査や監視に特化した一人。遠隔地の透視、複数の目を持つ千里眼。しかし戦闘力は皆無。
その部下であるプレアデス七姉妹、最後の一人がいるが、この一人は遠隔地の透視まではできない。姿を消して王族の傍に隠れる事は可能だが、複数人の監視も不可能だろう。
「つまり、アルテュールのハッタリ」
「ベルちゃん。島国の方へは私から話をするわ。任せてもらえるかしら?」
「にゃんにゃん。ロザリンドちゃんがそう言うならね」
★★★
相手の本来の作戦。
アルテュールが王都を陥落させる。そして統率が乱れた所で島国の兵を投入して王国を支配。その後に帝都へ。そんなシナリオだったのだろうが……そのアルテュールがアストレアと共に島国へと逃げ戻る。
ただその逃げ戻った先。
反旗を翻す島国。
島国の国王の前にアルテュールが映し出されていた。それは実体の無い幻影。
『あのさ!! どういう事なんだよ!!? 分かってるのか!!? お前達なんていつでも殺せるんだぞ!!』
そこに余裕を持って飄々としていたアルテュールの姿は無い。焦り、強張った表情を浮かべている。
国王は言う。
「だったらまず私を殺して見せてくれ。その言葉が真実なら従おう」
『お前の子供や孫から殺してやる。覚悟しろ』
そのアルテュールの後ろから小さな女の声。その瞬間、顔に怒気が宿る。
『ロザリンド、ベルベッティア!!? メロペー、メロペー!! なぜ報告をしないんだ!!? 裏切ったのか!!?』
メロペー、それはプレアデス七姉妹最後の一人。この島国で王族を監視していたのが彼女。
隠れていたロザリンドとベルベッティアが姿を現す。
「……彼女は裏切ってはいない。けど捕らえているわ」
と、ロザリンド。
『クソッ、あの役立たず!! 俺の作戦を失敗させやがって……』
「あははっ、違うよー失敗したのはあなたが小心者だからだよ。自分のせいだよね」
アルテュールの言葉にベルベッティアは笑う。
「シノブと比べてあまりにも無能」
唸り声を上げるアルテュール。顔を真っ赤にして姿を消す。
小心者……おうし座がここを監視していたのなら、ロザリンド達が入国した時点で何かしらの動きを起こしただろう。ただそれが無かった為に、監視しているのはプレアデス七姉妹最後の一人だと確信した。
本来なら島国はアルテュールにとって最後の砦、おうし座に監視させるべきだった。それをしなかったのは、より強力なおうし座を手元に置きたかったから。つまり不安により、適材適所を見誤った結果。
ここでアルテュールの野望はほぼ潰えるのである。




