ゴーレムと初めての戦い
2年の月日なんて過ぎてみれば本当にアッと言う間だったな。よく学び、よく遊び、よく頑張った毎日だったと我ながら思うわ。
シノブは14歳になりました!!
育ち盛りのお子様は2年間でどれくらい成長するんでしょうね?
「してないじゃん!!」
叫ぶ。
「どうしたシノブ?」
「ねぇ、ヴォル。私、少しは大きくなったよね?」
「身長はまた少し伸びたな。その分、また少し重くなった」
確かに、少し身長は伸びた。確実に成長はしている。ただ、その成長の伸び幅が驚く程に少ない。身長もそうだが、胸がよ!! おっぱいがよ!! 全然、大きくならねぇのよ!! でも下の毛は少しだけ生えた。ただ髪の毛と同じく体毛も白いのでほとんど分からねぇが、まぁ、そこは良しとしよう。
「その話が出るって事は今日身体測定か。毎年毎年同じ事を言っている」
「まぁ、恒例行事ですから」
★★★
「これはこれはリアーナさん、本日はお日柄も良く、絶好の身体検査日和ですね」
「シノブちゃん……どうしたの、その口調?」
「いえいえ、豊満な胸を持つリアーナさんが気分を害されないよう、貧相な胸の私は気を使っているだけなんですよ」
「豊満って……わ、私は普通だよ……」
「確かめさせて頂きます」
リアーナの胸を下から持ち上げてみる。
ズシンッズシンッ
「ふざくんな、この野郎」
リアーナの野郎、クラスのカテゴリーでは大きい胸の部類に入ってやがる!! 俺は無い部類の中でもトップを独走している状態なのに!!
「これのどこが普通だ!!?」
モミモミ、モミモミ
「ちょっ、や、止めて、あっ、はっ、あっ」
「変な声を出してるんじゃないよ!!」
「シノブちゃんが変な所を触るから!!」
リアーナの身体的な成長が目覚しい。胸の大きさもそうだが、その体はメリハリが付き、実に女性的な体型に近付いていた。その中で時折見せる、子供の表情がギャップとなり実に魅力的、俺というオッサンを引き付けてしまうぜぇ。結婚するならアバンセよりもリアーナと結婚したい。
そして成長しているのは体だけではなかった。
それは剣技の授業。
相変わらずテトにボコられる俺だったがリアーナは違う。
模造剣を手に、対峙する二人。
テトの鋭い踏み込みからの一撃。リアーナはその一撃を難無く避ける。
そして避けながら、流れるような動きでテトの胸を剣先でチョンと突き、首の辺りをポンッと軽く叩く。これが本物の剣だったら……テトは一瞬で心臓を貫かれ、その首は胴体から斬り離されている。
テトも学校の中では最強レベルだったが、そのテトに今のリアーナは圧勝。それも本気を出さずに。
魔法の授業でも、その魔力量、その知識量などは初等学校に通う生徒のものではない。
勉強以外、全くダメダメな俺とは大違い、これがリアーナ育成計画の結果だった。今のリアーナは初等学校どころか、高等学校も含めて、まさに最強!!
リアーナはわしが育てた。
まぁ、実際はアバンセとサンドンなんだけどね、育てたのは。人型の二人は武芸全般学問全般、共に優れているという、まさに最強の教師だった。
ちなみに人型のサンドンは人の良さそうな白髭のお爺ちゃんだったぞ。
とにかく、これでリアーナは問題無く高等学校に進学出来るだろう。もしかしたら、お姉ちゃんと同じ王立学校ですら狙えるかも知れない。
順調順調だぜ。
★★★
その順調な毎日に、それは突然に起こった。
学校の授業中。
教室に飛び込んできた教師の顔は驚きと戸惑いに満ち、その顔色は青ざめてさえ見える。そして授業をしていた担任教師に耳打ち。一瞬で担任教師の表情が変わる。
「これからみなさんには学校の地下に避難してもらいます」
もちろんクラスメイト達はその理由を聞くのだが、先生はそれに全く答えない。
「これは訓練ではありません。速やかに避難して下さい!!」
その厳しい口調に事態の深刻さを伺わせる。
「シノブちゃん、外!!」
リアーナに言われて窓の外に目を向けると……
うわー……どう考えても普通じゃねー……こんなの見た事ねー、しかもこれって……アイツじゃね?
竜……それは小型の飛竜。空を覆うような金色の飛竜の群れがエルフの町の上空を飛んでいた。
「人形使いの三つ首竜」
世界の頂点に君臨する5人の竜のうち1人。金色に輝く鱗を持ち、ポキール、ピンサノテープ、イスウという独立して思考する頭を持つ三つ首竜。
人形使いと称される理由は、三つ首竜が機械仕掛けの自動人形、ゴーレムを従える事からそう呼ばれていた。
飛竜と呼ばれる生物はいるが、金色の飛竜は存在しない。つまり今、空を飛ぶのは精巧に造られた機械仕掛けのゴーレムなのだ。
そして機械仕掛けの金色飛竜達が向かっていた先。
「ねぇ、リアーナ。これって竜の山……アバンセの所に向かってない?」
「う、うん……」
「……協定……ねぇ、これってサンドンが言っていた協定に関係があるんじゃないの?」
三つ首竜がここに現れたなら、その原因は協定にあるとしか思えねぇよ。
「でも2年も前の話だよ?」
「分かんないけど……私、ちょっとサンドンの所に行ってくる!!」
「ダメだよ!! 先生が避難しなさい、って」
「だって協定が関係しているなら私のせいだし」
「でも……」
「それにアバンセは友達なの。友達が私のせいでピンチなら、私が助けてあげないと。そんなわけでリアーナ、後はよろしく」
「……分かったよ。私も行く」
「いやいやいや、危ないでしょ」
「アバンセさんは私にとっても友達だし、シノブちゃんも友達だから。シノブちゃんが行くなら私も行く」
「まぁ、なんて聞き分けの無い巨乳でしょう?」
「それは関係無いよね!!?」
「まったく。後で先生にメチャクチャ怒られると思うけど覚悟してよね」
「もちろんだよ」
エルフの町の中はまさにパニック。悲鳴、怒号、絶叫、混乱の中、住人が右往左往と逃げ惑う。
そりゃそうだ、三つ首竜がゴーレムを引き連れて現れた。ゴーレムが現れた場所は壊滅的な被害を受けると聞く。つまりこのエルフの町もそうなる可能性がある。
それも俺のせいで……このまま黙っているわけにはいかねぇ!! まずはサンドンの所に行って、今の状況を聞かなければ!!
ガーガイガー道場跡地にはヴォルフラムが居た。
「ヴォル!!?」
「やっぱり来た。リアーナも一緒なのか?」
「ヴォルちゃんはどうして?」
「金色の飛竜の形をしたゴーレム。三つ首竜のだ。協定が関係しているんだろうし、そうならシノブはここに来るんじゃないかって。リアーナまで一緒とは思わなかったけど」
「ヴォル、ナイス!!」
★★★
「どんさん!!」
「シノブ、私の名前をわざと間違えるな」
「挨拶みたいなもんだから。それより三つ首竜!! やっぱり協定が関係しているの?」
「そうだ。パルもヤミも今こちらに向かって来ておる」
世界の頂点に君臨する5人の竜のうち1人。
轟竜パル。
そしてもう1人。麗しの水竜ヤミ。
2年前。アバンセがサンドンの領域を侵した。だから三つ首竜とパルとヤミはアバンセを倒しに来た。そういう事。
「でも何で今頃なんですか?」
サンドンがリアーナの疑問に答える。
「寿命の長い竜にとって2年など大した時間ではない。つい最近の感覚なのさ」
「でもどうすれば良いの? アバンセもサンドンも敵対しているわけじゃないんだから、サンドンが説明してくれれば事は収まるんじゃないの?」
「ヤミは大丈夫だろう。ただパルと三つ首竜はアバンセと戦う口実が欲しいだけだからな。止めるのは無理だ」
「どういう事?」
「パルは5人の中で一番若く、血気盛んな竜でな。最強とも言われるアバンセと勝負がしたいのさ」
「三つ首竜は?」
「単純に仲が悪い」
「そんな理由で?」
「そうだ」
「ふ~ん、シバこ」
なんつー迷惑なボケナスども。
そんな事で俺等の町に被害が出るかもと考えたら、そりゃシバくしかないでしょ。
「とりあえず私はヤミに事情を話してくる。お前達はどうするつもりだ?」
「そりゃもちろん。私とアバンセ対三つ首竜とパルのタッグマッチでしょ」
「シノブちゃんも竜相手に戦うって事!!? さすがに無理だよ!!」
「まぁ、秘策があるから」
俺が神々の手という特殊能力持ちである事はサンドンに説明してあるが、リアーナにはまだ説明をしていない。別にリアーナを信じていないわけじゃない。何かあった時に巻き込まないようにだった。
「ヴォルちゃんも止めてよ!!」
「……」
ヴォルフラムはチラッと俺の顔を見た。
「……リアーナ。後で説明するから、私を信じて」
★★★
俺の能力は限定的で、ここぞという時にしか使えない。けどリアーナとヴォルフラムがいれば、そのここぞという時まで能力を温存出来る。二人の助けは大きい。
リアーナの腰には剣、背中には弓と矢、肩から掛けたバッグの中には魔導書が入っている。どれもリアーナ育成計画のためにサンドンの所に備えてあったものだ。
俺は弓も魔法も全くダメ。上手く使えるとは思えないが、それでも一応腰に剣を下げていた。そして数本の短剣。さらに背中には長槍。その穂先には槍と斧の刃先が付いた武器、ハルバードを背負う。
持てる武器を持ち、巨大化したヴォルフラムの背中に乗る。こんな町中で巨大化したら普段は周囲が騒ぎになるのだが、この混乱の中では誰も気に留めていなかった。
「じゃあ、行くよ!!」
「うん」
「分かった」
そうしてヴォルフラムは駆け出した。
逃げ惑う人々を避けるため、建物の上を飛び跳ね駆けて行く。相変わらずのジェットコースターだぜぇぇぇっ!!
しかしその途中。
「シノブ。マイスの声が聞こえる」
「お父さんの!!? 何で!!?」
「分からない。けど金属音……何かと戦っているみたいだ。少し離れた場所だけど、どうする?」
一刻の時間も惜しい……けど、お父さんが何かと戦っていると聞いて無視は出来ない。
「ヴォル、そっちに行って!!」
そしてそこで見たのは……
「ねぇ、あれ!! シノブちゃんのお父さんじゃない!!?」
町の中、大きな通り。
剣を持つお父さん、そして数人の大人が道を塞いでいた。
「お父さんの戦っている相手って……」
そのお父さんの正面、人よりも数倍大きな巨人。獣の形をしているモノもいるが、巨人も含めてその形はどこかおかしい。足の数であったり、頭の数であったり、見た事がない。まるで玩具の部品を無造作に取って付けたようにも見える。
様々な異形の怪物が町の中に侵入していた。
お父さんが剣を振るう。
ガゴンッ
重たい金属音と共に斬り飛ばされた怪物の首、飛び散るのは銀色の液体と機械部品。
「ゴーレムだ」
ヴォルフラムの言葉に俺は頷く。
お父さん達は侵入したゴーレム達と戦っていた。剣を振り下ろし、横に薙ぎ、斬り上げる。ゴレームから見れば小さな体、その体から繰り出される凄まじい剣戟がゴレームの群れを耳障りな金属の破壊音と共に押し返す。
「見て見て!! リアーナ、私のお父さん!! 超強くない!!?」
テンション上がる!! 自分のお父さんが強いと嬉しい!!
と言うか、本当に強かったんだな、お父さん……実際にこうやって戦う姿を見たのは初めてだから、今までちょっと疑ってたわ。
「強いけど、他の人が……」
確かにお父さんは強い……が、他の野郎が弱いじゃねぇか!!
ゴーレムにやられ、一人、二人と人数が減っていく。このままだといずれ数の差でお父さんもやられちまう!!
「ヴォル、リアーナ、お願い」
俺は言いながら、背中のハルバードをリアーナに渡す。
「分かった」
「うん」
二人は頷いた。
そしてヴォルフラムは何かを呟いた。溢れ出るような魔力がその体を包む。呟いたのは魔法の詠唱、発動したのは身体能力強化の魔法。
魔法陣を必要としない、詠唱魔法だ。
それに対し、リアーナはハルバードの穂先と反対の部分、石突に小さく刻まれた魔法陣を意識しながら魔法の詠唱を行う。
通常の魔法、発動したのはやはりヴォルフラムと同じ身体能力強化の魔法。
俺はヴォルフラムの背中から降りる。身体能力を強化したヴォルフラムの動きに俺は耐えられない。そして震えるリアーナの片手を取る。
「リアーナ。頑張り過ぎない程度に頑張って。絶対に無理はしない。良い?」
リアーナの力なら何も問題無い相手。しかし命を落とす事もある初めての戦い。
「大丈夫だよ、ヴォルちゃんもいるから」
「ああ、簡単な相手だ。心配する事は何も無い」
「じゃあ、行って来るね」
「私は二人の活躍する姿を目に焼き付けとくから!!」
リアーナは笑った。
そしてヴォルフラムの背に乗り、共に突撃するのだった。




