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リトライ!!─救国の小女神様、異世界でコーラを飲む─  作者: 山本桐生
神々の手編

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再集結と国境都市

 戦況の配信が途切れたとしても聞こえてくるのは圧倒的な相手の力。

 例えば獅子獣人のネメア。

 対峙する数千の王国軍。

 先頭を行くネメアは王国軍の遠距離攻撃を真正面から受ける。弓矢や魔法による攻撃、それらを児戯のように物ともしない。無視し、防御を突破し、そして大軍の中に入り込んで暴れ回る。獅子の突入に混乱する子猫のような王国軍、そこへ女天使の軍団が攻め込んで王国軍は瓦解した。


 別の場所、進撃するのは片翼の女天使が指揮する軍団。

 まるで意識を共有しているかのような一糸乱れない行動で、次々と都市を陥落させていく。

 そして片翼の女天使……アストレア。

「降伏しなさい。これ以上、アルテュール様に抵抗するようであれば……」

 もちろん素直に従う王国側ではないが……アストレアが剣を振るえばそれも一変する。

 先頭に立つアストレアを誰も止める事ができない。ただ一方的に攻め込まれ王国軍は敗北を重ねていく。


 王国軍は人員の総数で上回っているが、その総数が逆転するのも時間の問題だった。

 もちろんお姉ちゃんとか頑張って勝っている場所もあるけども。


★★★


「もーーーう嫌だ、絶対に嫌、僕はもう絶対に他の所へ行かないからな。拷問って言ってもいいくらい酷使されたんだぞ。途中から王国の方が滅べば良いと思うくらいだ。そもそも先頭に立って戦うような類じゃないだろ、僕は。適材適所を無視したあの無能共が。考えると腹が立つ!!」

 タックルベリーが表情を歪めて恨み節。

「私は軟禁されてて見れなかったけど凄いらしいじゃん、ベリー。攻撃に補助に防御に回復に、湧き水みたいに止め処なく溢れる魔力で大活躍」

「だからっておかしいだろ!! 何だよ『湧き水の魔法使い』って!!? もっとカッコイイのがあるだろ!!」

「チョロチョロしてそう」

 と、シャーリー。

「何がだよ!!?」

「それでこっちが『太陽』のリアーナと、『月』のロザリンドと」

「ちょっと止めてちょうだい」

「何で? カッコイイじゃん」

「そ、そうかな? でもまさか自分がそんなふうに呼ばれてるなんて知らなかったよ」

 配信されていた映像。その中で目立った活躍をした者が何人かいる。例えばタックルベリー、『湧き水の魔法使い』などと二つ名で呼ばれていた。

 リアーナは金色の髪から連想された『太陽』と呼ばれ、それと対になるようにロザリンドは『月』と呼ばれる。ロザリンドの長い黒髪が夜を連想させ、そこから月も連想されたのだろう。

「あっ、そうだ、ミツバ。この眼鏡チョー役に立ったよ」

「だろうな、こっちも見てたぜ。あのケイローンを一撃だろ。凄ぇじゃねぇか。って、言うか『ミツバさん』だろうが、シャーリーてめぇ!!」

「それとヒメちゃんも強かったのよね~シーちゃんをしっかりと守って~関心しちゃったわぁ~」

「ヴイーヴル殿、もっと、拙者をもっと褒めてくだされ!! そして撫でてくだされ!!」

 再び、全員集結である。

 平野防衛都市を奪還したのが大きい。これによってニーナの発言力が高まったのだろう。俺の要望が通り、再集結である。

 ただそれは同時に俺に掛かる期待が半端ねぇ事を意味する。


「さて。じゃあ、みんな。集まってワイワイしたいのも分かるけどそれは後で。これからの作戦を発表……しません!!」

 ……

 …………

 ………………

「シノブちゃん? 発表しないの?」

 リアーナの言葉に俺は頷き、言葉を続ける。

「作戦はあるけど、教えられない。少しでも作戦がバレたらパァになるから。だけど勘違いしないで。裏切り者がいるとか、みんなが信じられないとかそんな話じゃないの。僅かな表情、作戦の為の意図した行動、そんな所から微妙な変化を感じとるようなのが相手だからね」

 そして少しの間を置き。

「……それでも私を信じてくれる?」

「もちろん。じゃあ、今回はシノブちゃんにお任せだね」

 リアーナはそう即答した。

「俺もだ。シノブを信じる」

 と、ヴォルフラム。

「私達はシノブ様のメイドですので」

 ホーリー。その隣でフレアはニコニコと笑っていた。

 そしてみんなが頷いてくれる。嬉しい。

 ただ全く誰にも作戦を教えない、というわけにはいかない。補佐が必要という事でビスマルクとベルベッティアだけには後で作戦を話しておこう。

 そうして再び戦いが始まるのだった。


★★★


 元々貸し与えられたのは2000人。さらにニーナから500人。合計2500人という大人数。まぁ、500人は予備兵として後方支援や物資補強をしてもらおう。


 さてと。大まかに説明すると大陸の右側6割程が王国、左側4割程が帝国。その他に小国がちょろちょろと。未開の土地は右下。って感じ。

 その中に国境都市と呼ばれる場所がいくつかある。その名の通り王国内に築かれ、帝国との国境に位置する。

 ここは国境都市の中でも、地図上では一番下に位置する所。各地の戦況を考慮した結果、俺達の目的はそこ。


 そしてこれは俺が後から報告された状況である。


★★★


 目の前の国境都市。

 山林の中、天然の丘を砦として利用する都市である。そこからかなり離れた位置、偵察班として先行する、キオ、ベルベッティア、ハリエットの偵察班。

 キオが向ける視線の先。そこには木々の姿しか見えない。しかしそのカトブレパスの瞳はさらに先まで見透していた。

「……こ、膠着状態みたいです。お、女の人がいます、あの翼が片方だけの……」

「アストレアかな?」

「そ、そうです」

 ベルベッティアの言葉にキオは頷く。

「シノブとベルちゃんのお話の通りですね」

 ハリエットは言う。もちろんキオもハリエットもアルテュールの能力の事は聞いていた。そして各地の戦況から、ここにいるのはアストレアだと予想していたのだ。

 シノブの推察ではアルテュールの目的は王国と帝国との分断。さらに国境都市はその役割から防衛能力も高く、拠点としても利用できる。

 その足掛かりとしてここを選んだのだろう。


「ハリエットちゃん。改めて聞くけど、どの程度の可能性があると思う?」

「……可能性は高いと思っています。ただ帝都から遠く、小国の動向は充分に把握ができていません……申し訳ありません」

「キオちゃんはもう少し周りをお願い」

「は、はい」


 国境都市……つまりすぐ隣は帝国領。

 帝国内にはいくつかの小国が存在する。その中で帝国に敵意を持つ小国の一つ。それがこの都市のすぐ隣。

 帝国と王国が友好関係にあるならば、それと敵対するアルテュールは、その小国にとっては協力を思慮するような存在。それは敵の敵は味方。

 そこでシノブは気付く。国境都市を占拠する戦力としてアストレア軍だけでは足りない事に。つまり小国との挟み撃ちが絶対に必要なのだ。

 そしてここを拠点とし、小国はアルテュールの支援を受けて帝都へと攻め上がる。帝都としてはその対応に追われるだろう。

 それと同時に帝国領の小国が王国の国境都市を攻め込んでしまえば、王国と帝国、二国が協力をする可能性は無くなってしまう。これが王国と帝国の分断だ。


 それを防ぐ為にシノブはここにいるのだ。

 索敵範囲を広げたキオはその姿を捉える。

「……い、います……国境の所……帝国領の兵士が見えます……数は私達より少し多いくらい……です、はい」

 これで確定。アルテュールと小国は繋がっている。

 そしてアストレア軍、小国軍の人数、配置などは即座にシノブへと伝えられるのだった。


★★★


 元国境警備隊であるビスマルク。その彼にとってはこの山林での戦いは慣れたものだった。

 自身が先行して国境都市へと向かう。

 逆にアストレア達の女天使軍は、空を飛べるその翼の優位性が山林では思うように発揮できない。

「互いの距離を離し過ぎるな。ヴイーヴルもあまり前に出るな。狙い撃ちにされるぞ」

「はいは~い、大丈夫よ~」

 自身の姿さえ隠すような巨大な大剣クレイモアを軽々と振るうヴイーヴル。女天使はおろか背後の巨木でさえ斬り倒してしまう。

「オラッ、どけ!! 邪魔だ、ボケ!!」

 それはミツバも同じだった。小さなドワーフの体であるが、鎖の付いた巨大な戦斧をいとも簡単に振り回す。

 第一本隊は国境都市へと近付いていた。


 少し離れた位置。戦況を窺うキオ。

「リコリスちゃん、来ます。リアーナさんに連絡お願いします」

「任せなさい!!」

 すぐにリコリスは飛び出す。


「タカさん、行きます!!」

「よし、やってやろうじゃないか」

 報告を受けたリアーナ隊。その目的はただ一つ。アストレアを倒す事。


 戦場から少し離れるようにして移動するのはミランとドレミドの第二本隊だった。

 向かうのは国境の最前線。目的は小国の侵入阻止。

「ミラン。質問があるんだが」

「ドレミドが質問なんて……珍しいな。基本的に何も考えてないだろ」

「酷い!! わ、私だって考える事はあるぞ!!」

「はいはい、で、質問は?」

「少し強引でも帝国側から小国を抑える方が良かったんじゃないか?」

 帝国内での問題として片付ける事で、王国との関係を損ねない。そういう行動もできたはずだった。

「……各小国にはある程度の自治権を許している。確実な証拠が手に入らない以上、疑いでその行動を制限する事はできないんだよ」

 アルテュールと小国の繋がり。それは状況証拠でしかない。

「それでもだ。直面した危機を考えるなら、帝国皇子としてミランが行動するべきだったと思うぞ」

「……もちろん同じ事をシノブには言ったけどな。返事は『ごめん』だった」

「どういう事だ?」

「作戦の通り、国境都市を守り、小国の侵入が防げればそれが一番良い。けどシノブは作戦の失敗、小国が国境都市に攻め込んでも良いと思っている」

 眉を顰めるドレミドは次の言葉を待つ。

「……帝国が巻き込まれる……つまり王国と帝国、二国が攻められる事で逼迫した現状を周囲に伝える事ができるからな」

 ミランも感じていた事。それは各国の楽観的な態度。

 シノブと行動する事で、ミランは神々の手の凄さを知っている。だからこそ同じ神々の手であるアルテュールの恐ろしさを想像する事ができた。

 しかし今、各国は面子だ何だと協力する事をしない。その歯痒さを感じていた。だからこそシノブが考えているだろう事に共感してしまう。

 被害が出れば……否応無く協力しなければならないと……

「……でも……シノブはそんな事を考える子じゃないぞ」

「……ドレミド、そろそろ国境が目の前だ。油断するなよ」

 ミランは会話を打ち切るのだった。

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