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リトライ!!─救国の小女神様、異世界でコーラを飲む─  作者: 山本桐生
神々の手編

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秘密兵器と奪還

「ちょっとシャーリー、本当ですの?」

「何、リコリスは疑ってんの? このあたしを」

「いや、疑うだろ、普通に。大丈夫か?」

「ユリアンまで……魔弾で貫くよ」

「ね? 謝ろ。見栄を張ってゴメンなさい、って。謝った方が良いよ。ね?」

「マジ、ヤル気無くすから。アリエリのアホンダラも余計な事を言うんじゃないよ。マジ何なん、みんな」

「確かその魔弾は見える相手にしか使えないだろ」

 ミランと同じく、俺だってその特性は知っている。

 シャーリーの青い魔弾。見えない相手を追跡する事もできるが、それでも撃つ時には見える対象が必要だ。最初から見えない相手に撃つ事はできない。

 赤い魔弾は、その場で姿の見えない相手に撃つ事もできるが、攻撃力は皆無。

 ケイローンと同じ飛び道具であるが、その射程はケイローンの方が圧倒的に長い。

 それでもシャーリーはできると言い、ユリアンとリコリス、二人と合流してこの平野防衛都市近くまで来ていたのだ。

 広がる平野。

 視線の遥か先、平野防衛都市が見える……ような気がする程度に、まだ離れていた。米粒よりも小さいんだけど。

「まぁ、あたしを信じなさいって。それより二人こそ大丈夫なの?」

「わたくしもユリアンも速さには自信がありますから。それこそ余計なお世話ですわ」

 リコリスの言葉にユリアンも頷く。


 まず作戦としてケイローンを誘い出す必要がある。

 その為に、ヴォルフラム、リコリス、ユリアンが突撃する。

 出てきたケイローンをシャーリーが倒す。

 そこにニーナから借りた兵を連れたミラン、ハリエット、アリエリが向かう。

 そんな流れだった。


「シノブ。俺がいなくて本当に大丈夫か? ハッキリ言って不安で仕方無い」

「そんな事言ったってさ、人が少ないんだから。ヴォルも行かなきゃ無理だよ」

「分かってはいるんだが……」

「ヴォルフラム殿、拙者にお任せ下され!! 立派にぃ、立派にぃ、シノブ殿をお守り致しますゆえぇぇぇっ!!」

 コノハナサクヤヒメは俺の腕の中でグルングルンと回転する。

「分かった。ベルベッティア、シノブを頼む」

「うん、ヴォルちゃんも気を付けて」

「ですから拙者がぁぁぁぁぁっ!!」

 このスライム、戦えるのだろうか……基本的にスライムって最弱の魔物なんだが。

「お兄様、私達も準備をしましょう」

「ああ。これだけ離れていれば大丈夫だと思うが、敵に見付かったらすぐ逃げろよ」

「あのね、私はね、ヒメに期待しているよ」

「アリエリ殿ぉぉぉぉぉっ!!」

 しかしうるせぇ……


★★★


 平野を駆けるリコリス、背中の翼で空を駆けるユリアン。その二人の速さは尋常ではなかった。米粒程にも見えなかった平野防衛都市にグングンと迫る。

 近付けば、その姿は捉えられ、空のスクリーンへと映し出される。

 そして映し出されているはずだが、その物体が何だかは認識できなかった。深い灰色の塊が二人より早く都市へと迫る。

 俺はスクリーンを見上げて思わず呟く。

「あれってヴォルだよね……ちょっと速過ぎない?」

 ヴォルフラムのあまりの速さに、その姿が映像にはハッキリと映らないのだ。いつもは俺を乗せているから速さをセーブしていたんだろうな。本気になったヴォルフラムのその速度には誰も並ぶ事ができない。


 やがて……

 平野防衛都市の方向、遥か遠く離れたここからでも見える。微かに空が光る。俺は頭上のスクリーンと交互に視線を走らせる。

 空から降り注ぐ光の矢の合間を駆ける三人。密集するような光の矢を紙一重で避け、スピードも落とさず駆け抜ける。

「ちょっとシャーリー!!」

 シャーリーへと振り返る。

 シャーリーは眼鏡のツルの部分に触れ、クイクイと動かす。そして。

「……見えた」

「見えた? ケイローンが? ベルベッティアは見える?」

「……全く見えないよ。多分、誰も見えないと思うけど」

「いやさ、この眼鏡って、実はあたしの秘密兵器。ミツバに作って貰ったんだよ」

 シャーリーは指をクルクルと回す。その指先に青い光が灯る。そして言葉を続ける。

「あたしの魔弾は見える範囲に飛ばせるから、遠くまで見えた方が良いと思って。この眼鏡に魔力を通すと、遠くのものが拡大されて見えるんだよね」

 つまりそれは望遠鏡。

「この距離を最高速で撃つからさ、多分あたしブッ倒れると思う。後お願い」

 その指先が平野防衛都市へと向けられた。

 それはシャーリーの力の全てを込めた魔弾。


 まさに一瞬。

 そのあまりの速さに、魔弾という点ではなく、空には突然青い直線が現れたようにも見えた。それは空を分割するかのように平野防衛都市の上空を越えて、さらにその先まで。

 そして映像にはしっかりと映し出されていた。ケイローンの心臓部位を貫く青い光が。

 そのままケイローンは一枚の紙切れへと変化し、都市へと降り落ちるのだ。


「ちょっとシャーリー!! マジで凄いじゃ」

 シャーリーはその場に膝から崩れ落ちる。その体を俺は咄嗟に抱き止める……つもりが実に非力!!押し潰され、下敷きになる。

 しかしやった事を考えるなら、俺程度いくらでも下敷きになろうぞ!!

 シャーリーは気絶していた。その頬をベルベッティアが舐める。

「凄いよ、本当に。あはっ、反撃の狼煙。まさかシャーリーちゃんが上げるなんてね」

「シャーリー殿ぉ、見直しましたぞ!! ただの小生意気なジャリん子ではありませんでした、拙者、シャーリー殿もこの命に変えてお守りします!!」

 小生意気なジャリん子と思ってたんだ……


 そしてまずヴォルフラムが突っ込む。その勢いのままに城壁を駆け上がり、都市の中へと飛び込んだ。それにユリアンが続く。

 リコリスは正面から、恐ろしい程の打撃で鉄製の城門を叩き壊す。

 さらに少し遅れてミラン達三人が500人を引き連れて都市内へと攻め込んだ。

 ケイローンのいない今、そこを固めるのは女天使だけ。あの程度の戦力で俺達は止められない。つまり平野防衛都市の奪還はもう目の前だった。


 凄い凄い凄い!!

 まさに電光石火、こんな短時間で奪還できるなんて、正直、俺自身も想定していなかった。しかもほぼ被害無しって、ちょっと全てが上手く行き過ぎなんじゃないの!!

 ひゃっほい!!

 ……なんて浮かれているから気付かないのだ……空に浮かぶ映像の一つ、自分自身が映っている事に……つまり相手に見付かっている。

 最初に気付いたのはベルベッティア。その鼻と耳がピクリと動く。

「シノブちゃん!! 近くにいるよ!!」

 俺は咄嗟に腰の短剣を抜く。

 戦えるか分からんが、シャーリーには指一本触れさせんからな!!

 それは頭上からの空襲。

 一人の女天使が槍を構え襲い来る。

 反応したのはベルベッティア。その小さな体が跳ね上がり体当たり。女天使の一撃は俺を掠める程度で済んだ。

「またお前か……アルテュール様の邪魔ばかり……今、ここで、このアルキュオネーがお前を殺してやる……」

 怒りの表情を浮かべる女天使。

 それは無表情、意思を持たない量産型の女天使とは違う。そして俺は彼女の正体を知っている。

 おうし座、イオの部下であるプレアデス七姉妹の一人。状況を空のスクリーンに映し出す役目、そして監視や連絡を主とするキャラ。戦闘向きではないが、俺では全く相手にならない。

 さらに数対の女天使が降りて来る。

 気絶したシャーリーを連れて逃げる事ができるのか……

「ここはベルちゃんが時間を稼ぐから。映像をヴォルちゃんも見ていると思うから、すぐ戻るはずだよ」

 ベルベッティアは全身の毛を逆立て、俺の前に進み出る。

「……分かった。ヴォルが来たらすぐ助けるから」

「うん、お願いにゃん」

「ベルベッティア殿。ここは拙者が」

 コノハナサクヤヒメだった。その透明な体がベルベッティアよりさらに前へと進み出る。そしてその体を中心に周囲で何かが輝いた。日の光に反射するような何か。

 そして女天使が砂となり崩れ去る。

 危険を感じ取ったアルキュオネーはその場から飛び退こうとするのだったが……

「守る約束をしたゆえに」

 コノハナサクヤヒメの体から水が染み出す。そして勢いよく水飛沫が上がる。水飛沫はまるで散弾銃のようにアルキュオネーを貫いた。

 そこで平野防衛都市と俺達を映し出していた映像が途切れた。

 その場に残されたのは一枚のイラストと、少しの水溜り。

「凄い……ねぇ、今のヒメがやったんだよね?」

「もちろんですぞ。拙者、水を操る事ができまして。飛び道具としても、または切れ味鋭い刃としても使えたりするのです」

「驚いたぁ。まさかヒメちゃんがこんなに優れた能力を持ってたなんて」

 ベルベッティアの言葉にコノハナサクヤヒメは嬉しそうにプルルンプルルンと揺れるのだった。

「ごめん、ただの動く水筒くらいにしか思ってなかったよ」

「せ、拙者が動く水筒……」

「でもさすが私のスライム!! ヒメは私にとって最高のスライムだよ、ほら、おいで!!」

「ジノブゥ殿ぉぉぉぉぉっ!!」

 俺は広げた胸でコノハナサクヤヒメを受け止める。でもやっぱり声はキモいな。


 それから少ししてヴォルフラムが戻るのだった。


★★★


 ほどなくして平野防衛都市は奪還される。

 そしてそれと同時、空に浮かぶ無数のスクリーンは全て消えた。ははっ、アルテュールの馬鹿め、今どんな顔をしてるか知らんが、良い気分はしてないだろ。

 アルテュール達が映像を配信した目論見は、その圧倒的な戦力を見せる事により、他国の反抗心を折る事にあったはず。そこには自分達が無残に負ける事など想定していなかっただろう。

 しかし今回、俺達は圧倒的な早さ、そして圧倒的な強さで平野防衛都市を奪還した。それは王国はもちろん他国の士気を鼓舞するもの。

 つまりアルテュールの目論見とは完全に逆効果。

 ひっひっひっ、こりゃ愉快だぜ。

 俺は心の中で笑うのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] スライム強ぇ!!お前の様なイジメられた最弱が居るか、何処で鍛え・・・いや餌か? その姿は、まるで使い魔である。
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