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リトライ!!─救国の小女神様、異世界でコーラを飲む─  作者: 山本桐生
神々の手編

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スクリーンと演説

 島国の全面降伏。

「早過ぎるでしょ……」

 俺は思わず呟いてしまう。

 だってこっちにはアルテュールとの交戦情報すら入ってなかったんだぜ?

 つまり情報が入るよりも早く、島国は降伏した事になる。もちろん抵抗はしただろうけど……それはアルテュールが圧倒的な戦力を持っている事を意味していた。

 そりゃ呟きたくもなるよ。

 とりあえずはロザリンドだ。


「ロザリンド。話は聞いてるよね?」

「島国の事ね」

 島国、そこはロザリンドの故郷。

「まずは落ち着け」

「落ち着いているつもりだけど」

「先走って一人で島国に向かうのも駄目だよ」

「当り前でしょう。私一人が行っても状況が変わるとは思えない。私はここで自分ができる事をするつもりよ」

「あれぇ? なんか思ったより落ち着いてない?」

「いや、だから私は落ち着いているつもりだって言ったじゃない」

「はえー」

「……もちろん心配よ。でも冷静でなければ助ける事もできない。私ができる事は冷静に状況を見極める事。自分勝手な行動はしないわ」

「……ちょっとロザリンド、屈んで」

「こうかしら? 何?」

 ロザリンドの頭の位置が下がる。そのロザリンドを俺は胸に抱いた。

「絶対に大丈夫だよ」

「……ええ、そうね。シノブがいるのだから」

「うん、任せて」


★★★


 開戦である。

 情報も続々と入る。

 位置関係からアルテュールが一番最初に島国へ攻め込む事は多いに想定されていた。もちろん島国側も準備はしていたし、島国に近い大陸側の海岸線にも王国から援軍が送られていた。

 しかし想定以上の圧倒的な攻撃力に島国は耐えられない。そして王国兵の助けも間に合わない速さ。その日数、実に二日。

 小さい国とはいえ、二日間で島国は全面降伏に追い込まれたのだ。


 そんな中で俺達に与えられたのは……

「ド阿呆がぁぁぁぁぁっ!!」

 俺は荒ぶっていた。

 王国から与えられたのは移動しながらの待機。敵の攻撃が始まった海岸線に向かいつつも基本は後方待機である。

 こっちにはキオがいるんだぞ? キオの索敵能力って言ったら、そりゃ他に類を見ない程に強力なんだぞ? その俺達が後方待機って……

 しかも大量の物資を運びながら補給路を確保して……いや、もちろんこれも大事よ。戦い続ける為にはね。

「自慢じゃないけど、私達のトコは王国の正規軍より優秀なんだけど!!」

「シノブ、背中の上で暴れるな」

 ヴォルフラムは言う。

「だってさ、絶対に私達が先頭に立つ方が被害も抑えらえるって!!」

 ブチブチブチッ

「分かったから、毛を毟るな」

 隣にビスマルクが並ぶ。

「確かに私もそう思うんだがな。王国にも面子があるという事だ」

「分かってるけど。そんな事を言ってられる相手じゃない」

「同感だ」

 確かに一団の中には王国兵もいる。ただ俺達の立ち位置はギルドから派遣された冒険者。つまり大陸を救うのは俺達ではない……王国の正規軍でなければならないのだ。


 その王国からの伝令。

 残念ながらこの世界における遠距離の通信手段は、小型飛竜を使って直接に人から人へと伝えるもの。もしくは伝書鳩的なもの。いくら移動速度が速くても、ある程度のタイムラグが発生する。そこは通信手段として便利な魔法を創っとけよとも思うが。

 島国に近い大陸の海岸線からアルテュールの侵攻が始まっていた。扇のような放射状になり、戦線が横長に広がっているらしい。

 戦線が広がっている為、アルテュール側の戦力も分散され、その侵攻を防ぐのは容易だった。


★★★


 それはまるで巨大なスクリーン。


『私がこの世界の王、アルテュールである。島国を占領したのもこの私だ』


 大陸中の主要都市上空にアルテュールの姿が映し出された。


『王国、帝国、共に大国ではあるが、私の手に掛かれば……あのさ、普通に喋って良い?』

『駄目です。アルテュール様、威厳というものが』

 アルテュールの背後から女性の声。

『俺は俺の言葉で話すからさ。威厳とかよりも、その方がちゃんと伝わるって……ああー、中断して悪いね。改めて俺がアルテュール、初めまして』

 そう言ってアルテュールは手を振る。そして一呼吸置き。

『世界の統一。俺が世界を統べる事でこの大陸はもちろん、世界中から理不尽と不公平を無くしたいと思う。もちろん全てを無くす事は難しいかも知れない。けど、それでも……俺は人々が泣いて生きる現実を少しでも減らしたいと思う。その為に痛みが伴うとしても俺は戦ってこの世界を統一するよ。それが俺の目的なんだけど』

 さらにアルテュールは演説を続ける。

『ただ世界を統一しても、こちらから何かを強制するような事はしない。これまで通り王国も帝国もその存在は認めるつもり。ただ国として間違った方向へ向かう時だけに口出しするけど、今までの生活が極力変わらないように配慮する。それに外敵が現れた場合は俺が守る。だから大陸を、そして世界を俺に任せて欲しい』

 そして少しの間を置き、アルテュールは小さく笑う。

『なんて言っても、力が無ければ、ただの夢。子供の戯言として笑われるのも分かっている。だから島国に続いて、向こうを攻め落として力を示すよ。これを見て降伏してくれれば、俺達も貴方達も、双方の被害が少なくて済むから助かる。じゃあ』


 そうしてアルテュールの姿は消えた。すると今度はスクリーンには一つの都市が映し出された。

 幾重にも交差する美しい水路が張り巡らされた都。

 水都。

 それを見た人々は驚き、『ありえない』『無理だ』『できるわけない』と口々にする。

 当然だ。

 そこには麗しの水竜ヤミがいる。

 世界の頂点に君臨する竜の一人


 その水都が攻め込まれるのである。


★★★


 広がっていた戦線、戦力を分散する意味は無い。それは誰がどう見ても陽動であり、別の目標がある事は王国側も予想していた。

 補給路から進路を推察したいが、それが見付けられない。アルテュールの能力を考えれば、そもそも補給自体が不必要な可能性も高い。

 しかしまさか水都とは想像もしていなかった。

 それもそのはず、水都は戦線から王都を飛び越えた先にあるからだ。つまり王都を挟んでの反対側。人数が極端に少なければ、王国の警戒を抜ける事も可能だろうが、その人数でヤミは倒せない。


 アルテュール軍の先頭を行く男は獣人だった。

 獅子の上半身と、人の下半身を持つ大男。女天使を従え進撃する。その数は約500。


 それを迎え撃つ水都の兵。水都は大きく、在中する兵も多い。数はアルテュール軍より勝っていた。


 水都から逃げ出す人々。非戦闘員である住人達が追撃される事は無い。


 接触する獅子獣人と水都兵。

 衝突と同時、水都兵が弾け飛ぶ。それはダンプカーに挑む子猫のよう。獅子獣人、その鋭い爪の生える太い腕が水都兵を簡単に薙ぎ倒す。突進は止まらない。

 それに続く女天使もまた強く、水都兵など相手にならない。数の有利など最初から役に立たなかった。


 映像からは音も流れている。

 武器と武器が当たる金属音。肉と肉が当たる鈍い音。その中でより大きく響くのは獅子獣人の咆哮だった。激しく猛る雄叫びが大陸全土の空を振るわせる。

 そしてそこに重なる悲鳴は水都兵だけのもの。


 やがてアルテュール軍は水都の街中へと侵攻する。

 水都が攻められるのは想定外だった。王国の援軍は間に合わない、周囲に兵を配置すらしていないのだから。


 獅子獣人は美しい神殿へと歩を進める。

 その先にいるのは麗しの水竜ヤミ。


 まるで映画のようだった。

 大陸全土の空に浮かび上がるスクリーンに、次々と水都の様子が映し出されるのだ。


 そしてその中。

 映し出されたのは水都に向かう一団。

 先頭を走るのは黒に近い灰色の巨大な狼。とんでもない速さで駆けるその背中には真紅の瞳を持つ少女。美しい白い髪が流れていた。

 そう、救国の小女神シノブの登場なのである。

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