大敗と冒険者登録
無事に王国へ戻った俺達。
お姉ちゃんは王様に報告へ。
事態は大陸全土を巻き込むだろう。ミランとハリエットは帝国に報告へ。
そして俺はニーナに事態を説明する。
それからすぐだった。
数千人単位の王国軍が未開の土地に派兵されたのは。
調査団に参加していたお姉ちゃんは休養という事で派兵には不参加。お姉ちゃんにとって、それは幸運だったのだろうが喜ぶ事ではない。
大敗。
死傷者も出たと聞く。
この大陸の歴史上、ほぼ全ての戦は大陸内での陸上戦。つまり海上戦の経験は皆無。王国軍の大半は未開の土地に辿り着く前、海上で叩かれたらしい。
あの王国の軍隊が大敗をしたのだ。それはもう王国だけの問題ではない。帝国も動くだろう。独自に動くのか、王国と協力して動くのかまでは分からないが。でもまぁ、協力しないと無理だろうな。
さてその中で俺はエルフの村に戻ったわけだが……
★★★
「まだ見た目じゃあんまり分からないね。いつ頃、産まれるの?」
「まだまだ先よ。年が明けるくらいかな」
「そうかぁ~お~い、お姉ちゃんだぞ~」
お母さんのお腹へと語り掛ける。
実家で団らん中。
このままずっとこうしてたいけどな。
「じゃあ、ちょっと私はいってくるね」
「あんまり無茶をしないように。お母さんをあまり心配させないでよ?」
「大丈夫だって」
俺は笑って家を出る。
「シノブちゃん」
その俺を待っていたのは、同じく帰省中のリアーナだった。
「冒険者のリアーナさぁぁぁん~?」
「え、な、何、その蔑むような視線……」
「定職に就かない無職共の自尊心を守る為に、国が仕方無く与えた役割が冒険者でしょうよ」
「偏見が過ぎるよ!! 冒険者は未知の事象に対する為に、様々な能力を携えた専門職なんだよ?」
「そりゃ、リアーナはそうかも知れないけど、昼間っから酒場に集まって泥酔してるロクデナシは大体が冒険者じゃん」
「そ、そういうのは本当に一部だけで……」
「その冒険者に私もなるんだと思うと……」
「そこまで……でもシノブちゃんは無理に冒険者になる必要は無いんだよ?」
「それはもっと嫌。私の知らない所でリアーナに何かあったら絶対に耐えられないし」
「シノブちゃん……」
嬉しそうなリアーナ。
「それにここでしっかり働いたら、私の商会を色々と優遇してくれるらしいからね!!」
「シノブちゃん……」
呆れたようなリアーナ。
今回の件、王国は総力を挙げてアルテュールに対抗するつもり。
その中で前回、大陸を救った俺にも協力して欲しいとニーナに頼まれた。しかし王国が個人に協力を依頼するなど建前的に問題があるらしい。そこで王国から冒険者ギルドへの依頼とし、冒険者ギルドに所属する俺に依頼が届くという形にしたいそうだ。
その際の莫大な報酬金はもちろんの事、俺の商会にもかなりの優遇を約束された。
つまり、みんなを助けられて、大金を貰えて、さらに商会の地位を高められる、最高じゃん!!
……そんなワケで冒険者登録もしてな。
とうとう俺も冒険者だぜ!!
ちなみにギルドカードってのも貰ったぞ。
★★★
「これだけの人数がいると部屋がパンパンだね」
俺は自店の応接室内を見回す。全員は座れず、ビスマルクとかアルタイルとかは壁際に立ちっぱじゃん。
「さて、私も冒険者になったんだけど、今回、正式にギルドから依頼をされたよ。アルテュールに対抗する為に手伝って欲しいって。それで人員は大陸変動の時と同じで編成してもらったんだけど……」
王立学校のロザリンドや、ビスマルク、ヴイーヴルも俺を手伝うように、王国側から要請をされている。
「基本的に強制じゃないから。危ないし、シャーリーなんか王立学校とも冒険者ギルドとも無関係だから不参加でも構わないよ」
「いやいや、だったら最初から調査団の救出とか手伝わないんだけど。今更遅くない? そもそもさぁ、大陸全体を巻き込む感じでしょ? 無関係とは言えないし、次ぎはあたしの国だろうし。やるよ」
シャーリーの生まれ故郷は魔界と呼ばれる、海を挟んだ別の大陸。確かにアルテュールがこの大陸を支配したら、次は魔界を視野に入れるだろう。
「うん、ありがと。ミランとハリエットは? 帝国側でも何かするんでしょ?」
「こっちの方が役に立てそうだからな」
「お兄様と同じです。私もシノブを手伝います」
「ありがとう。みんなは?」
不参加無し。
相変わらずありがたいこってす。
「それでビックリするんだけど、王国とギルドから人員の補充がね、二千人だって……」
「二千人……もう軍隊ね」
ロザリンドの言う通り、冒険者のパーティーってレベルじゃねぇ。本当に一国の軍隊だぜ。つまりそれだけの期待をされているという事。まだ具体的に何をさせられるかは分からんけど。
「その編成に少し時間が掛かるみたいなんだけど、そこで今回……短期集中リアーナ育成計画改を行います!!」
それは過去、アバンセやサンドンに協力を頼んだ、リアーナの強化特訓だった。
時間に余裕があるなら、少しでも戦力を上げておきたい。
「リアーナが王立学校に編入の際に、これで数段強化をした伝説の計画……それが今、再び……参加者は挙手!!」
「わたくしは参加します!!」
「おお、リコリス早いね」
「当たり前ですわ。リアーナに聞いた事があります。その特訓があったから王国学校に編入ができたし、当時学校最強だったロザリンドとも互角に戦えたと。もちろん参加しますわ!!」
「俺も。少しでも強くなれるなら参加する」
そんなリコリスとユリアンを見て、シャーリーは言う。
「どうしよっかなぁ……あたしの能力って単純な戦闘力とは関係無いじゃん? 特訓とか参加する必要ある?」
「どんな事に巻き込まれるか分からないからな。少しでも強化できる部分があるなら参加した方が良いだろ。それが自分を守る事にもなる」
「思慮深い素敵なお兄様の言う通りだと思います。私は参加します」
「お兄様の前に余計なのが付いてたけど、まぁ、その通りか。んじゃ、あたしも参加するよ」
「あ、あの、わ、私も参加し、したいです」
キオも。
そんなわけで参加者は以下。
俺。
リアーナ。
ロザリンド。
タックルベリー。
リコリス。
ユリアン。
キオ。
シャーリー。
ミラン。
ハリエット。
歳も若く、伸び代のある10人。いや、正直なトコ、俺に強化の伸び代とか無いと思うんで、正確には9人かね。でも俺も少しは強くなれたらなぁ~
ちなみに王国とのやり取りや、人員の編成はビスマルクとフォリオ辺りがしてくれるだろ。
さぁ、いざ特訓だぜ!!




