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リトライ!!─救国の小女神様、異世界でコーラを飲む─  作者: 山本桐生
神々の手編

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153/244

追撃と逃走

 待機中の俺。

 少し離れてはいるが、ここまで戦っている音が聞こえる。

 剣戟の音、爆発の音、そして怒声。

 一際大きな衝撃音だった。次の瞬間、光の矢が空へ上がっていくのが見えた。それは雲を貫き消えていく。

「ちょっとシノブ、何、今の? もしかしてヤバイんじゃない? あたし達も行った方が良くない?」

「お、落ち着きなよ。本当にヤバかったらリコリスなりユリアンなりが報告に来るから」

「そうですね。お兄様が一緒ですから心配ありません」

「変態妹の絶対の信頼感」

「変態……帝国の皇女である私に変態……シャーリーさん、あなたって人はもう……」

「ハリエットさぁ、そうやって身分をすぐ口に出すから嫌われんだって」

「え? 私が嫌われて……?」

「あっ、ご、ごめん、本当の事を……ミランも言ってたから、つい」

「えっ、ま、待って、き、嫌われて? えっ、私が? ミ、ミランお兄様に、はわっ、はわわっ、わわわわわっ、ぐはっ!!」

 ハリエットは白目をむきひっくり返る。

「ちょっとシャーリー!! ハリエットがガタガタ震えてんじゃん!! 嘘言ってんじゃないよ!!」

「わーっ!! ご、ごめん、冗談、あたしの冗談なんだって!! ちょっとハリエット!!」

「うるさい。じゃれている場合じゃない」

 ヴォルフラムに怒られる。

 しかし信用はしているが心配過ぎる。

 たまに空を走る光の矢が怖過ぎる。これあれだ、罠に嵌った時の流れ星からの光の矢。そいつに違いねぇ。あのとんでもねぇ威力の矢が飛び交う戦場とか怖過ぎるだろマジで。

 俺なんか当たったらそのまま蒸発しそ。


 そして長かったのか短かったのか分からない時間の後。

「お姉ちゃん!!」

「シノブ!!」

 姉妹が抱き合う。

 お姉ちゃんだ……無事だった……良かった……マジで良かった……

「シノブちゃん!!」

「リアーナ、ロザリンドも……みんな無事で良かったよ」

 次にリアーナと抱き合う。うん、おっぱい大きい。

 リコリスを抱き上げるビスマルク。嫌がるユリアンを抱き締めるヴイーヴル。こっちも無事。

「シノブ、ヴォルフラム、ありがとう、助かった。久しぶりだけど……シノブはあまり成長はしていないようね」

 と、アデリナ。

「母さん、これでもシノブは少し重くなっている。成長はしている気がする」

「『気がする』程度!!?」

 確かにほぼもう成長は止まっているけども。

 アデリナは笑う。こちらも無事。

「さっそくで悪いんだけど、みんな戦える?」

 俺の言葉にお姉ちゃん達は頷くのだった。


★★★


 ハリエットが指先で張られた糸を弾く。

 次の瞬間、砦の四方八方で爆発が起こる。凄い、糸を張り巡らせ遠隔で魔法を発動させる事ができる。それによりこちらの進行方向を誤認させる。

 先頭を行く俺。

 ハリエットの罠を避けるように進んで行く。

 それでも女天使と狼の追撃はある。

 俺の指示は必要無い。最後尾にはお姉ちゃん、ビスマルク、ミランがいる。的確に動いてくれる。

 さらに。まるで風のようだった。軽やかな足音、しかしその突破力は凄まじく、駆け抜けると同時に周囲の天使と狼とが引き裂かれ砂へと変わる。アデリナの戦闘力が素晴らしい。

 伝令に走り回るリコリス。

「シノブ、パパからですわ。一度止まって後ろの敵を減らすって。その間にハリエットが罠を作り足すようですわ」


 少し止まって戦闘。

 相手を後退させて、こちらは逃走。

 追いつかれてまた戦闘。

 再び相手を後退させて、また逃走。

 ハリエットが絶えず罠を作り続ける。

 苛烈な撤退戦。

 その戦闘は昼も夜も深夜も関係無く繰り返される。その回数、1日で30回を越える。アバンセのいる海岸線まであと数日。

 この状態で辿り着けるのか。

 二日目、夜が明けても撤退戦は続く。


「リアーナとビスマルクさんを下げて、ロザリンドとヴイーヴルさんを出して」

 もちろん全員で戦いっ放しは無理。ローテーションで休ませる。

「シノブ、体が持たない。この場で仮眠させろ」

 タックルベリー。確かに限界だ……タックルベリーだって相手の排除と仲間への回復でブッ通し。むしろ立っていられるのが不思議な程だろ。

「フレア、この場に防御魔法を張って。少し休むよ」

「はい」

「ヒメ。ベリー、ほれ、水」

「ありがたいけど……」

 俺が呼ぶとコノハナサクヤヒメがヴォルフラムの背から飛び降りる。そしてタックルベリーの元へ。

「直接吸うも良し」

「いや、だからスライムなんだが? 本気か?」

「大丈夫、本当にそういうスライムだから」

 俺はコノハナサクヤヒメを抱き上げ、その透明で弾力のある体に直接口を付ける。チューと吸うと水分が。

「おいおい、本当になんだ……そのスライム……」

「名前はコノハナサクヤヒメ。ヒメって呼んで」

 タックルベリーは差し出されたコノハナサクヤヒメを受け取る。

「名前まで……」

 そして口を付けてチューチューと吸う。

「はい、間接キス」

「いや、もうそれで戸惑う子供じゃないからな、僕は」

「子供心を忘れた大人に育ちよって。ああ、それとホーリーも休んで」

 常に傍で立つホーリー。

「いえ、私はまだ大丈夫です」

「駄目。フレアとホーリーは防御の要、どちらかが必ずいられるように、どちらかは必ず交代で休んで。それとハリエットも」

 ハリエットも罠に一晩中奔走している。少し休ませないと。

「それとシャーリー。大変だと思うけど負傷者の回収をお願い。あとミランを捕まえてこっちに呼んで。回復役になってもらうから」

「了解、任せて!!」

 シャーリーが駆け出す。

 タックルベリーがいない今、回復魔法を使えるミランを呼び寄せる。

「ヴォルはここに敵が近付けないようお願い」

「分かった。任せろ」


 少しの間。

 敵の追撃も止む。向こうも絶えず攻撃を加えられる程の人員はいないのだろう。それとこちらにとって好都合なのはあのケンタウロスがいない事。

 あの野郎がいるだけで撤退戦の難易度はグンと上がる。

 しかし再び。

 休んでいたみんなを起こして、また戦闘。

 落ち着いたら、今度は別の仲間を休ませる。ヤベェよ、ギリギリ過ぎる。少しでも行動を間違えたら全滅の可能性を感じるぜ……

 他の調査団メンバーも怪我人が増えていく。回復魔法も間に合わない。

 その中、気を失ったドレミドが運ばれてくる。運んできたユリアンは言う。

「ごめん。ドレミドが無理しているのは分かっていたけど……」

「いや、私のせいだよ。ユリアンはまだ大丈夫?」

「俺もギリギリだけどまだドレミド程じゃない。危ないと思ったら休むから」

 そう言ってユリアンは戻る。

「頑張ってくれたんだね。ありがとう」

 ドレミドの頬を撫でた。

 そう、完全に俺のせいだ。ドレミドの負担が大きいのは分かっていた。だけどその攻撃力、休ませるには惜しかった。そしてゴーレムであるドレミドならば……そんな考えも脳裏にあったのかも知れない。それでも頑張ってくれた。もう感謝しかねぇよ。


★★★


 そして二日目も終わり、三日目、四日目、五日目……

 もうそろそろ海岸線のはずだが……


 ロザリンドの刀が女天使を斬り倒す。天使は砂へと変化し崩れ去る。そのロザリンドに並ぶリアーナ。

「ロザリンドちゃん下がって。私が入るから」

「もう少しだけ」

「無理し過ぎだよ」

「捕まったのは私達の責任。シノブ達を巻き込んで。その私達が頻繁に休んでいたら申し訳ないわ」

「ここに来たのは私達の責任なんだから。つまらない事言ってんじゃないよ!!」

 リアーナから話はされていた。ロザリンドが無茶気味だから俺から何か言って欲しいって。

 俺は言葉を続ける。

「申し訳ないと思ってるなら私の指示を聞いて。はい、休め」

 ロザリンドは笑う。

「分かったわ。でも危なくなったらすぐに呼んで」

「もちろん。リアーナも無理はしないでよ」

「うん。大丈夫だよ」

「ここは大丈夫だ。私もいるからな!!」

 ドレミドは復活済み。体調も万全とは言えないが、それでもその戦いっぷりは鬼神のよう。振るった剣が天使と狼とを斬り飛ばす。

「うん、ドレミドもお願いね」

 しかし……

 限界が近い。

 回復役のタックルベリー、フレア、ホーリー。三人の回復魔法が間に合わない。調査団の怪我人は増え続け、こっちの進行速度が遅れている。

 しかし海岸線も近いはず。

 ……

 …………

 ………………やってもらうしかない。

 俺はお姉ちゃん、アデリナ、ビスマルク、ヴイーヴル、ドレミドを集める。現状の戦闘能力トップ勢。

「シノブ。何か作戦があるんだね?」

 お姉ちゃんの言葉に頷く。

「五人はここに残って、後ろを食い止めて」

「ああ、分かった」

 ビスマルクは即答。

「そんな簡単に……」

 俺は言葉を失う。ここに残って敵を食い止める。これは状況を考えれば捨て駒みたいなもん。

「でも~ほら~シーちゃんだから~シーちゃんが提案する事なら全員無事に助かると思うの~」

 ヴイーヴルは微笑みながら間延びした声で言う。

「シノブが言うなら、私は何だってするぞ」

 そう返事するのはドレミド。

「ヴォルフラムに聞いているの。シノブに付いて行けば間違いは無いって。だから私もシノブに従う」

 アデリナも言う。

 俺を抱き締めるお姉ちゃん。

「お姉ちゃんに任せなさい」

「うん。絶対に死なないでよ。赤ちゃんができたんだから」

「っ!!?」

 お姉ちゃんは俺の肩をガッと掴み、引き剥がした。

「お、お姉ちゃん?」

「あ、ああ、ああ」

「ああ?」

「あ、赤ちゃんって、シ、シノブ、相手は誰なの? もしかしてアバンセ? 竜の花嫁なんて噂は聞いていたけど……ま、まさかパル? お姉ちゃんの知っている男の人なの?」

「いや、私じゃなくて。お母さん。まだ妹か弟かは分からないけど」

 お姉ちゃんが安堵の息を吐く。

「ビックリした……まさかシノブが妊娠したのかと思った」

「あはは、違うよ。私じゃないって」

「でもまさかお母さんが……それも驚きだけど」

「聞いてなかった?」

「まだね」

 確かにお母さんの妊娠と、お姉ちゃんが行方不明になった報って、ほぼ同時だったもんな。

 そしてお姉ちゃんは微笑む。

「じゃあ、なおさら死ねないね」

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