救出作戦と未開の土地
「とても……かわいいです。これがあのアバンセだなんて」
ハリエットは言う。
俺の胸に抱かれる小さいヌイグルミのようなアバンセ。
「ハリエット、覚えておけ。この俺、不死身のアバンセは世界の頂点に立つ竜だと、な、何だ、このスライムは!!?」
そのアバンセを押し退けるようにコノハナサクヤヒメが登ってくる。
「あ、この子、コノハナサクヤヒメ。飲める水を生み出せるスライムなんだよ。ヒメって呼んで」
そう、最近色々と試して分かったのだが、その水、飲める。人体に無害である事が分かった。
「ちょっと待て、そんなスライムがいるなんて聞いたこと無いんだが」
タックルベリー。
「俺も初めてだ。でも確か。ベリーも吸い付いてみれば良い」
ヴォルフラム。
「それにしてもアリエリは大きくなりましたわ。本当にゴーレムでも成長するのですね」
リコリス。
「うん、ちゃんとね、身長も伸びてる。でもね、リコリスみたいにね、胸はね、まだあんまり大きくならない」
アリエリ。
「あはっ、まだアリエリちゃんは気にしなくて良いんだにゃん」
ベルベッティア。
「ドレミド、後で俺と試合をして欲しいんだけど。どれぐらい強くなれたか他の人とも戦って確認がしたい」
ユリアン。
「もちろん構わないぞ。どれくらい強くなかったか楽しみだぞ」
ドレミド。
「キオさぁ、その目、カトブレパスの瞳って色々と便利なんでしょ? それを使って何か楽して稼ごうよ。あたしが力になるからぁ」
シャーリー。
「えっ? ええっ?」
キオ。
「てめぇは詐欺師か。キオ、この馬鹿の言う事だけは絶対に聞くなよ」
ミツバ。
ワイワイと会話が弾む。
「……」
まぁ、アルタイルだけは別だけど。
そのみんなの間でフレアとホーリーがお茶を運んだり、お菓子を運んだりしていた。
「ははっ、賑やかで楽しそうだ」
タカニャが笑う。
「でも、そろそろ限界だろう。あの顔は」
ミランがチラッと視線を向ける先は……
ドンッ!!
テーブルが大きく叩かれる。
そこには怒りの表情を浮かべたフォリオ。
「馬鹿なのか、お前達は? ここに遊びに来たつもりだったのか? だったら俺は帰るぞ」
ここは俺のお店の応接室。
もちろんここに集まったのはお姉ちゃん達の救出について話し合う為だ。
「馬鹿の中にはアバンセも含まれてると思うんだけど。フォリオ、焼き鳥にされんじゃね?」
シャーリーは小さく呟く。
「くっ」
言葉を失うフォリオ。
「するわけないだろう。まぁ、なかなか良い根性をしているとは思うがな」
「いや、ごめんなさい。確かに無駄話している余裕は無いよね。で、話を最初に戻すけど、未開の土地で行方不明になった調査団の規模を考えれば、私達にも相当の危険があると思う。もう一度よく考えて決めて、一緒に行くか行かないか」
お姉ちゃん、リアーナ、ロザリンド、ビスマルク、ヴイーヴル……この場にいる全員で対峙しても簡単な戦力じゃない。それが行方不明となれば、それ相応の事態に巻き込まれたはずだ。
「……ここに集まっている時点で『はい、やめます』なんて奴はいないだろ。話を続けろよ」
タックルベリーだ。
その言葉にみんなが頷く。
俺は話を続ける。
「できれば未開の土地に作られた都市の情報が手に入れば良いけど、私達の最優先事項はお姉ちゃん達の救出。その為に調査団が進んだ経路をそのまま進むつもり。調査計画は王国が立てたものだから経路予定もその筋の人にお願いして教えて貰えるよ」
もちろんそれはレオ経由でニーナに頼んである。
「調査団は海路で入ったけど、私達はアバンセに海岸線まで乗せてもらって、そこからは徒歩移動になる。それでね、フォリオさんはここでの待機をお願いします」
「どういう事だ?」
「正確にはこの上の天空の城でです。ええとですね、天空の城の城主は私なんですが、城自体は王国の物でもあるんです」
俺個人が天空の城を動かして、島国も加わった王国の調査団を助ける。調査団を組織した王国側にしてみればそれでは面目が立たない。
「だから基本的に天空の城は使わないつもりですが、場合によっては仕方なく利用します。ただ、利用する時は相当に切羽詰った状態だと思うので、外部から状況を見て自らの判断で動ける人が必要なんです。だからこそフォリオさんにお願いします」
「はいはーい、質問。アバンセとかパルがいるんだから、一気にみんなで乗り込んじゃえば簡単なんじゃない?」
シャーリーはそう言う。
確かに、パッと考えればそれが一番簡単の方法なんだろう。ただシャーリーはリアーナも体育教師ホイッスルを持っている事を知らない。
「シャーリー。リアーナも竜を呼び出す笛を持ってるの。リアーナのはサンドンとヤミを呼び出す笛だけど、どっちも使われてない。状況を考えれば使ったけど届いてない方が可能性高い気がする」
「それって未開の土地が竜の罠という事かしら? あの時と同じ……」
リコリスは言うが……
「シノブが竜の罠に閉じ込めれた後だからな、俺達は笛により強く力を込めた。俺の知る程度の竜の罠では笛の力を抑える事はできないはずだが」
アバンセの言う通りだ。
昔、竜の罠から出た後にアバンセ達全員が笛の力を増強していたのは俺も知っている。
「竜の罠より、さらに強い結界があるかも知れない。そう仮定したらアバンセ達の力は使えないよ。だからアバンセには海岸線で待ってもらうよ」
「心配だが仕方無い。分かった」
そんな感じで救出作戦について話し合い、いざ出発だぜ。
★★★
さすがアバンセ。全員を背中に乗せたらかなりの重量だと思うが全く問題にしない。未開の土地までノンストップで飛び続ける。そして速い。
普通なら急いでも一ヶ月以上は掛かる距離を半日掛からずだ。
未開の土地、目の前に森林が広がる。
「じゃあ、タカさん、アルタイル、ミツバさん、お願いします」
「ちょっと姐さん!! 何で俺が待機なんすか?」
「いや、ミツバさん強いから」
「ありがたい言葉ですが、素直に喜べねぇ……」
「ここは任せて、安心して行ってきな」
そう言ってタカニャは笑顔を浮かべる。
俺達に何かがあった時の為に、三人を海岸に残す。
状況を正確に判断して行動ができるタカニャ。能力に汎用性があり、どんな状況にも対応ができるアルタイル。戦力として単純に強いミツバ。
「じゃあ、アバンセも。いってくるね」
「ああ、気を付けろ」
そうして俺達は森の中に足を踏み入れた。
先頭をミランとハリエットが先行する。
その後ろにリコリスとユリアン。
さらにその後ろ、俺、ヴォルフラム、タックルベリー、フレア、ホーリー、キオ、シャーリー、ベルベッティア。
最後尾をドレミドとアリエリが固める。
その異常に俺はすぐ気付く。
状況を外部へすぐ伝えられるように、天空の城のカタリナと繋がっている指輪。本来はほんのりと光っている指輪から、その光が失われている。
「カタリナ、ねぇ、カタリナ、聞こえる? カタリナ」
指輪に向かって語り掛けるが返事は無い。
「カタリナちゃんと連絡が取れない?」
ベルベッティアが俺の肩に駆け上がる。
「うん。遮断されてるみたい」
「竜の笛が届かないのも含めて意図的に遮断されているのかな。どうする? 一度出直す?」
「今戻っても何の進展も無いよ。もう少し進んでみる」
さらに続けてヴォルフラム。
「……視線を感じる」
キオのカトブレパスの瞳には光が帯びていた。俺が指示するよりも先にキオは索敵、周囲に視線を走らせている。
「……見えないです……誰も……近くにはいないです……はい」
「ヴォル、視線の方向は分かる」
「分からない。けど見られているのは確か」
キオの目でも見付けられない視線の持ち主。それだけでここが異常である事が分かる。
「俺が先に進んで様子を見てくるか?」
そうユリアンは言うのだが……
「ううん、駄目。そのまま分断される可能性がある……全員が私の見える範囲にいるように!! 分かった、ミラン、ドレミド!!」
「ああ、分かった」
「分かったぞ」
それから数日。森の中を深く進むのだが、たまに魔物が現れるくらいで他に何の問題も無い。
ただ常に何者かの監視を受けているような感覚を受けているのであった。
「さて、襲撃があればそろそろだから、みんな油断しないでいこうね」




