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リトライ!!─救国の小女神様、異世界でコーラを飲む─  作者: 山本桐生
地獄のタワーディフェンス編

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瀕死と戻った二人

「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 死ぬ!!?

 斜面の上を転がり落ちる。痛みなんて感じない、ただ強い衝撃が体中を突き抜ける。そして自分でも分かる骨の折れる音。

 深い穴の底、一際大きな衝撃で叩き付けられた。

 仰向けの体、空が見えているような気がする……けど視界がボヤけてよく分からない。全身の感覚が無い。指先すら動かせない。ただ口の中に広がる鉄の味だけが分かった。

 幸いだったのは落ちた場所が垂直ではなく少しだけ斜面であった事。大通りを抉り取っただけの落とし穴なので、その斜面に柔らかい土などが含まれていた事。穴の底まで、たまたま岩のスパイクに当たらなかった事。そんな偶然が重なって即死を免れた。

 けど……多分……助からねぇよな……絶対これ瀕死だし……

 これだけの大怪我だとホーリーやタックルベリーの回復魔法でも無理なんじゃないかと思う。そして二人レベルの回復魔法を使える人間はここにいない。

 やっぱり死ぬのか。

 まぁ、後はベルベッティアやミランがどうにか乗り切ってくれるだろ。


 もちろん心残りはいっぱいあるけどな。

 与えられた二度目の人生。短いなりに一生懸命生きたと思う。だからか……最後はこんな残念な形だが、思ったよりも心は穏やか。


「シノブ様!!」


 これが走馬灯ってヤツか。

 今、ホーリーの声が聞こえたような気がしたぜ。

 体中が温かい、お迎えか。これが死ぬって感じか。ゆっくりと目を閉じる。


「シノブ様!! しっかりして下さい!!」

「……」

 なんかホーリーの声がメッチャ近い。

「シノブ様!!」

「……」

 なかなか意識が落ちない。あれ死なないの? もしかして実はもう死んでいたりして? 誰かが頬に触れる感覚、それがハッキリと分かる。

 今度はゆっくりと目を開けてみる。

「シノブ様!!?」

「……あれ……ホーリー?」

「はい、ホーリーです」

「夢じゃなくて?」

「夢ではありませんよ、シノブ様。大変遅くなって申し訳ありません」

 そこに居たのは間違い無くホーリーだった。幻でも走馬灯でもない。

 上半身を起こす。何処も痛くない。立ち上がっても。やっぱり何処も痛くない。

 ちなみに前歯もきちんと再生している。つまりこれは回復魔法ではなく、ユニコーンの角の力。ホーリーは角を手に入れられたのだろう。

「ホーリー……おかえり」

「はい、シノブ様。ただいま戻りました」

 そしてホーリーは俺を抱き上げると、落とし穴の斜面を駆け上がるのだった。


★★★


「シノブ!!」

 落とし穴から抜け出すと同時、シャーリーが駆け寄る。

「心配掛けてごめん」

「ホントだよ、転んで穴に落ちるとか笑えないよ」

 転んで……か。

 周りを見回す。テトの姿は見えない。

「ヴォルとドレミドは?」

「この人達が来てくれたから、先に怪我人を連れて戻るって」

「フレアも、おかえり」

「はい、ただいま戻りました」

 ニコッと笑うフレア。いつもの温和な笑顔。

 フレアとホーリー、二人のご帰還だぜ!!

 付き添ってエルフの町から抜ける。戻った二人の防御魔法は黒い炎程度では簡単に崩せない。その間に話を聞く。

 二人は俺が天空の城の城主になった事を噂で聞いた。同時に近々黒い炎の襲撃がある事を思い出し、それに合わせて戻るつもりだったそうだ。

 だからこそギリギリで間に合った。二人が居なかったら俺は確実に死んでいただろう。

「シノブのメイドって事はこの二人がフレアとホーリー?」

「そうだよ。二人とも、この子はシャーリー。うちの新しい従業員」

「そうでしたか、シャーリー様、よろしくお願いします」

「シャーリー『様』だって、自分の事だけど似合わねぇー。けどよろしく」

 そう言ってシャーリーは笑う。

 その様子を見て、フレアもニコニコと笑っていた。


 そうして無事に竜の山まで戻るのであった。

「シノブ!! 大丈夫か!!?」

 ヴォルフラムだ。

「もちろん。それにほら」

「ちゃんと前歯も元通りになったんだね」

 アリエリの頭に乗るベルベッティアが言う。

「それにしても転んで罠に落ちるなんて間抜け過ぎるだろ」

「ミランもそう聞いてんの?」

「シノブが助け起こそうとした奴。そいつが言っていたが……違うのか?」

「ああっ、そうだっ!! これでミランの右手も治せるじゃん!! だよね、フレア、ホーリー!!」

 シャーリーが大声を上げる。

「ミラン様の右手がどうかされたのでしょうか?」

「これだよ、これ!! ちゃんと動かないんだよ!!」

 そしてミランの右手を取る。

 それはそれで良いんだけど……テトの野郎、どういうつもりだ? 俺を殺すつもりだったのか? それとも立ち上がるつもりで俺の手を引いただけだったのか? さすがに殺される程の事をしたつもりはないんだが……恨みは自分の知らない所で買ってたりするからな。分からん。

 とりあえずは無事で良かったけど。


★★★


 フレアとホーリーが戻っての七日目。

 黒い炎の発生が減っているのに気付く。そこで二人も含めて再び町の中に進行、黒い炎を排除していく。そしてその夜、黒い炎は完全にその姿を消した。

 天空の城、カタリナからも連絡が入る。王都や王立学校でも黒い炎の襲撃が落ち着いたらしい。

 まだ警戒を解くわけにはいかないが、もう落ち着いたのかも知れないな。


 それからさらに一日、様子を見てからエルフの町へと戻る。

 大穴の空いた大通り、土壁で迷路のようになった町、建物の損害も相当にある。被害は軽微とはとても言えない。それでも死者が出なかったのは救いだ。命さえあれば町は元に戻る。

 まぁ、大穴と土壁は俺が能力を使えるように戻ったら直すつもりではあるけど。

 復興の道は長そうだぜ。

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― 新着の感想 ―
[一言] テトはシノブが死んでも良かったとか殺そうとしたってのなら死んだ方が良かったと言う目に合わせないとな
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