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リトライ!!─救国の小女神様、異世界でコーラを飲む─  作者: 山本桐生
地獄のタワーディフェンス編

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迷路と落とし穴

 住人全員が竜の山へと逃れる。

 黒い炎は人の負の感情から生まれる。その為に攻撃対象は人や町。

 竜の山に逃れた俺達を黒い炎は追って来るのだが、その数は少なく迎撃するのは簡単だった。ただ問題はエルフの町だ。再び黒い炎が現れ、町を破壊している。

 このまま黒い炎が消えるのを待てば良いのかも知れないが……故郷がこのまま破壊されるのは我慢ならん!! 少しでも反撃してやる!! その為に準備もしたんだからな。


 三日目。

 黒い炎が消える事は無い。

「ミランも、ベルちゃんも、頭の中に地図は叩き込んであるよね?」

「もちろん。毎日毎日、穴が開くほど眺めていたからな」

「うん、大丈夫だよ。でも本当にこんな事になるなんて思わなかったけどね」

「ん。じゃあ、行こうか」

 俺の言葉にみんなが頷く。


 俺とヴォルフラムとシャーリー、アリエリとベルベッティアとタカニャ、ミランとドレミド……と、三つに分ける。そして少数の警備隊員を含めて三つのグループを作り、エルフの町へと向う。

 お父さん達は大勢の住人の護衛の為に山中へ残るのだった。


★★★


 エルフの町。

 町の中にはいくつもの土壁が立ち上がり、ちょっとした迷路のようになっていた。そして、ここの土壁の向こうは、っと……

 ふへへへっ、思った通り、黒い炎が居やがるぜ。

「んじゃ、ヴォル。お願い。みなさんもやっちゃってください」

 俺の言葉にヴォルフラムはもちろん、警備隊員の人達も頷いた。そして……


 ヴォルフラムは黒い炎の前に飛び出す。そして体当たり。警備隊員の人達も槍などの長物で黒い炎を遠くから突き落とす。

 そう、落とすのだ。

 黒い炎の後ろは大穴を空けた大通りだ。そして大穴の底には鋭い鋭い槍のような岩のスパイク。ここに落ちれば無事では済まない。そこにどんどんと黒い炎を突き落としていく。


 別の場所でも、みんなが同じように黒い炎を穴に突き落としているはず。

 戦って倒すのではなく、ちょっと押してやるだけ。これなら比較的簡単に黒い炎の排除ができる。

 そして迷路の中をまた進み、黒い炎を見付けては突き落とす。それを繰り返した。


「ねぇ……シノブ、これって本当に全部シノブが考えたの? 本当に?」

「そりゃそうでしょ。気合い入れて考えたよ、楽しかったし」

 ゲームみたいでな!!

 土壁でエルフの町に迷路を作り出す。それはエルフの町の外側から入り込んだ場合、大通りの落とし穴へと誘導するように配置されていた。

 その配置を俺はもちろん、ミランとベルベッティアにも暗記させていた。

「前もってこうなる可能性も考えていたんでしょ?」

「まぁね。エルフの町の命運を私が握っているなんて考えたらさ、いくつも可能性を考えるよ。これに関しては当たって欲しくなかったけどね」

「……ちょっと凄過ぎるって。シノブって本当に凄いよ、本当に胸が小女神様だよ」

「ふっ、もっと褒め称えよ。けど何で今『胸』を入れた?」

「ノリで」

「ノリか」


★★★


 四日目、同じ事の繰り返し。

 黒い炎を落とし穴の中に突き落としていく。

 その間にも天空の城、カタリナからの連絡が入る。

 王都も王立学校も何とかサンドンの力で持ち堪えているが、竜の力があっても首の皮一枚の崖っぷち。天空の城備え付け砲台で援護してやりたいが、俺が城に居ないと使えない。


 五日目、同じ事の繰り返し。

 同じ事の繰り返しに、警戒心は薄れ、行動が作業的になってしまう。こういう時にこそ気を引き締めないとミスが起こるんだよな。

 なんて思っていた矢先。

「シノブ、後ろから黒い炎だ」

「嘘、だってここまで一本道じゃん?」

 ヴォルフラムの言葉にシャーリーが振り返る。

「……どこか壁が崩れたのかも」

 即席で造った壁だ。強度には不安があった。壁の一部が崩れ、そこから黒い炎が入り込んだのだろう。

「ヴォル、ちょっと見て来てもらえる?」

「分かった」

 ……多分、同じような事は他の所でも起こっているだろう。これからもっと増えるだろうし、この作戦は限界かも。

 ヴォルフラムが戻り次第に次の作戦へ移ろう。


 もう排除は無理。被害ができるだけ小さくなる方向に作戦をシフトする。

 エルフの町から出て、外側から町の中に入ろうとする黒い炎をできるだけ排除。正面からは戦わずヒット&アウェイでチクチクとな!!

「ねぇ、シノブ、今度はどういう作戦?」

 と、シャーリー。

「中の壁が崩れても迷路としては使えるからね。黒い炎を閉じ込めて、行動を制限する事はできる。それで今度は少しでも町の被害を減らす為に、中に入る黒い炎を倒す事にする」

「それって中の壁が崩れた後の事も考えていたんだよね?」

「もちろん」

「この後は?」

「状況やこっちの戦力によっても変わるけど、それはね……」

 考えていた作戦をシャーリーに説明していく。

 しかし想定外の出来事だってもちろん起きる。しかもまさかそれが仲間内の行動からだとはな……


★★★


 作戦を変更しての六日目。

「それは確かなのか?」

「確かみたい」

 ミランの言葉に俺は頷く。

「有志の人達、20人くらいがエルフの町に向かったって。もちろん私はそんな指示出してないよ」

 そう、俺の指示を無視して勝手に行動を始めたのだった。

 俺が作戦変更をした事に対する反対意見があるのは分かっていた。主張としては敵が大多数だから押されたのであり、今のちょっとした迷路になった町ならば大多数を相手にしなくても済む。それに町を無抵抗で破壊させるわけにはいかない。そう考えた若い有志の面々が行動を起こしたのだ。しかし……

「シノブちゃんはどう思う?」

 ベルベッティアの質問に俺は即答。

「危ないよ」

 言葉を続ける。

「確かに黒い炎は弱い。けどそれはきちんと訓練を受けた警備隊員と比べてだよ。ちょっと訓練しただけの有志の人達だけじゃ絶対に危ない」

「そうだな。きちんと訓練を受けた警備隊員に比べて、ちょっと訓練しただけの有志じゃ危ないな」

「あのね、ドレミド、今ね、シノブが同じ事を言ったよね? 特にね、何も無いなら静かにしてて。ね?」

「酷い!! みんなアリエリが酷過ぎるぞ!!」

「ドレミドはうるさい」

「ヴォルまで!!」

「でもさ、何でそれで行っちゃうんだろうね?」

「シャーリーには無視される!!」

「勘違いしたんだと思う。ミラン達が最前線に立っていたから比較的安全に戦えていたのに」

「シノブにもだ!!」

「お前、本当に静かにしてろ」

「……はい」

 ミランに言われてドレミドはしゅんと小さくなるのだった。

 それにしても有志の野郎共は何も分かっちゃいない。ミランが、ドレミドが、アリエリが、最前線で黒い炎と戦い、周りを補い助けていたからこそ誰一人死者を出さずに済んでいた。

 なのにそれを理解できない若いのが勝手に行動しやがって……

 俺は大きく溜息。

「ほっときたいけどね。まぁ、そういうわけにはいかんでしょ」


 助けに行くにしても町中の黒い炎を増やしたくはない。ベルベッティアとアリエリ、それとミランは町の外側で黒い炎の侵入を阻止してもらう。

 有志の助けに向うのは俺とシャーリーとヴォルフラム。そしてドレミドだ。

 俺とシャーリーを背中に乗せるヴォルフラム。さすがの足だ。町の中を風のように駆けて行く。そして凄いのはそのヴォルフラムに自らの足で付いて来るドレミド。瞬発力も持続力も普通の人間の比ではない。

 そのドレミドが剣を抜きながら、ヴォルフラムの一歩前へと飛び出す。そしてさらに加速。

 目の前に見えた黒い炎を一瞬で薙ぎ払った。

「シノブ。においが近い」

 ヴォルフラムの鼻が有志達のにおいを嗅ぎ付ける。

「ドレミド!! もう近いから間違って有志の人達を斬らないでよ!!」

「ああっ、大丈夫だ!! 気配が全然違うから私にも分かるぞ!!」

 ドレミドの剣が黒い炎を斬り飛ばしながら町の中を駆けて行く。


 そして……

 最悪だ、有志達が居ると思われる場所……罠の所に近い。さらに有志達を実際に見付けて……最悪中の最悪だ……落とし穴を背に追い込まれてやがる……もう黒い炎に落とされる寸前。

 シャーリーの動きは早い。俺が指示するよりも早く魔弾を放つ。同時にドレミドが黒い炎の中に飛び込む。

 周囲の黒い炎を蹴散らし、そして俺とシャーリーはヴォルフラムの背中から飛び降りる。

「ここにいる人で全員ですか?」

「そ、そうだ……すまない……」

 申し訳無さそうな表情を浮かべる有志の面々。

「動けない人をヴォルに乗せます、早く、手伝ってください」

 ヴォルの背中に10人近くの怪我人を乗せる。

「ヴォル、大丈夫?」

「大丈夫だけど、速くは動けない」

「うん、分かってる」

 思った以上に怪我人が多い。未熟なクセしてイキりやがって、ハッキリ言って超迷惑なんだが。そしてその中に知った顔を見付けてさらに頭来るぜ。

「シノブ……」

「テト……どういうつもりでこんな事をしたわけ?」

 そりゃ文句も言いたくなるだろ。

 今にも穴の中に落ちそうな所でヘタリ込んでいるテトを見付けた。

「俺は……町を護りたかっただけだ」

「その結果がこれ? だったら勝手な事をしないで」

「……お前には分からない……」

「どういう事?」

「ここは俺達が生まれ育った町だ。その町が壊されて黙っていられるか」

「その気持ちは分かるよ。私だって」

「お前はこの町の人間じゃないだろ。所詮は捨て子なんだからな」

 言葉を遮るようにテトは俺を睨み付けた。

 一瞬だけ怒気が沸点に達するが……

「はいはい。ほら、そこは危ないから早く立ちな」

 まともに相手するだけ無駄。テトに手を差し出す。

 テトはその俺の手を握り、思い切り引く。

「えっ?」

 そしてバランスを崩した俺の体は落とし穴の中へと落ちていくのだった。

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