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リトライ!!─救国の小女神様、異世界でコーラを飲む─  作者: 山本桐生
地獄のタワーディフェンス編

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不純物と負の感情

 話は少し前に遡る。


「そんなワケで私がエルフの町を護る事になったんだけどさ、アバンセは黒い炎について何か知ってる?」

 ここはアバンセが俺の為に建てた屋敷。

 そこでチビ竜アバンセを胸に抱いていた。

「ああ。もうそんな時期か。もちろん知っている。原因は俺達でもあるからな」

「マジ? どういう事なの?」

「あくまでサンドンの推論だ。これには竜脈が関係しているらしい」


 竜脈とはアバンセ、サンドン、パル、ヤミ、溢れ出す竜の力が大陸を巡り回る道。それは大陸の安定に貢献している。

 しかしその流れに不純物が混ざってしまう。溜まりに溜まった不純物が一定周期で噴き出すのが黒い炎ではないのか……それがサンドンの推論だった。


「でも何でそれが狙ったように大陸の重要施設を襲うわけ?」

「逆と考えるべきだな。黒い炎が現れる場所に重要施設があるのだろう」


 アバンセはさらに説明を続ける。

 各々の竜の力が交わる場所があり、そこは竜穴と言われ、分かりやすく言うならばパワースポット。不思議とその付近は発展するらしく、結果として竜穴に重要施設が建つ事が多くなるとの事だった。

 しかし噴き出す力の強い竜穴は、竜脈に混ざった不純物も強く噴き出す場所でもある。


「でも普通そんな所に重要施設造ったりする? そもそも住みたいとも思わないでしょ、黒い炎が出る所なんて」

「シノブ、立ち上った黒い炎がどのような姿になるか知っているか?」

「そりゃ過去の記録も調べたからね。魔物みたいなのもあるけど、多くは人間型や獣人型に……」

 ちょっと待て。何でわざわざ黒い炎が人型や獣人型になるんだ? サンドンの説が正しいなら黒い炎は不純物。不純物が人や獣人の姿に変わるのなら……

「……私達自身のせいでもあるって事?」

「サンドンはそう考えたな。人の恨み、妬み、嫉み、負の感情がその場に溜まり積もってゆく。同時に竜脈にも混ざり込む。そして一定以上溜まると噴出するのではないか」

「人の負の感情を元にしているからこそ、人や重要施設を攻撃する……」

 竜穴の付近に人々が住み着いたからこそ、黒い炎が現れた……そういう事なのか……

「本当の所は分からないがな」

「何か対策は?」

「恩恵だけ受け取れる上手い話は無い。それに過去を見ても損害は微々たるものだ。王国も対策はしているだろう」

「王国側はサンドンの話を知ってるの?」

「ヤミ経由で聞いてはいるだろう。ただ知っているのは一部だろうな。この事を公表すれば俺達に非難が向く、それを避ける為とヤミからは聞いている」

「まぁ、アバンセ達から受ける恩恵の方が遥かに大きそうだもんね。公表して好転するような話でも無いし」

「しかし安心しろ。シノブは俺が守る」

「はいはい、ありがとう。ついでにパルにも協力お願いしとこ」

「な、何故だ!!? 俺一人だけでは足りないと言うのか!!? 不死身のアバンセだぞ!!」

「協力は多い方が良いし」

「確かにそうだが……」

「でもアバンセには一番期待してるよ」

 アバンセをギューっと抱き締める。

「ああ、任せろ!!」

 チョロいわ、こいつ。


★★★


 エルフの町。

 大森林の中の町。大森林の中とはいえ、ド田舎の集落という感じではない。ここ最近は俺の商会の事もあり、周囲との交流は盛んであり、町も発展している。

 町の中心部、体感的には直径2キロ程度の円の中に大通りが何本か走り、ここには商店や町を維持する為の施設がいくつもある。俺の店や、お父さんの働く警備隊の本部、病院、学校などだ。

 その円の外側、囲むように居住地が広がっていく。俺の家もそこ。

 そこをお父さんとタカニャと警備隊員50名、そして募った住人の有志が150名、そして俺達を含めた約200名で護るわけだが、まぁ、記録を見る限りは余裕だろ。

 って言うか、エルフの町が黒い炎に襲われた記録は無いけどな!!

 交易都市が襲われた記録はあるが、それも数えられる程度の敵数で交易都市の城壁を越えられなかったらしい。交易都市の中に直接現れた黒い炎も住人にタコ殴りにされ霧散したとの記述がある。

 要は大した脅威でも無いのだ。

 でも一応な、警戒はしとかんと。


 お店の応接室でミラン、ベルベッティアと顔を付き合わせる。

「黒い炎ってそういう話みたいなんだけど、ミランはサンドンに聞いた?」

「ついさっき聞いた」

「ベルちゃんは知ってた?」

「ううん、でも何度か見た事はあるんだよ」

「実際に? どんな感じだった?」

「黒い炎……と言うよりは靄かな。黒い靄が突然、地面から立ち上るの。そして姿を変えて襲ってくるの。ただベルちゃんが見た感じでは数も少なくて、命を失うような脅威にはならなかったはずだよ。普通に武器や魔法で倒せるしね。倒すとまた黒い靄に戻って消えちゃうの」

「帝国の方は?」

「ああ、帝国にも黒い炎の記録は残っているし、帝都も襲われている。ベルベッティアが言う通り、大した脅威じゃなかったはず」

「やっぱりアバンセも言ってたけど、黒い炎って弱いみたいね。こりゃ、襲ってきても楽勝でしょ……だぁがしかし!! 私は臆病者なんで。しっかりと作戦を考えるから手伝ってね」


★★★


 それはお昼過ぎ。ご飯を食べて、さぁもう少しお仕事を頑張ろう、なんて時間だった。

 最初に気付いたのはエルフの町に出入する商人。

 エルフの町の玄関口とも言える、間口の広い大きな通り。この通りはエルフの町の中心部まで、ほぼ真っ直ぐに走っている。そこで商人は黒い炎が地面から立ち上るのを見た。

 事前に王国から通達があり、それが何かも商人は知っていた。情報はすぐに町の警備隊へと伝えられる。もちろん俺にも。


「みんな、来たよ!! 作戦通りに、レオさんはお母さんをお願い」

「かしこまりました」

 報告と同時。非戦闘員である住人達の、竜の山への避難が始まる。過去の記録から避難する程ではないと言う意見もあったが、俺が強引に意見を通した。動けない病人や高齢者などは町の一部の施設に移ってもらい、そこで警備隊に護ってもらう。

 まずは足の速いヴォルフラム、そしてアリエリ、現場の指揮にベルベッティアが向かう。

 そして俺とミランとドレミドとシャーリーは警備隊の本部へと向かう。

「お父さん、黒い炎が出たって?」

「シノブ。最初に現れた黒い炎は人型に変身したらしい。その場に居た警備隊員が倒したが、今も少しずつ増えているとの報告だ。対応している警備隊員は10人くらいだな」

 記録上、黒い炎が現れる期間は最も長くて2日間。避難の完了に半日程度は掛かる、ここが一番の頑張り所だと思う。

 ちなみに避難護衛班として警備隊員10人、有志50人が同伴している。

 位置関係を分かりやすくアナログ時計で説明するなら、12時の部分が大きい通りの正面、退避はその真逆6時の方向へと行われていた。

 そして町中を巡回するのは警備隊員10人と有志50人、広い範囲をいくつかのグループになっていた。その巡回班から連絡が入る。

 別の方向から黒い炎が現れたという報告。

 嫌な位置だ。現れたのは5時方向。避難経路と近い。

「ミラン、タカさんとそっち向かって。有志の人、10人くらい連れてって。もし人が足りないようなら避難護衛班から少し手伝ってもらって」

「分かった」

 頷き、すぐにミランはそこへと向かう。

「お父さん、なんか黒い炎の出現が多いから巡回班に加わって、少しでも違和感があったら私に連絡して」

 うーん……気になるなぁ。今まで黒い炎はエルフの町に現れた事が無い。なのに出現が重なっている。

 お父さんも頷き、警備隊本部から飛び出した。

「シノブ、私達はどうするんだ? みんな戦っているのに何もしないのは申し訳ないぞ」

 ドレミドは言うが。

「待機。まだ始まったばっかりなんだから」

「まぁ、あたし達が出る事態にならなければ、それが一番良いよね~」

 確かにシャーリーの言う通りだ。俺やシャーリーが前線に出る事態は、エルフの町にとっては好ましくない事態だろうからな。

 とりあえずは報告を待つ。


★★★


 体感的には1時間くらいか。

 ヴォルフラムが戻る。

「ただいま」

「おかえり!! 大丈夫? 怪我とかしてない?」

「大丈夫。黒い炎は弱い。ベルベッティアの指示で警備隊員の10人も下げた」

「じゃあ、今はアリエリ一人で黒い炎を相手してるわけ?」

「ああ」

 先は長いからな。警備隊員が少しでも休めるチャンスがあるなら休んどくべきだろう。

 ミランとタカニャの方の有志10人ももう少し経ったら入れ替わるように連絡しとこう。


 俺の元に次々と報告が入る。

 他の場所にも黒い炎は現れていた。それは町の中、直接にも現れる。こうして目の前に。

 警備隊本部の建物の中、視界に黒い影が映った。

 俺がそれに気付いたと同時、ドレミドは剣を抜き、ヴォルフラムは低い唸り声を発する。

「こ、これが黒い炎……」

 シャーリーは目の前の光景に小さく呟く。

 黒い炎とも、煙とも見えるそれが部屋の中に渦を巻いていた。

「シノブ、シャーリー。俺の後ろに」

 ヴォルフラムが前面に立つ。

 それは段々に色が濃くなり、やがて人の兵士の姿を形作る。槍と粗末な甲冑を着込んだ兵士。血の気の感じない灰色の顔色、その目は落ち窪み眼球がよく見えない。

 槍を構えて兵士は近付く。そして突き出される一撃。

 その一撃をドレミドは剣で弾く。そのまま兵士を肩口から袈裟斬りにする。粗末な甲冑など何の役にも立たない。ドレミドの一振りは兵士を簡単に斬り倒すのだ。

 そして切断された兵士はそのまま煙のように消えてしまう。

「今のが黒い炎?」

「そう」

 俺の言葉にヴォルフラムは頷く。

「気持ち悪いけど、ホント弱いね。ザッコじゃん」

 シャーリーは言う。

 相手が雑魚のまま簡単に終わってくれれば良いんだけどな……なんて願いは裏切られるのである。

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