全裸と罠
素っ裸なのも問題だが、それ以上に問題なのは武器である。
剣主体のミランとドレミドであるが、その二人に武器が無い。衣服と同様に剣も転送されていなかった。
「二人とも剣は無くても戦える? あ、ミランはこっち見たいなら、せめて見てるのバレないようにしてよ」
「少しは戦えるが、六戦鬼みたいな相手だと無理だ。それとなるべく見ないようにはしているんだからな」
「私もだ。体術も使えるけど、ビスマルク程には使えない。これで上の階を目指すのは無理だぞ」
でもそれより、さらにさらに大問題……と言うか、これってマジで死活問題なんだけど。
脱出魔法道具も無い。
つまり今ここで俺達より強い敵に襲われたらアウト。場合によっては死ぬじゃん。
さてどうする……なんて所に。
「みんな、無事?」
俺達と同じく素っ裸のアリエリが転送されてくる。
「ちょっと、アリエリ、どうして?」
「うん。ベルちゃんがね。行って、って」
転移の魔法陣に残された俺達の衣服と武器を確認して、ベルベッティアは武器が無くても戦えるアリエリを応援に送ったのだ。
そして、武器、脱出魔法道具を確保する為にベルベッティアと、魔弾を受けたヴォルフラムは残ったという事だろう。
「ねぇ、シャーリー。魔弾の場所は分かるんでしょ?」
「うん。向こうの方」
「まぁ、行くしかないよね。裸でここにいてもしょうがないし」
★★★
石畳の床の上、素足の足音がペタペタと。
先頭を歩くのはミラン。
その引き締まった尻を見ながら、少し後ろを俺達が歩く。
「ミラン、振り向く時は言ってよね。一応は隠すから」
「一応じゃなくてしっかり隠せよ」
「カッコ付けてるし。本当は見たいくせに」
シャーリーが笑う。
「でも良いのか? ミラン一人だけで。私も一緒の方が良いんじゃないか?」
「ダメダメ、隣にドレミドいたら絶対に集中できないし」
「あのね、ミランはね。ドレミドの裸が気になっちゃうの。分かる?」
「やめろ。アリエリもそこまで言わなくて良いから」
ミランは言う。
俺が笑った、次の瞬間。
踏んだ足元の床が少しだけ沈み込む。
「ごめん、みんな、なんか踏んだ」
その俺の言葉に全員がピタッと足を止める。
罠を踏んだかも知れん。
「……全員、動くなよ」
ミランは足元を確認しながら少しずつ俺の所に向かって来る。全ての神経を足元に向けている為だろう。股間を隠すのを忘れている。
「ミランのミランが振り子のように」
俺の呟きにシャーリーが噴き出す。
「ぷはっ、はははははっ、ちょ、シノブ、こんな時に、確かに揺れてるけど、あはははははっ」
「アリエリにはまだ早いぞ。見ちゃダメだ」
「でもね、見てないとね。何かあった時に助けられないからね」
「お前等……ふざけるなよ」
呟きつつ、ミランは俺の足元にしゃがみ込む。
ミランはサンドンの元で学んでおり、その中には罠に関する事もある。なのでこういう時はお任せだぜ。
「確かにシノブの足元が沈んでいるな。崩れている感じじゃない。人工的に造った切り口……アリエリ、少しずつシノブが踏んだ石畳に重さを掛けてくれ、それに合わせてシノブは少しずつ足をどかすぞ」
ミランは沈んだ石畳に変化が無いかを注視しつつ、細かく指示を出す。
俺が乗せた体重と同じだけの力をアリエリがその石畳に掛けているのだ。その場から足を離す。
そしてそのままアリエリの力が届かなくなるギリギリまで離れる。
「ここまでが限界。これ以上は届かない。離すよ?」
ミランが俺に視線を向ける。
「このままってわけにはいかないもんね。シャーリー、魔弾って撃てる?」
「ごめん。一個しか撃てない」
その一個はヴォルフラムんトコだし、合流する為に必要だもんな。
「何かあったら戦いはアリエリに任せるよ。ドレミドはシャーリーをお願い」
「じゃあ、シノブは俺が」
「うん、ありがとう」
アリエリが能力を解除する。
ガゴンッと石と石とがぶつかるような音。それが連なり、同時に足元の石畳が盛り上がったり、沈み込んだりとヒビ割れた。
「おわっ」
俺はもちろん、シャーリーも体勢を崩してその場に尻餅をつく。
ま、まさか、このまま塔が崩れてしまうんじゃないだろうな!!?……とも思ったが、そこまで。それ以上に崩れはしない。ちょっとしたオフロード。
「おい、大丈夫か?」
ミランは振り返る。
その振り返った先にいたのは尻餅をつき、大股を広げる全裸のシャーリー。重要な事なのでもう一度言おう、大股を広げる全裸のシャーリーである。
丸見えだぜ、ひゃっほう!!
ミランの視線は上から下へ、そこで止まる。
「あ……こ、これ以上見たらお金取るよ!!」
さすがのシャーリーも真っ赤になりながら、自分の体を隠す。
「わ、悪い!!」
視線を逸らそうとするミランだったが、シャーリーの足首に目を止めた。
ヒビ割れた石畳の隙間から植物の根が絡み付く。
「えっ、何!!?」
次の瞬間、石畳の床を砕くようにして根が姿を現す。それはシャーリーの足元から、俺が罠を踏んだ場所まで繋がっていた。
そして根は一気にシャーリーを罠の所まで引き寄せようとする。
しかしその根をドレミドがガッと掴む。
「シノブ、これ凄い力だ!!」
つまりドレミドは綱引きで精一杯という事。
「アリエリ、根元の方を思いっ切り攻撃して!!」
「分かった」
ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!!
石畳を叩き付ける衝撃音。アリエリの見えない攻撃がその場所に叩き込まれる。
俺とミランはすぐさまシャーリーの足元にしゃがみ込んだ。
「やだっ、これ、取れないんだけど!!」
シャーリーも必死に絡まった根を解こうとするが、まったく微動だにしない。
俺もミランも手伝うが、もう触った感じがめっちゃ硬いし、金属みたいで取れる気がしねぇよ!!
そこでミランは手刀を根に振り下ろした。二度、三度と繰り返す。
そして四度目、五度目。
シャーリーの頬に何かが飛ぶ。自身がそれを拭うとその指先には赤い液体。
「ちょっとミラン!!?」
俺はまた振り落とそうとしたミランの手刀を止める。その右手。皮膚が裂け、血で濡れている。それに右手の形が歪んでいるように見える……ま、まさか、これって骨折してるんじゃ……
「後で回復魔法を掛けるから心配するな」
もう一度、打ち下ろす。
鮮血が飛ぶ。
「もういい!! もういいから!!」
シャーリーは言う。しかしミランは……
「いいから体隠しとけよ。落ち着かないだろ」
何度かの後。
ザシュッとミランの手刀が根を切り離す。
同時にアリエリが強烈な攻撃を叩き込んでいるその下から樹木が迫り上がる。巨大な幹、その幹に同化するように人の姿が見えた。
木の精霊とも、木の魔物とも言われるそれはドリアード。
その人型の姿は美しい姿の女性と聞くが……俺は思わず叫ぶ。
「おっさんじゃねぇか!!」
ドリアードの人型は小太りの中年男性の姿をしていた。それも俺達と同じく全裸の。
石畳を砕きながら木の根が至る所から現れ、そして鞭のように暴れ回る。
ミランはそれを避ける事ができるが、俺とシャーリーは……
「二人とも少し我慢するんだ」
ドレミドだ。
ドレミドが俺とシャーリーを両脇に抱えた。そして根を避ける為に激しく動き回る。
ぐわぁぁぁっ、視界が!!? グルグル回るし、離さないように抱えるドレミドの力も強い!! 体に掛かる負荷が凄い!! 吐きそうだぁぁぁっ!! 早くぅ!! 早くぅドリアード倒して、アリエリぃぃぃっ!!




