ドロップアイテムと転移の魔法陣
塔500階。
さすがにここから上は大荷物。と言うのも、最後の宿屋と雑貨屋が400階。もういちいち戻る事はできない。必要な物はヴォルフラムに持ってもらって、俺とシャーリーもテクテク歩く。
そんな俺達の目の前。
ほほう、目の前にいるの竜じゃん。オークと同じ、また作り物の竜なんだろうけど、その強さは相当である。
大きく開けたフロアに、黒色の鱗を持つ巨大な竜。
……まぁ、戦力外の俺は遠くから荷物の影に隠れて観戦中ですけどね。
竜の口から放たれる炎のブレス。
その炎をヴォルフラムは軽快に避ける。そして突進、鋭い牙が竜の体を喰い千切る。
少し離れた位置から放たれるシャーリーの魔弾は竜の強靭な鱗ですら軽がると撃ち抜く。
巨大な竜を力で押さえ付けるアリエリ。さらにドレミドとミランがダメージを与えていく。
「ドレミドちゃんとミランちゃんも凄いけど、やっぱりアリエリちゃんも凄いよ。あの竜を力で押さえ付けちゃうんだからね」
最近の定位置、アリエリの頭の上でベルベッティアは言う。
「うん。あれぐらいの力ならね、まだ余裕だよ」
「マジで見た目はお子様なのに強いよね。でもさ、大陸変動の時、シノブ達の名前は聞いた事あるけど、アリエリとかドレミドとかミランの名前は聞かなかったんだけど」
「私とアリエリは敵側だったからな」
「は?」
「おい、ドレミドお前……」
ミランは呆れる。
「あっ!! ど、どうしよう、シノブ!!? 秘密だったんだ!!」
「うん。ドレミドはね、本当に馬鹿なの。本当に馬鹿なの」
「うっ……アリエリ……酷い、二回も……」
「え、ちょっと待って、敵ってゴーレムって事? ドレミドとアリエリってゴーレムなの?」
ドレミドは馬鹿だからいつかはバレると思ったけど。思ったより早かったな。
「まぁ……でも今は改心しているし、黙っててくれるとありがたいかな」
俺の言葉にシャーリーは少しだけ考えて……
「……分かった。シノブがそう言うなら。大事なのは今だしね」
「助かるぞ、シャーリー。ついでにミランが帝国の皇子なのも秘密にしてくれ」
「おい、ドレミドお前……」
ミランは呆れる。
「ねぇ、ドレミド。ミランがね、皇子なのは話してなかったよね? 本当にね、何なの?」
「はわわわ、ど、どうしよう、シノブ……」
ドレミドは大馬鹿だからいつかはバレると思ったけど。思ったより早かったな。
「嘘? 冗談? ミランが帝国の皇子ってマジ?」
「それがね……マジなんだよ。それも秘密にしてくれると助かるんだけど」
「いや、まぁ、秘密にするけどさ。ミラン、あたしと結婚しない?」
「あははっ、凄い玉の輿だぁ」
ベルベッティアは笑う。
「お前、礼儀とか覚える事が腐るほどあるけど大丈夫か?」
「うわ、めんどい。んじゃ、やめる」
「そもそも、ミランはシノブを嫁にするつもり」
「えっ、ちょっとヴォル、何その話?」
楽しそうな表情を浮かべるシャーリー。
「俺の意思じゃないからな。それに俺は自分の相手ぐらい自分で決める」
「シノブちゃんは本当にモテモテだね」
「まぁ、美人ですから!!」
「それとさ、ドレミドとアリエリってご飯とか食べるじゃん? ゴーレムってご飯食べるの?」
シャーリーの質問に答えるのはドレミド。
「私とアリエリは特別だ。食べるし、ちゃんとトイレにだって行くぞ。それに子供だって作れるし、成長もするんだ。寿命だってあるし、普通の人間とあまり変わらないんだぞ」
「それは私も初耳だったけど」
凄いな、アイザックのゴーレム作成技術。成長するゴーレム。タックルベリー辺りは研究対象として小躍りしそうだぜ。
なんて雑談をしながら休憩を入れる。
そして休憩を入れてまた先に進むのである。
★★★
たまたまだった。
六戦鬼と出くわしたのは。
あの巨躯のオークと交戦していた。
前線はドンドゥルマを含めて四人。武器を手にオークに立ち向かう。その後方には二人、魔法攻撃でオークへと攻撃を加えていた。
まぁ、こりゃ……相当強い。俺達でも正面からぶつかって無傷で勝つのは無理っぽい。
六戦鬼はオークを倒す。
「どうだ、シノブ。これが六戦鬼。俺の仲間だ」
相変わらず表情の乏しいドンドゥルマ。
「六戦鬼って言うから、怖い人ばっかりだと思っていたけど、女性の人もいるんですね」
前線で剣を振るう一人、後方で魔法を使っていた一人、二人が女性だった。
「この子がシノブなんだ。近くで見ると本当に可愛いね」
「他の子も美男美女で羨ましい。こっちはおじさんばっかりなのに」
女性二人はそう言って笑う。
しかし別の男が言う。
「そっちのお仲間、普通じゃないのがよく分かる」
「でもこっちは女子供ばっかりなんですけど。そんな事が分かりますか?」
俺の言葉にドンドゥルマは言う。
「相手の本当の強さが見抜けなけりゃ、こんな商売はやっていられない。何よりここにいるのが充分な証拠だ」
まぁ、そうか。実力が無きゃここまでこの塔を登れんしな。
「ところでシノブ。こうやって全員が顔を合わせたんだ。俺達と戦ってみないか? お互いの力が分かっていた方が協力できるだろ?」
「そうですね……お断りします」
「何故だ?」
「私達は力の全てを見せるつもりはありません。ドンドゥルマさん達もそうでしょう? お互いが本気じゃない力を見せ合っても意味無いじゃないですか」
「では俺達が本気で攻撃をしたら、お前達は本気で抵抗をしてくれるか? 最上階で戦う事になるかも知れないんだ。それは別に今でも良いだろう?」
「ダメです。塔を攻略する戦力が減ってしまうので。六戦鬼のみなさんは私達の為に先行してください。そして最上階手前で力尽きてくれるとありがたいです」
俺の言葉に六戦鬼の面々は笑う。
「あははははっ、面白い子ね、シノブって」
「本当、私は戦いたくないなぁ」
「仕方無い。そう言われたら諦めるか」
そんな感じで六戦鬼との戦いは回避ができたわけよ。
★★★
ここは面白い造りの塔だぜ。500階より上の階層。そこはまるでゲームの中。敵を倒す。大半の敵は煙のように霧散してしまうのだが、たまに何かを残す敵がいる。例えば竜なら牙や鱗。
これ、ゲームで言うならドロップアイテムだよね?
俺達はそれらを集めて塔を登っていた。
その途中。
石畳に刻まれた魔法陣。
「これは転移の魔法陣だね」
王立学校の図書館で見た事があるぜ、これ。設置型の魔法陣、この上に乗れば魔法が発動する。
「転移先に何があるか分からないから、まずは私が行く」
「待ってよ、シノブちゃん。偵察はベルちゃんの仕事なんだから。行くならベルちゃんが最初に行くよ」
と、ベルベッティアは言うのだが……
「私ならどんな事でも切り抜けられるよ」
俺の能力を知らないシャーリーは不思議そうな表情を浮かべた。
「シノブって、強かったの? てっきり戦いは苦手なんだと思ってたけど?」
「裏技がね」
「ふぅーん、それ見たいからあたしも行く」
「俺も行く」
「ごめん、ヴォルは残って。分断された時に鼻と耳で私達を探して欲しいの。それとベルちゃんも。こっちの指示をお願い。アリエリも残ってね」
三人は頷く。
「じゃあ、俺とドレミドはシノブと一緒に行けば良いんだな?」
「うん、お願い」
「分かったぞ」
パーティーを二つに分ける。
「んじゃ、ちょっと待って」
シャーリーが指先をクルクルと回す。そこに青い魔弾が生まれる。そしてそれをヴォルフラムに放つ。それは恐ろしい程に遅い。進んでいるのか止まっているのか、そんなスピード。
「ほら、あたしの魔弾、ある所が大体分かるから」
それは魔弾の発信機。
「本当にシャーリーの魔弾って便利だよね」
「まぁーねー」
シャーリーは笑う。
そして俺達は魔法陣により転移されるのであった。
★★★
おおおおおぉぉぉぉぉっっ!!?
どうしてこんな事に!!?
「ねぇ、ミラン。気持ちは分かるけど、あんまりこっちを見ないでよね」
俺は言う。
「分かっている。分かっているんだが、男としての本能がな……」
「こんな事になるなんて、ビックリしたぞ」
「いやいや、ドレミドは少し隠そうよ。ミランがいるんだしさぁ……それにしても、まさかこんな所で男に裸を見られるなんて最低ー」
シャーリーの言う通り……裸……俺達は全裸なのだ。
体は転移されたのに、衣服が転移されてねぇ!!
こんな塔の中で全裸なんて……背徳感と開放感で気持ち良い!!……じゃなく、困ったもんだぜ。
見るつもりは無いが、視界に入ってしまうミランの下半身。手で隠してはいるのだが……ブラブラと……興奮を落ち着けようと頑張ってんだろうな。俺も元は男、ミランの気持ちも分かる。
特にドレミドなど良い体をしてるからな。程良く引き締まった体。そして女性らしく柔らかそうな胸。その体型は無駄が無く美しい。ドレミド自身の見た目も整っていて、男にとっては実に魅力的だと思う。
まぁ……シャーリーは……
「……まだ成長中だよね?」
俺はシャーリーに視線を向ける。
「あ、当たり前なんだけど……下の毛も生えてないシノブとは違うんだけど……」
「少しだけ生えてるんですけど!! シャーリーだって同じようなもんでしょ!!」
「いーや、あたしの方が絶対に成長してるし。これから胸だって大きくなるんだから」
「でも大きくても大変だぞ。激しく動くとやっぱり揺れるからな。ほら」
ドレミドが軽くジャンプすると乳房が上下に揺れる。
「贅沢を言うんじゃないよ。だよね、シャーリー?」
「それはそう思う」
「待て、お前達。そういう話を今するのはやめないか?」
「何、想像しちゃうから? まさか既にその下半身は!!?」
「どうかしたのか?」
分かっていないドレミド。
「最低過ぎるじゃん、ミラン」
分かっているシャーリー。
「やめろ。こっちはある意味、必死なんだからな」
「必死? 必死とは?」
分かっていないドレミド。
「すでに手遅れだったりして」
分かっているシャーリー。
俺は笑い、ある仕草を真似る。
「まぁ、我慢できなくなったら言ってよ。見ないふりしててあげるから」
「お前……小女神どころか大邪神だろ……」
ミランは呆れたように言うのだった。




