後日談と日常
後日談の一。
アルタイル。
アルタイルはアイザックによって封印されていた、ララ、アバンセ、サンドン、パル、ヤミを解放した。
何故、その方法を知っているのか……アイザックが能力を失った事、以前に暗殺者の記憶を読み取った事などを考えればある程度の想像は付く……が、アルタイルは何も語らず。
ちなみに二年前、ゴーレムが竜脈を乱す事件があった。あれは大陸を変動させる為の布石だったらしい。それもアルタイルからの情報。
そしてアルタイルはララ達を解放するとそのまま元の廃城へと戻っていった。
「アルタイルがいなかったら、大陸も、僕自身の命も救えなかったよ」
「……」
「本当にありがとう」
「……」
「じゃあ……またね!!」
「……ああ」
★★★
後日談の二。
悠久の大魔法使いララ・クグッチオ。
俺の元をララが訪ねる。
「今回は本当に申し訳ありませんでした。完全に私の責任です」
「アイザックは騙したみたいな事を言ってましたけど……」
「はい……」
元々、同じ神々の手としてララとアイザックは面識があったらしい。ただアイザックは人と付き合う事を極端に避け、ララとは全く連絡を取るような関係ではなかった。
しかしそのアイザックに呼び出されて、ララは喜んで出向いたらしい。
そしてアイザックの手に負えない魔物を封印する為に、何か良い方法は無いかと相談した。そこでララは力を貸した、その結果。
「封印されたと……」
「その通りです」
項垂れるララ。掛けた眼鏡もそのまま落ちそうだぜ。
アバンセが消えた直後、俺は能力を使えない場面があった。あれはアバンセを封印した時の影響。アバンセの力はもちろん、周囲一帯の魔法など全ての力を封印してしまうものだった。
「まぁ、でも結果として大陸も元通りですし、僕達もかなりの成長ができましたし、ついでに帝国との関係も築けましたし、こちらとしては悪い結果ではないかなと」
「ありがとうございます。そう言って貰えると少しだけ楽になります」
「これからどうするつもりですか?」
「はい、その事でご報告が……」
王国側にも俺達の活躍は伝わっていた。その中でも圧倒的な個の力を持つビスマルクとヴイーヴルに王立学校で指導をして欲しいという依頼があった。
まぁ、結果として二人は依頼を受けるのである。条件としてリコリスとユリアンを王立学校に編入させる事で。
リコリスもユリアンも、同年代との集団生活をした経験が無い。そこで集団でのコミュニケーション能力向上と一般教育を受けさせたい、という理由だった。
それと同時にビスマルクは学園に戻ったリアーナとロザリンドを継続的に指導できる。
ララも学園に戻るらしい。そしてタックルベリーの指導に当たる。悠久の大魔法使いに直接指導を受けるなんてタックルベリーはやっぱり天才だぜ。ただの馬鹿野郎じゃねぇな。
そしてついでにキオも編入させた。
もちろんキオは嫌がったさ。ずっとここで働きたい、王立学校など必要無いと。
しかしだ。王立学校だからこそ学べる事がいっぱいある。学べるチャンスがあるなら学ぶべきだ。キオがここに戻って来ても、いつか出ていくにしても、その知識は絶対に無駄にはならない。
これはキオの為だ。
そうして強引に送り出す。
キオも大陸を救った一人だからね、編入なんて簡単なもんよ。
そんなワケで、もうお店にキオの姿は無いのである。
まぁ……寂しいけどな!!
★★★
後日談の三。
来訪したのはニーナだった。
俺の予想では交易都市を統治し、王族でもあるはず。
「シノブさん。帝国から話は聞きました。ふふっ、救国の小女神様」
「ちょ、ニーナさん、少し恥ずかしいんですけど」
「恥ずかしがる事はないでしょう? あなたは本当にこの大陸を救ったのだから……本当にこんな女の子が……」
ニーナが手を伸ばし、俺の頬に触れる。
俺はそのニーナの手に自分の手を重ねた。
「あの短剣、ニーナさんからですよね? 凄く役に立ちましたよ。あれがあったから帝国側と協力ができましたし、結果として大陸も救えたんですから。本当にありがとうございました」
「お礼を言うのは私達よ。あなたは大陸を救った……それは私達の命を救ったのも同じなの。ありがとう、シノブさん」
そう言ってニーナは柔らかい笑顔を浮かべる。
「それでこれなんですけど……」
俺は短剣を取り出す。これは王族が持つべき物であって、返した方が良いと思うんだけどな。
しかしニーナは言う。
「良いの。それはシノブさんが持っていて」
「でも」
「王国を救ったお礼の一つだと思って。それがあれば色々と有利になる事もあると思うの。シノブさんの判断で使って貰えたら私も嬉しい」
「……分かりました。大事にします。ありがとうございます。それと国賓としてお話ですが、本当に申し訳ありませんけど……」
大陸を救ったのは王国に属するエルフの町の俺だ。帝国同様に俺達を国賓として王城に招きたいという話が持ち上がっていた。
俺抜きでリアーナ達だけで参加すれば良いとも思っていたんだが、俺が参加しないなら、自分達も参加はしないと言う、みんなの意見。
「やっぱり駄目なのね?」
「はい。僕はあまり人前に出ない方が良いと思うので」
「……どうして?」
「ここまで目立っておいてなんですけど……みんなが喜んでくれるのと同じくらい、嫉妬や憎悪を感じます。出自と容姿、それと商会の成功。ガキのくせに、って感じなんでしょうけど。だからこれ以上はちょっと……」
実際に暗殺されそうになってるしな。
「分かった。シノブさんの事は伝えておくから安心して」
よし、ニーナから直接話を伝えてもらえるなら、断ったとしても国王は怒らんだろ。
でもやっぱりニーナは王族か。まぁ、詳しくは聞く気も無いけどな。
★★★
後日談の四。
「シノブ様。大変に申し訳ありませんが、少しお暇を頂きたいと思います」
そう話を切り出したのはホーリーだった。そのホーリーの隣にはフレアも立つ。
「二人とも?」
「はい」
珍しいな。二人同時とは。
基本的に俺の護衛という事で、二人のどちらかが必ず俺の近くにいる。
「もちろん良いよ。二人はいつも頑張ってるし、もっと早く休んでくれても良かったんだから。どれくらい休む?」
「申し訳ありませんが……しばらくとしかお答えできません」
しばらく……つまり無期限……もしかしてこのまま……
俺と一緒にいる事で、二人は何度も危険な目に合っている。辞めたいと思っても仕方無い。それに……
「も、もしかして僕がエロい事が好きな変態だから愛想を尽かせたの!!?」
「そ、そういう事ではありません……」
「じゃあどうして?」
「はい。ユニコーンの角を探したいと思いまして」
「ユニコーンの角?」
実はアイザックの時に残っていたユニコーンの角は全て使ってしまった。
フレアとホーリーは長くユニコーンのクテシアスと行動を共にしていた。そこで手に入れる可能性を思い付いたらしい。
「シノブ様は規格外の方ですので」
そう言ってフレアは笑う。
そしてホーリーが言葉を続ける。
「今回の作戦はクテシアス様の角があったからこそ可能な作戦でした。これから先、シノブ様に何か困難があった時、ユニコーンの角は絶対に力となります。だからどうしてもお持ちしたいのです」
確かに、色々と大変な事に巻き込まれる事も多い。それにユニコーンの角でいっぱい助けられた。あるに越した事はない。
「分かったよ。でも無理はしないでね」
……って、事でキオに続いてフレアとホーリーも今はここにいないのである。ユニコーンの角探しの旅に出た。
しかもそれだけではなく……
「ミツバさんも!!?」
「うっす。仕事は全て工房の職人に任せてるんで大丈夫っす」
「でも修行って、どこに?」
「ドワーフの里ってのがありまして。そこで鍛冶技術はもちろん、戦う力をもう一度最初から鍛えるつもりっす」
「どうして急に? 今までだって問題無かったじゃないですか?」
「今まで無事に切り抜けて来ましたが、これからもそうだとは限らねぇっす。だから俺はもっと強くなりてぇ。強くなって強くなって姐さんの力になりてぇんです」
「いっぱい力になってるよ?」
「あざっす。でももっと俺は力が欲しい。だから姐さん、少しだけ待っててください」
そう言って、ミツバもエルフの町を出る。
そしてフォリオも元の場所に戻り、タカニャも警備隊へと戻ったのだった。
★★★
後日談の五。
まぁ、ヴォルフラムとベルベッティアは一緒だけどね。それにしても一気にみんないなくなっちゃったなぁ。
しかし別れがあれば、出会いもあるわけで。
「このランタンは凄いんだぞ。私はよく分からないんだが、とにかく凄いから薦めろってシノブに言われているんだ。シノブは凄いからな、だからシノブが言うなら絶対だ。嘘じゃないぞ」
お店の中、元気なドレミドの声が響く。
「このカップはね、特殊な造りをしているの。温かい飲み物を入れてね、一晩経ったとしても温かいまま。冷めない不思議なカップなの」
そう言って接客するのはアリエリだった。
ドレミドは金色の長い髪を肩辺りから切り落としていた。そして髪の毛の色も染めている。パッと見は茶色に近いが、光が当たると薄っすらピンク色に見える。
それはアリエリも同じ。金色の髪をドレミドと同じ色に染め、長い髪を後ろで編んでいた。
二人を見れば姉妹のようにも見えるだろう。
さすがにアイザックと行動する気は無く、行く所も無かった。
そこで俺は二人を引き受けた。
まぁ、大陸を混乱させていた張本人達だからな。周りにバレないように、髪色は変装みたいなもんだ。
二人とも今ではうちの立派な従業員、しかも強いしな。フレアとホーリーがいない今では、頼れるボディーガードだぜ!!
ちなみにもう一人増えた従業員。
「サングラスをお求めですか?でしたらこちらに。色も数種類取り揃えていますから、きっとあなたに似合うサングラスが見付かりますよ」
普通に接客業をこなすミラン。
帝国の皇子がいらっしゃいませ、って……笑えるー
「おい、シノブ。今、俺を見て笑わなかったか?」
「いや、頑張ってるな、って」
「話が違うんだが。俺は帝国の剣士として」
「あっ、ほら新しいお客さん」
「いらっしゃいませ」
すぐに接客に戻るミラン。
真面目に働いて感心感心。
そんな感じで新しいメンバーが増えたのである。
★★★
後日談の六。
久しぶりの竜の山。
そこに集まるのは小さな竜のヌイグルミ達。とは言っても、ちゃんと生きている竜なんだけどね。
もちろんそれはアバンセ、サンドン、パル、ヤミの四竜。四人の封印も解かれていた。もう大体の経緯も話してある。
「今回はシノブに救われたわ。ありがとう」
ヤミは言う。
「ああ、助かったぜ。さすが俺の嫁」
「パル。お前、今ここでボロクズにしてやろうか。シノブは俺の嫁だ」
「おいおい、笑えねぇ冗談だな。アバンセ、本気で言ってんのか?」
「二人とも喧嘩などするでない。シノブの前でみっともない」
いがみ合うアバンセとパルの間に入るサンドン。
「おっ、良いね~久しぶりのこの感じ。みんな無事で良かったよ」
俺は笑う。
「ありがとう、シノブ。礼を言うぞ。そしてすまない。大変な時にお前を助けられなかった」
アバンセが言う。そしてパルとサンドンも。
「確かに情けねぇぜ。アイザックだったか、んなクソ野郎にまんまとハメられるなんてよ」
「それでも助かったぞ、シノブ。感謝する、ありがとう」
そして今まであった事を細かく話していく。
「ほう。それでお前は髪を切ったのだな?」
アバンセの目がギラリと光る。
「しかもシノブをボコボコにだと……許せねぇな。消しちまって良いんじゃねぇか?」
パルも同様。
「気が合うな。同意しよう」
「二人とも、本当にやりそうで怖いわ」
そんな二人を見てヤミが言う。
「まぁ、待ってよ。あれは天変地異の後だし、町の混乱もあったんだよ。そんな仕返しなんて必要無いって」
「……シノブがそう言うのならば我慢しよう……」
「ちっ……仕方ねぇ」
そしてユニコーンの角の塗った武器で俺を貫いた時の話。
さすがの四人も言葉を失う。
「……ま、まぁ、こうして無事だったわけだしね」
「……お前……成功したから良かったものの……」
と、アバンセ。
「……他人の口からじゃとても信じられない話じゃな……」
と、サンドン。
「だからこそシノブなのかも知れねぇが……さすがにそれはよぉ……」
と、パル。
「他に手が無かったのは分かるけども……普通はできない作戦よ……」
と、ヤミ。
全員が俺をジッと見詰めるのだった。
とありえず、その感じで四人も無事でした!!
★★★
後日談の七。
大陸に危機が訪れれば、呼応するように何人もの英雄が生まれる。
結果的に救国の小女神と言われる俺が大陸を救ったわけだが、俺以外にも危機に立ち向かっていた者がいた。
勇者ライアン、おてんばライアン、踊り子ライアンのライアン三兄弟。
闇に溶け込むような漆黒の鎧に身を包んだ、沈黙の黒騎士。
己の肉体だけで戦う、強靭の巨人。
凄腕の冒険者と歴戦の傭兵でパーティーを組んだ、六戦鬼。
巨大な獣と共に戦う王国の女騎士、獣王と戦乙女。
はい、ここ!!
この獣王と戦乙女!!
これ実はお姉ちゃんなのね!!
しかもこの獣王、巨大な獣ってのは実はヴォルフラムのお母さん、アデリナなんですよね!!
お姉ちゃんはアデリナと行動を共にして、王国騎士団の先頭に立ち戦っていたのだ。多くのゴーレムを討ち倒し、多くの人を救った。その活躍は俺の名と共に大陸中へ伝わっている。
お父さんとお母さんも笑っておったわ。
姉が獣王と戦乙女、妹が救国の小女神なんて大層な呼ばれ方してるもんな。
とにかく俺の知らない所でお姉ちゃんも頑張っていたのである。
★★★
そして全てが終わり、また日常が始まるのだ。




