永遠に知る事の無い話と最後は実に簡単に
嫌な野郎の笑い声って本当に頭きちゃうぜ。
「って、あの人は言ってるけど~どう思う~? シーちゃん」
ヴイーヴルは言う。
「そ、そうですね、クソ馬鹿だと思います……」
息苦しい中で必死に声を出す。
それと同時に神々の手としての能力発動。俺の体を淡い光が包み込む。そして即座に自らへ回復魔法。
「そ、そんな即死に近い致命傷だったはずだ……」
アイザックは目を見開いた。
「近かっただけで、即死じゃなかったのがこの作戦の要だね」
その言葉と同時、魔法を使う。
防御魔法でビスマルク達やドレミド達を守りつつ、攻撃魔法。
その威力。
俺の体を中心に光が発せられる。光は衝撃波となり全てを破壊しながら広がっていく。
美しかった塔は小石のように粉砕され、大地は削り取られていく。空まで広がる衝撃波は雲さえ吹き飛ばし、さらに広がり止まらない。
大気も大地も、大陸全体が震える程の衝撃。視覚も聴覚も麻痺するような激しい振動。
自分の中の魔力を最大限に破壊力へと変換する。
クソ野郎が何処に居ても逃がさねぇぜ!!
今、この魔法で全てを終わらせる。
★★★
防御魔法が解かれる。
ビスマルクは周囲を見回して溜息。
「……凄まじいな。鍛練をして強くなるという行為が虚しくすら感じるぞ」
何も無い。
ビスマルクやドレミドの足場は防御魔法により残っていたが、他の部分の地面はクレーターのように深く抉れている。
そして見える範囲、地平線の先まで荒野が広がっていた。
「ねぇ~シーちゃん、これ近くの町とか巻き込んじゃったりしてない~?」
「大丈夫です!! 同時に探索魔法を使いながらですもん。その時にアイザックの存在を感じたんで、もちろんそのままブッ飛ばしましたよ」
俺は攻撃魔法が広がるよりも少しだけ早く探索魔法を先行させていた。
いやいや、これ、凄いんだぜ? 普通は複数の魔法を同時に使うなんて無理なんだぜ?
防御魔法、探索魔法、攻撃魔法、三つも同時に使えるのは俺だからできた事。神々の手って、本当に凄いよねー
そして気を失っているドレミド、アリエリ、ミラベルの三人。その三人の様子をアルタイルが見る。
「どう? 三人とも大丈夫そう?」
「……」
「……」
「……」
「……アルタイル?」
「……死んでいる」
「死んでんの!!?」
「機能が停止していると言う方が近い」
「つまり?」
「アイザックから魔力の供給が切れたという事だろう。死んだのか、魔力が枯渇したのか」
「ねぇ、アルタイルは普通の魔法も大丈夫だよね? 探索魔法とか使える?」
すでに俺の魔力はすっからかん。
制限時間も越えて、もう何もできねぇ。
「……」
アルタイルは歩き出す。
「ヴイーヴルさん、ちょっと三人を見てて。ビスマルクさんは僕と一緒に来て」
★★★
ビスマルクは瓦礫を掘り返す。
熊型の獣人だからなのか、穴掘りが凄く似合ってるぜ。
ザッザッザッ
そしてその瓦礫の下から姿を現したのはアイザックだった。気を失っている。
「ねぇ、これ本人? 生きてる?」
「……」
アルタイルはアイザックへと手を伸ばし、その体に触れる。
「……本人だ。死んではいない」
「よくあの魔法を受けて死ななかったね」
「……シノブの魔法を防ぐのに全ての力を使ったようだ」
アルタイルは言う。
アイザックは逃げる為の術をいくつか用意していた。しかし塔に用意されていた仕掛けは一瞬で消し飛び、アイザックも自身を守るのに精一杯だったらしい。
「アルタイル、アイザックの頭の中が分かるの?」
これは俺を狙った暗殺者達の記憶を読み取った時の古代魔法か!!?
だったらこの時点で俺達はアイザックに出し抜かれる可能性が無くなる!!
「……」
「……アルタイルえもん?」
「アルタイルえもんではない」
「ここからアイザックが逃げ切る方法はあるか?」
と、ビスマルク。
「無い。魔力が枯渇している、魔法を使って逃げ出す事もできない。ゴーレムも動かせない」
「つまり完勝?」
「シノブ、アルタイル、目を覚ますぞ」
アイザックの瞼がピクリと動く。
「うっ……ううっ……」
そして呻いた。
「目、覚めた?」
「……私は……シ、シノブ……お前は……どうして……何をした……」
「何をした、って説明する義務なんて無いでしょ。めんどくさい。それよりお遊びは僕達の勝ちだけど、どうする? まだ続ける?」
「……終わらせたければ……私を殺したらどうだ?……今ここで……お前にそれができるのか?」
アイザックは笑みを浮かべる。
「……シノブ。私がアイザックを殺す」
ビスマルクは言う。
「……ただ私が死んだ後……全てが元通りになると思うのか? 私が死ぬと同時にゴーレム達は暴走を始めるぞ……それにアバンセ達も復活できないだろう……」
「だけど、それよりも……アイザック、あなたが生きている方が僕達にとっては脅威なの。分かるでしょ? 本当に死ぬ事になるよ」
「だから心を入れ替えろとでも? 無理だな。殺せ」
「シノブ。少し離れていろ」
ビスマルクはアイザックを殺すだろう。
アイザックが生きている限り、同じような危機がまた訪れるかも知れない。その時にはリコリスだって死ぬかも知れない。その可能性を考えたら当然だ。
確かに殺すしかない。
しかしそこでアルタイルは言うのだった。
「私がやろう」
「アルタイルが殺すの?」
「殺さない」
「……任せれば良いの?」
「……」
「……」
「……」
「……ビスマルクさん、ここは任せよう。アルタイル、僕達は離れていた方が良い?」
「……ああ」
アルタイルは一言だけそう答えるのだった。
★★★
これはこの物語の主人公、シノブでさえ永遠に知る事の無い話。
アルタイルとアイザック。
「……何をするつもりだ?」
「……」
アルタイルは何も答えない。しかしその顔を隠すように巻かれた包帯を外していく。
「私を殺しても大陸は元に戻らないぞ」
「殺しはしないって言ったんだけど?」
それは女性の声だった。
女性だけの声。
いつも混じる男の声が無い。
「その代わり、あんたの力を貰うから」
「……どういう事だ?」
「その言葉の通り。あんたの神々の手としての能力、ついでに記憶もね。私が貰うよ。それがあればアバンセ達も解放できるし、大陸を戻す方法も分かるから。ただ、あんた自身は能力も何も無い普通の人間になるけどね」
「馬鹿な……私だって長く生きているが……そんな事が可能な魔法など存在しない……」
「魔法じゃないからさ」
包帯が外されたアルタイルの素顔。
アイザックが目を見開く。
「……ま、魔法ではないだと?」
「そうね、どうせ私の姿も、今この時の会話も忘れてしまうんだから教えてあげる……私の本当の名前はミア・エバートン。能力は『相手の能力を奪い取る』事。神々の手は三人だけじゃなかったって事ね」
「馬鹿な……そんな……だったらお前がシノブの能力も奪えば……シノブに従う必要が無いだろう……」
「馬鹿はあんただね。シノブは良い子だもの。私は彼女が好きなのよ。いや、彼かな」
アルタイルは笑うのだった。
★★★
「ねぇ、アルタイル。アイザックは? あのままほっといて大丈夫?」
「ああ」
「何をしたの?」
「記憶を読み取り、その能力を私が受け継いだ。アイザックにはもう何もできない」
「待って待って。それってアルタイルがその気なら僕の能力も奪えるって事じゃないの!!?」
「……無理だ。シノブの魔力は多過ぎて私では受け止められない」
「そうなんだ……それにしても古代魔法、万能過ぎ。今の魔法よりも使い勝手が良いんじゃない?」
「……」
アルタイルは何も答えないのだった。
「あっ、そうだ、すっかり忘れてた」
俺は懐から小瓶を取り出す。
それは猛毒……などではなく、残り少ないユニコーンの角の粉末。
俺は人差し指をペロッと舐め、指に粉末を振り掛ける。そしてそのままヴイーヴルに潰された片目に塗り塗り。回復魔法では戻らなかった眼球が元通りになり、視界が開けるのだった。
★★★
「あらあら、シーちゃん、片目も元通りに治ったのね~」
「だから大丈夫だって言いましたよ?」
「それでも心配で心配で~」
「おっ、三人とも気が付いたんだ?」
「シノブ……ここは……どうなっているんだ?」
ドレミドは辺りを見回した。
「これ、シノブがやったの?」
アリエリも周囲を見回すが、何も見えない。ただただ荒野が広がるのみ。
「そそ。ちなみにアイザックも倒した」
「とんでもない力……まともに相手をしたら勝てないのね、私達では」
さらにミラベルは言葉を続ける。
「でも私達が生きているという事は、アイザックも生きているのね?」
「そうなのか?」
「ドレミド……あなた……私達は彼に命を与えられたゴーレム。彼が死ねば、私達も生きていけないの」
「本当にね、ドレミドはね、馬鹿だよね」
「酷い!!」
「まぁ、確かにアイザックは生きてるけど、もう三人にはなんの命令もできないよ。今、その能力はアルタイルが受け継いでいるから。ねぇ、アルタイル、三人をどうする?」
「……面倒だ。好きにすれば良い」
「って事で三人とも自由だけど、どうする? アイザックにまだ従う?」
ドレミド、アリエリ、ミラベル、三人は顔を見合わせる。
「まぁ、どうするかは自由だけど、もう大陸を混乱に陥れるのだけは勘弁して欲しいかな」
三人とも強いが、アイザック程の脅威ではない。まぁ、好きにすると良いさ。
最後は実に簡単にアイザックに勝利するのであった。
その過程、痛みでショック死するかと思ったけどな!!




