作戦変更と剣を振るう青年
「みんな、お願いね。ヴォルも大変だと思うけど頑張って」
「俺には作戦を立てたりできないから。こういう事は任せろ」
「ヴォルちゃんの背中に乗るの久しぶりだよ」
「私は初めて。少し緊張するわ。振り落とされないかしら?」
「ヴォ、ヴォルさん、よ、よろしくお願いします」
本来の大きさに戻った巨大な狼、ヴォルフラム。その背中に乗るのはリアーナ、ロザリンド、キオ、そして……
「ベルちゃんにはまた負担を掛けるね。ごめん」
「ベルちゃんは戦えないから、これくらい当然だよ。良い知らせを期待して頂戴にゃん」
ベルベッティアは笑う。
「うん。でもくれぐれも無理はしないで。みんなもだよ」
帝都、そして第一都市の徹底的な情報収集。
帝都や第一都市の中からベルベッティアが、そして外からはキオが情報を集める。そしてその情報をリアーナとロザリンドがその場で精査する。
移動、連絡は、行動力の速さに優れたヴォルフラム。
時間は無い。
第一都市を救うと決め、その日のうちに出発するのだった。
こっちはこっちで早く良い案を立案しなければ……残った全員で意見を出し合う。
第二都市の事は相手にも伝わっているだろう。
時間を掛ければ、帝都と第一都市は体制を整え、協力してこの第二都市に攻め込んでくる。リアーナ達はその敵の出足の監視も兼ねている。
★★★
そしてアッと言う間にはその日が来る。
「ではシノブ。私達に従って貰うぞ」
「……はい」
ガイサルの言葉に頷く。
「結局、何も案が浮かばなかったようだな」
副官の言葉に俺は項垂れた。
「すみませんでした」
作戦は最初と同じ。向かうのは帝都。相手も待ち構えているだろうが、帝都の弱い部分を突けば勝てるだろうとガイサルは言う。
そしてその中での最大の問題は金色のリザードマン、ママトエトエ。
帝都にはママトエトエがいるとリアーナ達から報告を受けていた。
必要最低限の兵力を残して、ガイサルは第二都市を出発するのであった。
千人程度の行軍。
そして第一都市を迂回して帝都に向かうその途中。
突然、ガイサルに呼び出された副官、俺、ビスマルク。
「このまま第一都市を攻める」
「ど、どういう事でしょうか?」
ガイサルの言葉に副官は驚く。
突然の作戦変更。
「第一都市も造りは帝都と似ている。城壁の入口は四つあるが東側、そこから都市の中心部までは守りづらい。そこから攻めれば少ない被害で済むだろう。ここを解放する事が出来れば帝都への進撃も楽になるはずだ」
「し、しかし……そんな急に……」
「私が東側から入る。西側、南側、北側からも攻め込むがこちらは陽動だ。西側からはシノブに頼む。お前は南側だ」
「は、はい」
副官は南から。その副官にさらに指示を与えるガイサル。
「この事は敵に知られたくない。自分が指揮する隊にも作戦は伝えるな。これは命令だ」
「それでは隊が混乱します。作戦があるならきちんと伝えるべきです」
「黙って従わせろ。いいな」
「……分かりました」
「では部隊長を呼んでくれ」
「はい」
副官と入れ替わるように呼び出された部隊長は北から攻めるよう命令される。もちろん副官と同じく秘密厳守である。
★★★
連れて来た兵のうちの半分は第一都市を囲むゴーレムに対する撹乱だ。
向こうに見えるのが帝国領第一都市の城壁西側の入口。木製を鉄で補強した扉。
「ヴォル、大丈夫?」
俺はヴォルフラムの背中の上。今日までヴォルフラムは休まず駆け回っていた。かなり無理をさせているのも分かっている。
「大丈夫。心配するな」
「ありがとう」
みんな疲れ切っているはずだけど、よく頑張ってくれている。
「じゃあ、みんな、あと少しだけお願いね」
全員が頷き……突入である。
ゴーレムを陽動、撹乱隊に任せて、俺達は一直線で西口へと向かう。
そしてリアーナとタックルベリーの同時魔法攻撃が入口の扉を吹き飛ばした。そして街の中へと突入する。
クソッ、やっぱり中にもゴーレムかよ!!
街並みの中に似合わない異形のゴーレム。
「ビスマルクさんお願い!!」
「任せろ」
「ホーリー、行くよ!!」
ヴォルフラムの背中にはホーリーもいる。
「はい」
「じゃあ、ヴォル!!」
「ああ」
ヴォルフラムは頷くと、その跳躍力で建物を駆け上がり、一気に屋根へと飛び乗る。そして疾風のように駆け出すのだった。
★★★
俺達の西側だけではない。
東側、南側、北側からも一斉に突入が始まる。
ベルベッティアとキオが集めた情報では、住人の大半は都市の中心に位置する中央公園に集められているらしい。すぐ戦いに巻き込まれる事は無いだろう。
時折ゴーレムから攻撃されるが、ホーリーがそれを防ぎ、ヴォルフラムは高速移動を繰り返す。街中を駆け回り、状況をしっかりと観察する。
東側、西側、南側、北側を行ったり来たりと何度も何度も繰り返す。
ゴーレム、そこに反乱者側の兵士が加わり始める。
「シノブ様、やはり西側、ビスマルク様の所が一番進んでいますね」
「うん、逆にガイサルさんの所が一番キツそう」
「シノブ、全く別の場所で争う音が聞こえる。向こうの方」
「あっちは中央公園の方だね。ヴォル、ちょっとそっちに向かって」
「了解」
ヴォルフラムは駆け出す。建物の屋根から屋根へ。時に壁を垂直に駆け上がり、時に空を飛ぶように跳躍する。
うわぉ!! 久しぶりのジェットコースター感!! 浮遊感に下っ腹がゾワゾワする!!
そして向かった中央公園では……
広い中央公園の中、押し込まれるように第一都市の住人が集められていた。その公園を囲むように配置されたゴーレムの壁。しかしその壁の一部で戦闘が開始されている。
ゴーレムに立ち向かう数十人の警備隊。その中で先頭に立ち、剣を振るう青年。
警備隊の中では歳こそ若いが、周りに檄を飛ばし、指示を与えながら隊を指揮していた。
「カロンは右、キートンは左に壁を作れ!! 俺とクーマンがそこから抜ける!! ケイジャン、俺が出たら壁を塞げ、公園の中にコイツ等を入れるなよ!! コロン、あと少しだ!! 援軍が入って来ているからすぐに落ち着くはずだ!! お前達、周りに勇士をしっかり見せ付けろ!!」
青年は剣を振るい、ゴーレムの壁を抜けようと突き進んだ。
その青年の目の前……
ストンッ
空から巨大な狼が落ちて来て、静かに着地する。そして一気に周囲のゴーレムを弾き飛ばす。
「大変そうだね。手伝おうか?」
「シノブ!!?」
「久しぶり、ミラン。同じ赤毛だもんね、ガイサルさんがお父さんでしょ?」
そこにいたのはミランだった。王立学校で一緒に模擬戦を戦った同級生。
「何でここに……それに親父を知っているのか?」
「詳しくは後からね。ホーリー、中央公園の中にゴーレムを入れないように手伝って」
「かしこまりました」
ホーリーはすぐにヴォルフラムから飛び降りて、警備隊の手助けする。防御魔法でゴーレムの侵入を防ぐ。そしてヴォルフラムが周囲のゴーレムを蹴散らす。
ここまで減らせば警備隊だけでも対処ができるだろ。一応ホーリーにも残ってもらおう。
「……って事で、乗って」
ミランの目の前には巨大なヴォルフラム。
「……噛まれたりしないよな?」
「噛まれたいなら噛むぞ」
「喋れるのか……驚いたな……ミランだ、よろしく頼む」
「ヴォルフラム」
「ヴォルって呼んであげて」
そしてヴォルフラムは俺とミランを乗せ、その場から駆け出すのだった。




