瞬殺と全滅寸前
「みんなの所へすぐに向かって。僕はドレミドを片付けてから行くから」
俺は自らの能力を解放する。体中を包む淡い光。体内で魔力が燃えている。
まずは探索魔法を広範囲に飛ばす。みんなの大体の位置を把握。そしてこの反応がドレミド……それともう一つドレミドと似た反応……あの六人組の誰かだな。
ドレミドとこの誰かが合流すれば厄介な事になる。だから合流前に叩いてやるぜ。
「……そんなわけでドレミド!! 覚悟!!」
「ぬわーーっっ!!」
炎の魔法がドレミドを包む。
瞬殺……まぁ、実際には死んでないだろ。
「……」
「……ドレミド?」
「あうっ……」
しばらく再起不能だと思うけど、とりあえずもう一発ブン殴っとこ。
ドゴンッ
「……」
これで良し。
ドレミドの仲間のもう一人。こいつを倒しさえすれば事態を切り抜けられる。
そして超高層、空の上。俺の極限までに強化された視覚と聴覚でその姿を直接捉えていた。
確か……ローロン。その単眼にはキオのカトブレパスの瞳と似た力がある。こいつがキオの目を欺きやがったのか……だから山岳側のゴーレムに気付かなかったのだ。
雲の遥か上からローロン目掛けて急降下。自由落下よりもさらに速い。
「この状況を変えられるのは五竜くらいだ。三つ首竜に勝ったという話は聞いたが、さすがにそれは考えられない。きっとアバンセと協りょ」
ローロンの言葉は途中で遮られた。
風を切る音。
その一瞬の後。
ドズンッ!!
ヴイーヴルの目の前。ローロンがいた辺りの地面が爆発する。
飛び散る岩と土埃。
その爆風にヴイーヴルは眼を背けた。そして再びそこに視線を戻すと、そこには巨大なクレーター。地面が抉られている。
「僕の実力だっつーの」
クレーターの底、埋もれるローロンを踏み付けるように俺はそこにいた。
こちらも瞬殺。
超高層からのドロップキック。
ローロンは呻く。
ドレミドと同じく再起不能だと思うけど……まぁ、こっちももう一発ブン殴っとこ。
ドゴンッ
「……」
ローロンはさらに埋まる。辛うじて生きているようではある。
「シーちゃんだぁ~」
「お待たせです。僕がゴーレムを相手しますから、ヴイーヴルさんはみんなを助けて下さい」
「はいは~い」
ヴイーヴルはニコニコと笑っていた。
このクソゴーレム共が!!
片っ端からリサイクル不可の粗大ゴミにしてやんぜ!!
周囲には信じられない程に大量のスケルトン。それもいつもの人型だけではない、獣の形をしたスケルトンもいる。きっとアルタイルが召還したんだろう。
そのスケルトンを避けるように、ゴーレムだけを俺は魔法で撃ち壊す。
そして……
「ドラァ!!」
ゴーレムが弾け飛ぶ。
「姐さん!!?」
ボロボロのミツバ。そのミツバの腕には気を失ったリアーナが抱かれていた。
「リアーナは無事なの!!?」
「大丈夫、命には別状ねぇっす」
「ミツバさん、そのままリアーナをお願い。ゴーレムの相手は僕がするからね。それと、すぐにヴォルも来ると思うから」
「うっす。命に代えてもリアーナ姐は守り抜きますから、姐さん、お願いします」
「おうよ!! でも本当に命は代えないでよ? 二人とも死んじゃ駄目なんだから」
そして……
「ドラァ!!」
ゴーレムが弾け飛ぶ。
「ビスマルクさん無事!!?」
「ああ、もちろんだ。待っていたぞ」
「ビスマルクさんはみんなへの指示をお願い。ゴーレムの相手は僕がする。ちなみにローロンは倒しといたよ。それとアルタイルは大丈夫なの?」
ビスマルクに支えられるアルタイルは意識が無いようだった。
「大丈夫だ。魔法の影響で気を失っただけだからな」
きっとアルタイルも無茶してくれたんだろう。ありがたい。
「それとヴォルとホーリー、ベルベッティアがすぐ援軍に駆け付けるよ」
「そうか、それはありがたい情報だな。よし、この場の指揮は任せてくれ」
「それじゃよろしく!!」
そして……
「ドラァ!!」
ゴーレムが弾け飛ぶ。
そこにいたのは大量の負傷者に囲まれ、鼻血をボタボタと垂れ流すタックルベリーだった。
俺も知識だけは持っている。限界を超えて、魔法を使い続けるとどうなるか。何を代償に魔法を唱え続けたのか。
「遅ぇーよ」
「ごめんね」
負傷した多くの傭兵と冒険者。その中にロザリンド、キオ、フレアの姿も見えた。
俺はこの場の全員に強力な回復魔法を唱える。
これで死ぬ事は無いはずだ。
「……なぁ、シノブが来たんだから、僕はもう寝てて良いだろ?」
「目覚ましのキスで起こしてあげるよ」
タックルベリーは笑った。そしてそこで力尽きた。そのまま気を失う。
「頑張ってくれたんだね。本当にカッコ良いよ」
俺はタックルベリーの体を支える。
ちょうどそこに現れるのはホーリーだった。俺に追い付いたようだ。
「シノブ様!! これは……」
「みんな気を失っているけど大丈夫だよ。ホーリー、大変だと思うけどみんなを守って」
「かしこまりました」
そして……
「ドラァ!!」
ゴーレムが弾け飛ぶ。
少し離れた地点。ゴーレムの群れに飲み込まれたガイサルだったが、辛うじて全滅はしていない。しかし間に合ったとはいえ、ガイサル隊は満身創痍、全滅寸前だ。
「ガイサルさん無事ですか!!?」
「シノブなのか!!? 今の力は……」
「説明は後です!! 今、周りのゴーレムをざっとですが片付けます!!」
ゴーレムを壊す。壊す。壊す。拳で、魔法で、壊す。残り少ない時間の中、とにかく壊す。全部を破壊する事は不可能かも知れないが、出来るだけ多く壊す。壊す。壊す。
能力の限界が近い。それは感覚で分かる。せめてもう少し、ギリギリまで!!
そして壊して壊して壊して壊して、その能力が尽きる寸前だった。
視界に入るのはゴーレムに攻撃を受ける寸前のガイサルの姿。
俺はガイサルに飛び付いた。その瞬間に体を包む淡い光が消える。能力が途切れたのだ。つまり全く無防備の生身。こんな状態でゴーレムの攻撃を受けたら……
しかしもうどうにもならん!!
飛び付いたガイサルの体を強引に引き倒す。
直撃は避けた。しかしそのゴーレムの一撃は俺の体を掠める。
ただ掠めただけではあるが、そのまま吹き飛ばされる。
んん~紙の装甲とは言うが、俺にはその紙すりゃありゃしねぇ……そう、気絶である。
きゅぅ……




