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第5幕 授与式

 白髪で中肉中背の国王がパーティーホールに現れて玉座に座ると、ザワザワしていたホールは一瞬で静かになった。


 みんながすぐさま頭を下げ整列している中で、国王は優しい声で言葉を発した。


 「我が娘 第三王女ローザよ。前へ来なさい。」


 ローザが前に出ると、あちらこちらから小さな声で嘲笑する声が聞こえてきた。


 その声に王は繭を潜めたが、咎める事はせずに次の言葉へ移った。


 「この度の第2軍の功績を称え、3ヶ月の間2倍の報酬を与える。」


 「ありがたき幸せにございます。もう一つお願いがございます。」


 王は、ローザからお願いされた事が今迄なかったので躊躇しながらも頷いた。


 「戦死した遺族に報酬と、今後困らないように残された女子供に職を与えてやりたく思います。その一任を私にお願い致します。」


 「その事ならば、戦争のたびに国の国庫機関がきちんと動いているはずじゃ。」


 王の言葉に、ローザはグッと息を呑んだが諦めずに前を向いた。


 「前回戦死した下級兵士達の遺族には、上級兵士の月の報酬の1/5程度しか頂けませんでした。女子供はまともな職を得るのも難しく闇で売られてしまいます。これでは指揮も下がり、いざというとき戦ってくれる兵士は減るでしょうし、治安も悪化致します。」


 王はローザが、王の側室のせいで冷遇されている事は知っていて黙認していた。ただ家臣にまで飛び火しているとなると、確かにいざという時か不安だという事も一理あると考えた。


 「分かった。報酬の分配はローザ。其方に任せよう。国の国庫の内情も分かっていると聞いている。無茶はせんでくれよ?」


 「はい。畏まりました。ありがたき幸せにございます。」


 その時、王の近くに控えていた王の側近のドビュッシーが、金髪の短いきみをかきあげて、緑の瞳に解せない表情を浮かべて国王に訴えた。


 「王のご決断は御英断なれど、国の国庫の事にございます。第三王女よりも、ご側室のゼラルム様に一任をされるのが筋かと。」


 王の表情は曇ったが、側室のゼラルムという女に弱いのか考え込んでしまった。


 その瞬間、ローザの傍に控えていたジンが、ゆっくりと口を開いた。


 「畏れ多い事ですが、御側室様にお任せしてこのような事態を招いております。それをまた御側室様に任せれば、犠牲を払った国民は戦続きで疲れ果て、一揆を起こしかねません。御英断をお願い申し上げます。」


 そう言われて、悩んでいた王もやっと頭を上げた。


「ゼラルムには、ワシからしっかり伝えておこう。今回からは第3王女ローザに任せる事にしようぞ。」


 「ありがたき幸せにございます。」


 ローザが王に一礼すると、王の側近のドビュッシーはローザを睨みつけたが、それ以上の言葉を発する事はなかった。


 そのあと、王の号令でダンスパーティーが始まった。


 ローザはジンに「助かったわ。ありがとう。」と言うと、エスコートされていた腕を解きベートシュを探しにホールを回った。


 ジンは、そんなローザの隣を離れる事なく物言いたげな表情で歩いている。


 「いつまで探すおつもりですか?もとより他の女と来る事にしていた男など追いかけてもしょうがないでしょう?もうとっくにヒメール嬢の屋敷にでも向かっていると思われますが?」


 ローザも心の隅ではそう感じていたが、それを打ち消すように探していたから、ストレートに言われて流石のローザも目にいっぱいの涙をためていた。


 マズった。と小声で囁いてから口元に片手を当てたジンは、慌てて咳払いをした。


 「えーっと・・・。その、私はこう見えても司令官の味方です。少し言い過ぎました。ごめんなさい。」


 ローザは、頬に落ちてきそうな涙を、上を向いて流れないように堪えている。


 「分かってるわ。ジンが心配してくれてるからワザとズバズバ言ってくれてる事ぐらい。」


 ジンは、言葉に棘がありますよ。と苦笑いすると、ローザは涙が引っ込まなくなったのか、両手で顔を覆ってしまった。


 戦争がおころうが捕虜として囚われようが、王や側室の雑務を無理矢理押しつけられようが、貴族から罵声を浴びせられようが、ローザはいつも平静でいる。


 なのにベートシュの事だけは別だった。ベートシュの事となるとローザはすぐ泣くし、心は不安で押しつぶされそうになってしまう。ローザをいつも見ているジンは、そんな苦しんでいるローザを見るのが辛かった。


 「取り敢えずその先にレストルームがありますから、そこでお茶でも飲みましょう。」


 そう言って、顔を覆ってしまったローザをジンは優しく肩を抱きながら、レストルームに向かった

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