第4幕 ローザとベートシュ
ローザは、ベートシュに無理矢理手を引かれながら、パーティー会場の人気のないテラスに連れてこられていた。
「あの男は何なんだ!君は僕っていう婚約者がいるのに他の男と密会してたのか?」
怒りを露わにするベートシュは、どう見てもローザにヤキモチを焼いているわけではなく、男に恥をかかされた事が許せないという態度だった。
「私は、初めてお会いする方です。誰かは存じ上げません。」
そう言うローザに、ベートシュはムカついた表情のまま罵声を浴びせた。
「君は貴族全ての名前を網羅しているんじゃなかったのか?王女で第2軍司令官でもある君が、来てくれた貴族の名前すら知らないってどういう事だ?!」
ローザにとっても、男を知らない事を妙に思っているのに、そんなに怒鳴られると更に自分の不甲斐なさを感じて萎縮してしまう。話題を変えた方が良さそうだとローザは咄嗟に口を開いた。
「ところで、先程のヒメール嬢の事なのですが、埋め合わせをしに行かれるのですか?」
ローザにとってベートシュは、大好きでかけがえのないフィアンセなのだ。男の事も気になるが、また会いに行く事を黙って見過ごす事はできなかった。
「当たり前じゃないか!わざわざ僕とパーティーに来たのに1人で帰してしまったんだ。可愛そうじゃないか!」
悲しみが込み上げてくる中、ローザはグッと耐えてから口を開いた。
「今日は、私が率いる第2軍の凱旋パーティーでございます。隣国の上官を倒して、相手側の県境の領土を勝ち取り戻って参りました。なのに1ヶ月も前からヒメール嬢と来る事にしていたなどとは思いもよりませんでした。」
苦痛に歪む唇をグッと噛み締めて言うローザは、誰が見ても痛々しい表情をしていた。
そんな時、テラスの扉が空いて、しなやかな長い銀髪に、見目麗しく落ち着いた空気を纏う、軍服を着た男がローザの前に跪いた。
「ローザ司令官、国王様が参られました。すぐに授与式が始まります。参りましょう。」
そう言って、男はローザに手を差し出して立ち上がった。
「おい!ジン!僕に挨拶はなしかよ!」
黙って見ていたベートシュは、銀髪の見目麗しい男に怒鳴った。
その瞬間、冷ややかな目でジンはベートシュを睨みつけた。
「私は第2軍の副司令官ではありますが、公爵家の長男です。聖剣の騎士と名があるだけで戦にも出ず、平民出身のあなたに、私から何故挨拶をしなければならいのです?」
そう言い放ってフィッと顔を背けてローザに向き直った。
「お見苦しいところをお見せしました。参りましょう司令官。」
そう言い放つと、ジンはローザをエスコートしてその場を去ろうとした。
その瞬間、ローザは掠れた声でベートシュの方を振り返って言った。
「お願いです。もう浮気はよして下さい。心が折れそうです。」
そんなローザに、ベートシュは可笑しそうに笑った。
「人助けをしているだけで浮気などしていないのに酷いよ君は。ヤキモチを焼きすぎる女は嫌いなんだ。これ以上口を出さないでくれる?」
いつでも別れられますよ。ともとれる警告のような内容に、ローザは黙って足を前に進める他なかった。
ジンは怒りが爆発しそうな気持ちを抑えて、力なく歩くローザを支えるようにエスコートした。
「ローザ様 いい加減目を覚まして下さい。世の中にいい男は沢山います。あなたは立派ですが、男を見る目がなさすぎます。諦め切れないならこっそり暗殺でもして参りましょうか?」
物静かにローザと話す姿は、周りの者の目からはこんな毒を吐いているようには映っていない。
みんなから想像されている女性人気No.1のベンは、人がいいからワガママ王女に振り回されていると思われているからだ。
「迷惑かけちゃってごめんね。ベートシュは男の人だから浮気ぐらい許してあげなきゃいけないのに、ついつい自分の気持ちを押しつけてしまったから。」
そう言って落ち込むローザに、ジンは満面の笑顔で
答えた。
「私は彼女ができたら、浮気なんて馬鹿な事はしませんよ?あんな下級な人間と同等かのように、他の男達や私まで男の人という一つの括りで、括らないで下さいね?」
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