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第8話 命の灯火を燃やせ

(――来るッ!)


 進は何かが落ちてくる気配を感じた。咄嗟とっさに後ろへ下がり、落ちる丸太を回避し、倒れかけの木々が連なる隙間へ滑り込む。


 大和はその瞬間に進のいる木々の上に飛び乗り、木々にくくられた縄を木刀で斬り裂いた。


(ん……?)


 バキッ!


 進が感付くと同時に、大きな音が木々から鳴り響く。


 突如として木々は崩れ始める。木々の隙間にいた進は、なす術もなく潰れた。その重さは容易く人の骨を砕くほどであった。


 激痛が襲う。足も腰も胸も潰れかけ。


 それでも全力で立ち上がろうとする。大和はその木々の前に立ち、じっと見つめた。


(……自分で立ち上がれるな)


 大和は魂のような物が見えることがある。そして今も、目の前にはそれがある。生き物が持つ命の灯火ともしびが燃えている。目に映るそれは消えることなく、徐々に大きくなっていった。


「うおおおォォァ!!」


 進は雄叫びを轟かせ、木々の中からい上がる。大和の目には大炎が映っていた。


「ふん……俺が敵なら何度も殺せていたぞ。その木々は元々作っていた罠だ。敵はお前に有利だと思わせる罠を張るものだと肝に銘じておけ。直感が鋭くなれば敵の罠も見抜けるようになる」


 進は乱れた息を整えながら、大和の話を頭に入れていく。


「お前は無意識に逃げてきたのだろうが、全て俺の計算通りの順路だった。攻撃を避ける動作があまりにも単調すぎだ。要は、敵の手のひらで踊らされてたってわけだ。……敵に思考を読まれることは死を意味する」


 進は深く集中する。


(いつでも斬りかかれって言ってたよな……。今なら狙える――)


 進は思考を読まれないように、握っていた刀にゆっくりと力を入れ、「わかりました!!」と言って目の前の大和へ目掛けて斬りかかる。


――大和は、進が刀を振る瞬間に後方へ飛ぶ。


「惜しかったな! だがその調子だ。思考も動作も敵にバレては当たらない!」  


 だが進も避けられるのは想定済みだった。

 進は大きく一歩を踏み出し、大和の距離を素早く詰め、追撃の一撃を繰り出す。


(――届けェ!!)


 大和は真横の木を蹴って上へ跳び、進の追撃を軽々とかわしてみせた。


 その後も大和は木を蹴っては飛び、次々と他の木に移っていく。そして尋常ではない速さの木片を進へ投げつけ続ける。


 進は木片に当たらないように走り出す。しかし、進の速さを上回る速さで大和は木々の間を静かに飛び移る。

 進はまたしても大和を見失った。


(五感を集中させて見つけるんだ。……だめだ! 集中すると動きがにぶって木片に当たる!)


 精神は木片の攻撃によって、深い集中をできないでいた。


 敵が精神統一を待ってくれるはずもない。戦場では瞬時に五感を研ぎ澄ませながらも、動きもおろそかにしないことが必要となる。


(くそッ、どの道をどうやって行くかなんて考えてる余裕もない。取捨選択は一瞬だ……!) 


 木を右に避けるか、左に避けるか。傾斜をどう乗り越えるか、何を盾にするか。頭の中は大和の居場所どころではなくなっていた。


(そろそろ体の痛みが限界になる……。どの攻撃を受けて、どれを避けるか! 急所は避けなきゃ、足は止めるな!) 


 進の体の所々が、かわせなかった木片の痛みによって動きづらくなっていた。それでも立ち止まることはできない。


 そして、しばらく進むと木々に縄がくくられた場所に出くわした。進は少し動揺したが、使い方によっては有利になるのではないかと直感でひらめく。


(師匠は木の枝くらいの高さをずっと飛び移っている。だとしたら地上にいても狙われるだけだ。でもこの縄を使えば高低差の不利をなくせるかもしれない!)

 

 進はためらわずに紐を手で掴んでは足をかけ、ぶら下がっては他の縄へ飛び移る。


「へへッ、縄の上は安定しないけど、次から次へと飛び続ければなんとかなる!」


 だがそれは一歩間違えれば落下する危険な行為ということも理解していた。故に慎重に、しかし素早く。その様子は実に器用なものだった。

 

「やるなァ!!」


 進は頭上から声を聞く。

 咄嗟とっさに上を向くと同時に、真剣も頭上へ持っていく。視界に映るのはもちろん、声の主である大和だ。


 大和は上からの落下と共に、木刀で猛烈な一撃を叩きつけ、進はそれをなんとか剣で防ぐ。


「ーーッ!」


 進は枝の上で不安定な防ぎ方をしたため、上手く力をいなしきれずに落下した。


(まずい! 死ぬ! ……いや待て、冷静になれ。攻撃の受け方や着地の仕方は、その後の動作に繋がる重要なことだと教わったばかりじゃないか――)


 進は危機的状況により、無自覚の内に意識の集中をとても深い領域に落とし込んでいた。それは落ちる速度や時間の感覚が緩やかに感じられる程だった。


 そして上手く受け身を取り、着地の衝撃を最小限に抑えた。見上げると大和が満足気に笑っていた。 


(……やばい。物凄く胸騒ぎがする!)


 進の防衛本能は何かを悟る。

 すると、大和は進の周りを囲うように木々を飛び回る。木々の間に無数にくくられていた縄は、飛ぶことを想定として大和があらかじめ仕掛けていたものだった。


 大和の跳躍ちょうやくは、縄を足場とすることでさらに速度を増していく。


「さあ、ここから本番だ!」 

――ひと休みの後日談ズ――

『無能、有能の名称について』

 幕府内から広まった“無能力者”“有能力者”という言葉。本来人間誰しも特異能力を持っているが、その能力が役に立つか、火力はどれほどか、などの差は大きかった。


 能力至上主義の幕府では、能力差を明確にするために階級制度を何重にも施している。そのおかげで競争は激しく、日々高め合っている。その中、目安としてとある階級を境に“無能力者”“有能力者”に別けたのが始まりされる。


 そこから庶民にもその言葉は使われるようになった。例えば『無能お断り』などがそれにあたる。倒幕派の中には“無能”は差別用語だ、とする声もある。

 能力社会では、それに恵まれなかった者達は夢を見れない。

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