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第29話 森の神、現る、狩る 

新キャラのイメージ図は後書きにあります!

登場時に見てもらえれると分かりやすいと思います!

「森の神よ。俺達は悪い奴じゃない! 怒らせたなら謝ります。すいませんでした!」


 魔獣猪のトラウマにより、神様には素直に謝るのが進のマイルールになっていた。


(え、嘘、謝るの?)


 森の神は素直すぎる進に内心驚いた。

 しかし、森の神ではない。ただの若い女である。


(誠心誠意謝れば伝わるはず!)


(おかしい。侍がこんな簡単に頭を下げる? 本で読んだのはもっと……こいつ……油断させて殺そうって算段なのね? 森の神って茶番も隙を作らせるためってこと!?)


 女はやぶに隠れたまま、進は頭を下げたまま。はたから見たらただのマヌケであった。


「き、貴様らはなぜ、ここに来た!」


 森の神ではないと見抜かれていると自覚した女だが、なぜか神様っぽい威厳ありそうな口調で語る。

 進はこの喋り方で完全に信じ切ってしまった。むしろ前に出会した魔獣猪が人語を喋るのがおかしすぎたのだ。


「恐れながら、風の主の居る山を目指しております!」


(風の主!? なぜ幕府の手先が風の主の居場所を知っている? 少数の偵察か? ……またも刃向かう者達を殺すのね)


 女は最初から進達を幕府の手先だと思っている。森奥深くのこの場所で幕府に見つからないように生きたところ、暴かれたと勘違いしているのだ。


「お前らはまたそうやって……幕府の犬め! 許さない!」


「違う! 幕府じゃないです! むしろ敵です! 追われてる方です!」


 喋り方が普段に戻る女と、気付かないで必死な進。


「嘘だ! お前らはそうやって、そうやって……またアタシから大切なモノを奪ってくんだ!!」


 それは怒りと涙の混じった大声。

 頭の悪い進でも“神様激怒”くらいには分かったことだろう。


(被害妄想が強すぎる神様だぜ。謝っても許してくれないなら、やっぱり戦うしかないか?)


「……戦う気はありません」


 勿論、向かってきたら戦う準備はできている。心の中では万全だ。

 

(もう場所はバレた。ここで逃がせば、幕府の本体が来る。……また、殺される。……焼かれる)


 彼女の頭の中を巡るのは嫌な記憶、幕府にやられてきた嫌悪感。負の感情は選択肢を狭める。そして嫌悪は殺意へと変わる。


(――やぶから何か)


 進が感じ取ったのはどこか尖った気配、“殺気”である。


「両親のかたきッ!!」


 その一言と共に、彼女は姿を表した。

 

――声とは裏腹に、あまりに可愛らしく、目を奪われた。


 歳は進と同じくらいで十六、七だろう。肌は真白で、かといって病的ではない健康な色をしている。

 髪の毛の長さはあごくらい。前髪は眉を隠すほどの長さでぱっつんに揃えてある。後ろ髪はお団子でまとめられ、団子の串のようにされた髪飾りは紅葉もみじの色と形をしていた。

 白の半袖の着物で、上から薄緑、黄緑、赤をぼんやりと散らし、森の紅葉こうようを思わせる。白の二重四角の模様も所々に装飾されていた。帯は紅葉もみじがら刺繍ししゅうが施され、

 全身で“モミジ”を表現しているようだった。


(…………)


 その姿は、あまりにも可憐かれんだった。とはいっても、彼女は鋭い眼光で進を睨んでいるのだが。


「ッ、女の子!?」


 進は得体の知れない猛獣を想定していたため、驚きの後から安心が来た。


「って、寒そうな格好!」


「アンタもだよ!」


 彼女はすかさず反論した。


 彼女は半袖だが、進もペラペラな一枚の七分丈だ。進はその下に長袖黒シャツを着てはいるが、はたから見たら寒そうだろう。


 能力のあるこの世界、能力者は強靭な体を持ち、温度など関係はない。有能力者からすれば服を着る文化は、肌を隠すのと、ファッション的な意味合いしか持たず、冬だから着込むわけでもない。


「アンタ、無能なの?」


 そう疑ったのは“寒そう”という進の感覚は無能力者特有だからだ。有能力者も“寒い”という感覚はあるが、感覚自体を自由に扱える彼らにとって問題にはならない。


(見抜かれた、やっぱり神様は強い……。いや、人間か? 人型の神様ってこともあるが、それにしてはただの可愛い女の子じゃないか)


 相手が自分と同い年くらいの少女でも神様かもしれない、と思っている。


 進が困っているのは、自分が“戦う”という意識を持ってしまったことだ。


(森の神様でも、女の子とは戦いたくないなぁ……)


 神様相手に手は抜けないが、やり過ぎて殺してしまっても人の形をしていると後味が悪すぎる。


「……そうです。俺は無能です」


「やっぱり。アタシは有能だけど、無能だからって手加減しないから」


 あっさりと無能力だと認めた進、神様に嘘をついても仕方ないと思ったのだろう。むしろ正直に言うことで神の恵みでもあるかと期待したいところだが、逆に彼女は格下相手だと安心し、戦う準備に入ろうとしていた。


 “有能”と言う時点で神様ではないと分かるだろうが、やはり進は観察力が鈍いのかもしれない。


「すいません。女の子に剣は振りたくないです。謝るので許してはもらえないで――」


「何言ってんのよ! 弱いから逃げたいだけでしょ! ……幕府は女だろうが殺すくせに、」


 彼女の誤解は解けず、ずっと幕府の手先だと思われている。


「幕府じゃないって言ってるじゃないですか」


「じゃあなんでここに来たの! 幕府はすぐに嘘をつく! 許せない。そうやってお父さんを騙したんだ!」


 彼女は全く話を聞こうとはしない。聞いてくれないと人は腹が立つもので、進もそろそろ限界が近づいていた。『幕府ではないことを見抜けないなら神様ではない』とは疑わないのが進の頭の弱さだ。


 先程まで茂みに隠れていた彼女だが、今は起立して茂みから上半身が出ている。


 そして進へ迫る。数歩歩くと茂みから下半身も見えてきた。


「……えっ」


 進の目線が明らかに彼女の下半身を見つめているので、彼女も自然に目線を追って自分の下を見つめる。


 端折はしょって言えば、彼女はズボンもスカートも履いていなかった。


「ちょ、ダメでしょ! って、え、水着?」


 その例えは言い得て妙である。

 半袖の着物は帯の下まであると思っていたが、長さが足りてない。着物は帯の下、へそより下を隠していないのだ。

 

 着物の下に着ているのは黒い水着のような服。太ももまであるニーソックスを履いてはいるが、それがまた珍しさを際立きわだてる。


 進は「神様すげえ」と一言吐き、口は開いたままそれを見つめている。


「な、何がおかしい!」


 照れと怒りが混じったような表情の彼女。異性がまじまじと下半身を見つめているのだから怒るのは妥当だとうだろう。


「いや、おかしいっていうか、こっちが恥ずかしいというか……目のやり場に――」


「バカにしたわね! お母さんから貰ったこの服を!!」


「お母さん!? そりゃすごいお母さんだ……。あ、いや、ごめん」


 戸惑った進は頬を赤くして目線を外す。


 彼女は自分の服装を変だとは思わないが、言われるとこっちも恥ずかしくなり、顔を赤らめた。


 そして、徐々に進への怒りが燃え上がる。


「……幕府め、よくもアタシに恥をかかせてくれたわね!」


「バカにしてないです! ごめんなさい!」


「いいえ、生きては返さないわ」  


「素敵な服です!!」


 既に彼女は激怒していた。

 既に戦闘態勢である。


(殺意の圧力、)


 進には何となくそれが分かった。


 彼女は進へ突っ込んで来るわけでもなく、後ろへ飛ぶ。


(逃げる? いや違う。殺意は依然いぜんとこちらに向いている。必ず仕掛けてくる!)


 近接の進に比べ、彼女は刀も槍も持たない。持っているのは無数の短刀、クナイ。それは投げる為のもの。中距離こそが一方的に攻撃ができる最善の戦略。


 すなわち、距離を取ることは『戦闘開始』の合図と同義である。


(一線)


 彼女が帯に忍ばせたクナイを一本抜いて投げるまでは三秒も掛からなかった。

 その手慣れた動きから、今までの修練が垣間見える。


 鋭く、素早い一線。


 進の胸を目掛けて進むそれは、当たれば肉に刺さるだろう。

 動作も速かった、初動も速かった、進む速度も速かった、

 

 が、それだけに過ぎない。


(――見える)


 進は体を少し傾け、容易にかわしてみせた。


「なっ!」


 彼女が動揺を見せたのは進を一撃で仕留められると思ったからだ。“仕留める”とはいっても、殺すつもりはなく、行動不能にさせるのが狙いだった。


 無能力者であれば攻撃を見切る洞察力も、避ける反射神経も無いと思っていたのだ。


 けれども、視界ゼロの暗い林の中で大和の尋常でない投擲とうてきが降り注ぐ中を生き延びた進からすれば――


(どうってことねぇ)

イメージ図:林野色葉

挿絵(By みてみん)

こういう絵は初めてだったので苦戦しました。

挿絵にするつもりでしたが完成品見て「あれ? このシーンまだ無い?」と思い、イメージ図になりました。

〔重要〕

あと、柄。

着物とか帯は、時間掛かりすぎて執筆できなくなってしまったので柄はテキトーです(泣)。作中に書いてあるので脳内補正お願いします!!


――ひと休みの後日談ズ――

『魔眼』

 魔眼とは、別名“邪視”や“邪眼”とも言われる。

 “神眼”や“鬼眼”とも言われるが、この二つは人によっては別の意味合いを持つ。


 が、グレードの問題である。

 要するに“視力”以上の何かを持つ目のこと。


 特殊な目ではあるが、それと別に能力を持つ者も多い。


※他にも天眼、慧現、法眼、仏眼など作中に出てきても、興味ある方以外は深く考えない方がいい。“難しいはカッコイイ”である。

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