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第24話 それでもあんたは一流だった

 進が闘っていた時、大和は――。


「まだまだ元気だな、お前ら。夜でも視界は良好ってか? よく俺について来た」


 大和と、それを追う刺客五人は猛烈な速さで森を駆ける。小刻みに動く大和の背を追いながら大和の投擲を防ぐのは至難の技である。既に四人は体の至る所に傷ができていた。

 しかし、残る一人は先頭でありながら無傷だった。


 趣向を変え、大和は追ってくる後方へダイブし、一人を斬りつけ、もう一人を刀を振り下ろし地面へと叩きつけた。そうなればもう二人はついて来れず、戦線から離脱せざるを得ない。


 残るは三人、大和は再び逃げる。今度は最高速度で逃げてみせる。刺客の三人は追うので精一杯である。他のことを気にする余裕はない。その中で大和は後方へ投擲を繰り返す。それでも先頭の刺客はかわし続ける。


 ここで大和を見失えば逃げられたも同然。刺客は後ろの仲間が落ちようとも、死に物狂いで追いかけるしかない。


(くそッ、投げれる武器残り少ない!)


 けれど大和は連戦続き、残弾も体力も少ない。


(投げたヤツ絶対回収できないよな? クソッ、俺が丹精込めて削ってきたのに!)


 先頭の刺客は未だ無傷で追ってくる。


(おい、全部避け野郎。気付いてるか? お前の後ろにはもう誰もいないぜ? お前だけだよ、しぶといんだよ、ストーカー!)


 既に刺客は一人のみとなった。


 刺客の彼女は、目の前の大和が木の裏に隠れたのをしっかりと見た。彼女は大和の体力が限界となったことを悟る。

 

(取ったわ。さよならっ)


 彼女はやっと気づく、大和えものに追い付くことを意識しすぎて、後ろの仲間達が誰もいないことを。だがもう関係ない。一人で殺せば良いのだから。


 彼女は自信を持ちながらも、そこに油断ない。


 あとは殺すだけ。


 大和のいる木へ迫る――。



「ようこそ、ここ()俺の場所だ」


 その声は彼女の後ろから、


――鋭い投擲とうてきは、やわい肌に突き刺さる。


 彼女は振り返ろうとした瞬間に両モモを、振り返った瞬間に両腕を細い石の棒に貫かれた。


 体に埋め込まれた異物、有能力者であっても余程強くなければ瞬時の修復はできない。関節に的確に挟まればすぐに動くこともできない。俊敏さはとっくに殺された。


「ずっと追われてた。俺を見逃すことなく真っ直ぐに……」


「や、うそっ」


 彼女は襲われる小動物のように恐れた。

 大和の冷え切った目線は彼女の血管を収縮させ、絶望を与えた。

 

「お前なんだろ? “追跡の魔眼”ッ!!」


――彼女の首はまたたく間に薙ぎ払われる。


 接近した大和の刀が彼女の首を音もなく斬った。首を落とすのではなく、動脈のみを狙うかのように浅く切った。


 首元から血が噴射する。紅の雨が宙を舞う。


 彼女の口元を覆っていた布が落ち、美麗な顔が現れる。髪はふわりと浮き上がり、やがて落ちる。


 彼女の胴体はぴくりとも動かず、ただ涙を流し、冷たく固い地面へ。


 その姿があまりにもはかなく、美しかった。潰える命は、彼女本来の魅力を最後の最後に引き出した。


「……さよならだ。あんたみたいな綺麗な女に追われる気分は悪くなかったぜ? 刃物向けてなきゃ惚れちまってた」


 落ちる彼女を眺めながら、大和は近くの枝に乗り移る。これにて戦いは終わった。森の中で散り散りになった刺客達は動くこともできず、冷え切る夜と共に徐々に体温を奪われていくのだろう。


 久しぶりの全力疾走に、大和の疲労はピークに達していた。大和の体は便利なもので、動かなければ勝手に回復してくれる。呼吸を整え終えるまで木の上で休むことにした。


 その真下には先程殺した彼女がいる。


(もし俺らが昨日辺りに唐突に逃げたとしたら、一流の風月おまえらにはすぐに追いつかれただろうよ。……だから敢えてお前らの奇襲を待ってき乱し、統率を取れない間に逃げるつもりだった)


 大和は満天の星を静かに眺める。


(でも、“追跡の魔眼”だけは潰す必要があった。……その魔眼は厄介だが、遠くに逃げる程その効力は確実性を失う。俺達を見失えばヤバいあんたらは万が一を含め、必ず“追跡の魔眼”の能力者を連れてくると思ってた。……で、見事返り討ちにしてやった。連携が取れない中、暗い林で俺を迷わず追えるのは、追跡の魔眼(おまえ)だけだもんな)


 彼女は自らあぶり出されたと言える。


 落下した彼女は既に死んでいる。しかし、死体が黒い煙に包まれることはなかった。


(分かったことがある。風月は厳格な規則にのっとり、本当の一流以外は妖術刻印をされない。つまり、力量が認められてない若手は煙にならない)


 妖術刻印は、契約や組織としての印に使われることが多い。風月などの暗殺集団の妖術刻印は死後、体が黒い煙となり消えるようになっている。けれども風月と認められない者達は刻印をされない。要するに、死んだ場合は“風月でない者”として遺体は残る。


(“てるてる坊主”をやった時、完全に殺せば煙に変わっちまうと思って瀕死ひんしのまま縄で吊るしておいた。だが不意を突かれて一人確実に殺した。だがそいつは煙にはならなかった。今回の奇襲、声や練度から見ても若手の育成ってとこだったか?)


 舐められたことだが、それによって救われた。


 大和の考察通り、今回は若手の訓練となっていた。そして、見事作戦を成功させ、帰還した者達は正式に風月として認められるはずだった。


 追跡の魔眼の女の血は徐々に冷え、地面に熱を奪われていく。


「お前も若手だったんだな。一流と見紛みまがった。……本当に、しぶてぇ奴だったぜ」


 大和はそう呟いて、ある程度回復した体で進の元へ向かう。



(何が……“侍”としてだよ。……俺は人を殺した。教わってきた武術の数々は、人を活かすために学んだのに)


 進の頭上は木々の枝葉に覆われ、月の光は差し込まなかった。


 両手に残る肉の感触、脳裏に残る相手の鋭い目、それら全ては進に“侍”とは何かを投げかける。侍とは正義か、それとも単なる殺人鬼の名称か。悩んでもそこに正解などはなく、時代が悪いと割り切れるわけでもない。


 感情に任せられれば、どんなに楽か。冷静に考えられない頭なら、どんなに楽か。解決力の無い者の正義感は、ただ己を苦しませることしかできない。


「兄さん……俺、人を殺しちゃったよ。兄さんなら、人を殺すぐらいなら自分の命を捧げるのかな……。でも俺は、俺は……」


――どんな理由があれ、人を殺すことは許されない。……お前が立派な侍になっても、それだけは忘れないでくれ。


 それは兄の言葉。兄弟の誓いである。


 暗いもりの中、進は彷徨さまよう。揺れる体、揺れる心、行き先もなく歩く。魂が抜けないように、右手で空虚な胸を押さえながら。

――ひと休みの後日談ズ――

『進の好きな食べ物』

 みたらし団子である。

 といっても、団子全般が好きだ。特に、お月見団子が好きだという。ちなみにお餅もモチモチで大好きである。


 夜を優しく包み込むように照らす月は、闇夜に寄り添う温かさが感じられてとても好きらしい。お団子の最高のお供である。

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