第20話 寄って集って酷ぇ奴らだ
敵はもう確実にいる。すぐそこにいる。
(まだか、まだなのか?……いつだ)
けれども敵は一向に入ってこない。時間が経てば経つほど五感は研ぎ澄まされる。そして疲労感は増し、精神が擦り減っていく。
体感では長いが、時間にしておよそ三分もない。
カタン、カタン。
襖がゆっくりと開けられる。屋根裏からも少し音が漏れた。
天井と扉から合わせて二十人程度の集団が部屋に入った。そして、
フッと、大和は火を消した。
「「何ッ!?」」
敵から声が漏れる。予想外の暗闇。視覚情報の消失に声を上げる敵達。
(暗闇で声を出すとは、愚かすぎるぜ暗殺者共)
進は敵の愚かさと共に、たった数日で自身が大きく変わったことを実感した。
闇の中、進は敵の声で大体の敵の位置、人数を把握できたのだ。
敵は全員がバラバラな場所に移動していた。それは部屋全体を囲むような陣形を組む為のものだろうが、闇夜と化した初見の部屋ではまともな陣形など取れるはずもない。
(お前ら、味方の区別すら付いてないんじゃねーのか――えっ?)
認識が甘すぎた。
気づいた時には真上からは真剣、右からの短刀、苦無と思われる武器数本……。
(ヤバい、死ぬ……)
――絶対に生き残るぞ
師との約束。
“必ず生きる”という思いが、全身に力を与えた。
(“瞬刃流球壁”……!!)
日没まで進がただ不安に怯えていた訳ではない。生き残るための技をどれだけ脳内で繰り返したことか。
この技は、林の中での特訓で最後に見せたもの、木片を全て弾き返した新技の応用である。さらに完成度を上げ、この部屋での脳内想定を繰り返した末のもの。
刃先を球体状に走らせ、強度よりも速度を最大限にすることで隙間を作らせない防御の技。強度を高くするのは敵の攻撃が当たる部分のみでいい。しかしこの技は、神経と手首から腰辺りの筋肉を最大限に使う。
――球を模した剣の壁は、全ての攻撃を弾き返した。
(捌けた。俺の技が通じた!)
だが敵はそんな余韻に浸らせてはくれない。次から次へと攻撃が襲いかかる。
多少の誤差はあれど、敵は暗闇の中でも活動できている。彼らが部屋に入った瞬間に明かりは消えた。だが、彼らは明かりが消えるまでの数秒の景色を元に、部屋の全容を把握したようだ。
「進……!」
大和は進を気に掛けるように声を出す。
「進! 一度だけ声を上げてくれ!」
それは丁度、進の“瞬刃流球壁”が敵の攻撃に押され回転力を失い、流れが乱れ始め、次の一撃で技が破綻する時だった。
「ウオオーッ!」
進は考える暇もなく叫ぶ。
(――そこかッ)
大和は瞬時に投擲用の短刀を投げる。
進が頭上と左右に何かが通り抜けたのを感じると、次の瞬間には敵の攻撃は止んでいた。
「何者だ!」「こんなとこに縄が!?」「逃げろ! 一時撤退だ!」。闇の中、敵達の怒号が至る所から聞こえてくる。
(家の中は一体どうなってる……?)
刀を構えたまま進は立ち尽くす。
「明かりを灯せ! 早く!」
明かりが付く。誰もが大和の姿を捉えた。その姿は、明かりを持つ者を後ろから斬り殺す寸前――。
――矢をも上回る速度の剣先が首を掠め取る。
そして暗転。
敵によって何度か明かりは灯されるが、またすぐに消える。その様はコマ撮りのようなもので、その全てが大和の狂気に満ちた姿を写した。
闇の中、完全に見えているのは大和だけだろう。そんな非常事態に敵は混乱する。
「悪いな、この世界は俺の領域でな……」
その挑発は本心からだ。敵からすれば、たかが標的一人にここまで余裕を持たれること自体が焦りになる。
進に分かることは、大和が圧倒的優位だということのみだった。
(こんだけ敵がいると、投げてればブッ刺さるな)
また明かりが一瞬だけ灯される。その時、進には見てしまった。床に転がる敵の屍達、中には刀で壁に突き刺されていた者もいる。生存している敵は怪我や血を垂らす者が多く見えた。
大和は常に動きながら、投擲を繰り出す。部屋のあちらこちらを飛んで移動するのは、用意していた縄を引っ掛けるためだ。
(そろそろだな……)
大和は投擲で天井に四つ程の小さな穴を穿つ、それは屋根裏を貫通し、月の光が差し込んでくる。
「いいか、進。実戦こそ最良の鍛練だ。俺は今三つの技の応用してる。詳しくは後で教えてやるが、要は投擲だ。投擲は剣よりも遠距離かつノーリスクかつ一撃で殺傷、致命傷を与えられる。戦い方は剣だけなんて言ってたら死んじまうからな」
大和は敵が居ようとお構いなしで平然と語る。一流の暗殺集団が舐められたものである。
(投擲、でも投げているのは削った石だけじゃない。相手の武器もだ。敵に命中させるのも、刺さる速さで投げるのも、初見の敵の武器で殺傷能力を引き出せるのも、常人離れしすぎてる)
考えれば考える程に大和の凄さが分かってくる。
(――師匠、強すぎる。凄すぎる! 絶対技を盗みたい!)
大和に気を取られていると、背後から迫る敵に気付けず、察知した時には敵の短刀が目の手にあった。
(ッ――やば)
――敏捷たる小刀が飛び、勢いよく骨肉を穿つ音が鳴る。
「気は引き締めろよ?」
大和はこちらを見ずに、進の背後にいた敵の頭へ的確に小刀を投げつけていた。感謝と尊敬と共に、負けられないという気持ちが進の奮い立たせる。
「援軍を出せ! 控えの精鋭を寄越せ!」
敵の一人が部屋の外へ合図を出す。進も大和も部屋に入った人数だけだと思っていた為、予想外の事態となった。
「援軍って、お前ら暗殺者の癖に大勢で来たのかよ」
余裕がありながらも、大和は敵を睨みつける。声に寄ってきた敵をまた一人仕留めた。
「精鋭だか知らねーが。寄って集ってガキ一人殺そうなんて、ひでぇ話だぜ」
「馬鹿めっ。援護に来る精鋭達も、その控えもまだ残ってる! お前らにもう勝ち目はない!」
声を出したのは大和の投擲で傷を負わされた刺客の男。敵は仲間を殺された恨みか、感情が昂っているようだ。
(声が若いな。新参か? つーか、こいつら風月にしては弱すぎる。……若手を実戦で鍛えようとしてるのは俺だけじゃねーってことか)
「――ご丁寧にありがとなッ!」
大和は動ける敵を確実に仕留めていく。敵は暗殺者らしからぬ者も多く、暗闇の中でただ怯える者もいた。
(若いのだけで実戦に出させるとか、一流は厳しいねぇ)
大和は平静を保っていたが、進は圧倒的に怯えている。
(まだ敵が残ってるのに追加も控えもいるって、師匠でもその数を相手にするのは……)
「お前らぐらいなら百人いても俺には勝てねーぞ?」
大和は斬撃音と共にそう言った。それを聞いた敵は更に挑発してくる。
「虚勢を張るのもいい加減にしろ! 更に強い人達が来るんだからな!」
「んじゃ、その先輩達が来るまでお前らが保つといいな」
敵の指揮は下がる。大和は至る所に縄を結び、仕掛けを構築していく。
「我らが風月に道場を潰されたんだろぉ? 安心しろ、お前らもその雑魚共にすぐに会いに行けるんだからなぁ!」
その言葉は敵の虚勢、負け惜しみに過ぎない。進は憤りを覚えたが、神経を乱さないように何とか止めた。
すると何処かから肉が刻まれる音が響く。そこでは尋常ではない殺気を醸し出した大和が、刺客の一人を床に貫通するまで突き刺していた。
「お前ら如きに正道を行く武人達の何が分かる? 殺すことしか能の無い屑は寝てろ」
大和は冷静ながら狂気に満ちていた。
そして増援の精鋭達が部屋に入る。刺客の中の一人の能力と思われる“透体”によって、扉のない場所から全方位に現れる。
この時の“透体”の能力は、触った物体を一時的に誰でも通り抜けることができるようにするもの。今回は家に触れたことにより、扉でなくとも、どの場所からでも入ることが可能となった。
しかし、その能力には回数制限があり、もう部屋を出ることはできない。
(お構いなしに次々と湧き出てくるじゃねーか)
大和は左手に紐を、右手には刀を持ち、部屋の角で低姿勢のまま敵を一時観察する。
(“鬼眼・見極り”ッ)
この技は大和特有の能力である。敵の特異能力の大体を見極めることができる。
(厄介なのは、“暗視”と“透体”くらいか。他は本領発揮させる前に殺せばいい)
“暗視”とは暗闇でも通常の視力を発揮する能力。今回は一人いれば全員に同じ効果を付与できるようだ。
(……さあ、今からここが地獄に変わるぜ?)
大和は敢えて“暗視”がいると知らず、無警戒のフリをして暗闇の部屋中央に跳ぶ。それと同時に敵達も一斉に攻撃を仕掛けた。
そして大和は心の中で唱える。
(てるてる坊主……)
――ひと休みの後日談ズ――
『今日の技』(興味ある方だけ読んでください)
大和が今回使っていた技法は三種類。読者はべつに興味ないだろうから省いている。
武器即操法。
敵の武器や落ちている装備を、即時に斬る、投げる等で自分の“もの”にする技術。
武器の使い方は似ている部分が多い。多くの武器に触れることで瞬時に性能を引き出せ、応用や対処ができる。
投武放射技法。
石や武器などを投げて攻撃をする技法。物の流れや、筋肉の使い方、動きを理解し実践する。物体の形状などでも投げ方を変え、殺傷能力を上げる。
投擲的当術。
投擲を標的に当てる技術。“投武放射技法”を応用、併用する。速度や威力は“投武放射技法”で出せる。
この技術は、遠くの的に当てることや、右手に三個の石を持って一度に放ち、三人に当てる等の技術である。
習得すると多数の敵にも立ち向かえる。いわばコントロール等のテクニック面である。
大和には、上記のような習得している技がまだまだある。(作者は全ての技を把握しながら「この場合の対応をどうするか」や「この動きはこの技法を持っているから可能」等を判断しているらしい)




