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第16話 また、守られる側だ

 声のした方へ元国宝は振り向くと、そこには立派な髭を生やした大男がいた。覇気のみで言えば元国宝をしのぐほどだった。

 現に、進と元国宝、その他周りの全ての者が動作を止めた。


たくましき少年よ。その気高き心に敬意を」


 口ぶりは穏やかで、賢者のような落ち着きを持つ。大男は年齢にして五十代程。羽織る衣服は汚れてはいないが、決して上等なものではなかった。しかしその立ち姿は平民とは思えない高貴なオーラを漂わせていた。


 周りで見ていた人には、この男が只者ではないことだけは分かり、ただ唖然とする。その静寂は一秒もなかっただろうが、進の体感ではとても長く感じられた。


「やっ……ぱり。……皆見てますよ。だからやめろと――」


 大男の後ろから新たに二十代程の若い男が現れる。

 その男はため息をつき、首を傾げていた。大男ほどのオーラではないが、彼にも賢者のような風格があった。


――時をさかのぼること、進が団子屋を出る十分ほど前。


「ここが江戸のみたらし団子か! 村の者たちへ大量に買って帰るぞ、刈谷かりや!」


 この中年の大男は、小国の王――覇武はぶ隆皇りゅうこう


「バカですか? 腐ります。重いです。カピカピのカチカチです」


 そして、この若い男が付き人――覇武はぶ刈谷かりやである。  

 

 二人のいる村は今年、幕府に増税や兵役などの新たな制度を勧告された。今日はその腹いせに文句を言いに来たのだ。と言っても、政治的な意味も勿論込みで、なおかつ用意周到に大きな会議の準備で慌ただしい年末を狙った。

 覇武の堂々とした態度と、刈谷の理論的な物言いで、こちらに優位な条件を叩き出すことに成功した。

  

 今はその帰り。みたらし団子を三十個買い食いしながら、作戦の成功を祝いつつ江戸を離れようとしている矢先、道の先で少女が大泣きしているのが目に入った。


「……団子をあげようか」


「駄目です。王よ、貴方は我が国の長。であるからして、江戸の町中で目立つことは許されないのです」


 この刈谷という男は何をするにも手厳しい。


「しかしだなぁ……可哀想じゃろう? 一旦王は置いといて、一人の男として……」


「貴方は何をしても目立ちすぎるでしょう」  


 見た目にして、二十代に叱られる五十代の王。刈谷の言っていることは至極真っ当である。問題を起こしては非常に不味いのだ。


「いいですか? 貴方がここにいると分かれば即座に斬りかかる連中もいるのです」 


「――そこはお主の護衛もあるしだな? 我が伝説の槍が無くとも数十程度なら儂も負けぬし?」


「では、江戸内で問題を起こし、それを弱みとされ、我が国を攻め落とす口実にされたら?」


「そ、それは……。さすがに、無理があるであろう?」


「そういうことを平気でするのが幕府です」


 覇武は下を向いてため息をつく。

 彼には王の資質があるが、堅苦しいことは苦手だ。


「……せ、せめて、泣き止むまで、見守ろうではないか? 我が民の子でなくとも、誰の子であろうと子は宝だ。放っておけぬ」


 刈谷が目を細めると、覇武は考えるように顎髭を触ってから団子を差し出した。


「結構です」


「え……」


「あの子が泣き止むまで見守りましょう」


 覇武は刈谷の両肩を二度軽く叩いては掴み、笑みを浮かべる。刈谷は覇武には見えないようにクスッと笑った。


 そこから少し経って少女とその父親が元人間国宝に絡まれ、止めに行こうとするが。


「王よ! 腕輪にみたらしが!」


「お、すまんすまん。よそ見を」

 

 食べていた団子からみたらしが落ち、左手に付けている黄金の腕輪を汚した。

 その腕輪には九体の龍の頭が装飾されていた。


 そうこうしている内に、進と元国宝の斬り合いが始まっていた。


「止めるしかないだろう」


「駄目です、王よ。関わってはいけません」


 進がボコボコにされた。


「しかし、あの少年は勇敢だ。見過ごすわけには」


「駄目です」


 また進がボコボコにされた。もう本当に死にそうだ。


「いや、助けよう」


「……はぁ」


――というわけで、今に至る。


「おいジジイ。誰かは知らねぇが、侍同士の戦いに水を差す気か?」


 元国宝はガンを飛ばす。が、覇武という男にそれは通じない。


「クレームとな? むしろこちらの台詞である」


「あ?」


「とても美味い団子を気持ちよく食べ歩いていたというのに、お主のせいで不味くなったのだ。まあ、それでも美味かったがな! ご馳走さんだ!」


 と言って団子の竹串を元国宝の顔へ向ける。


「それとな、確かにジジイじゃが。ジジイに向かってジジイとはいかがなものか?」


「ッ父上、そこじゃないです」


 刈谷は覇武の竹串を取り、持っていた紙袋にしまった。進は覇武と刈谷を見上げては感謝を述べる。


「かたじけない。お二方」


「声が出せる程度まで回復したなら何よりです。父上の御慈悲に感謝するのですね」


 気がつくと周りの人々の注目は覇武に集まっていた。覇武は少し照れるように髭を撫でる。


「江戸でも儂は人気のようじゃな」


「はぁ……なぜ目立ってしまわれるのですか、何のために江戸に来たのか分かっておいでで――」


「刈谷。全てを差し置いても人命は尊い。それを見捨てることこそ恥である」


 刈谷は大きなため息をついた。このため息には様々な思いが詰まっていたが、一番はこの場で本名を呼ばれたことだ。


 覇武と刈谷の様子は主従関係が明確になっており、周りの人々も偉い男とその部下ぐらいには察しがついたことだろう。


「邪魔するなら、お前らも斬り捨てる」

 

「貴様ッ!」


「――捨ておけ」


 元国宝は虎狼の如く覇武を睨みつける。刈谷の怒りは覇武の一言に止められた。


(……守るはずが、守られる側になっちまったな、俺。もっと強くならねぇと、守りたいモノも守れない)


 進はそう強く心に決めた。

新キャラ紹介!

覇武隆皇――大男のオッサン、小国の王。

覇武刈谷――隆皇の補佐、理責め若男。


――ひと休みの後日談ズ――

『人間国宝』

 芸や魅力に秀でた者達を幕府が指定することで選ばれる。

 犯罪者と思わしき者達も人間国宝と指定されているのはなぜか?


 これはある一説。

 とある大泥棒が貴族達から金品を盗み町内にばら撒く事件が多発した。何度も取り押さえようと試みたがいつも逃げられてしまう。町民達は「彼は正義」だの応援し始めるわ「金品貰って万歳」だののてんやわんや。

 

 幕府の顔丸潰れ。そんな中一人だけ大笑いをしていたのが、統治者である。


 彼は大泥棒の人気に目を付けた。「奴は商売になる!」と言い、


「次はこの屋敷を狙ってみろ。金品は追加で置いといてやった。もしこの屋敷から無事盗めたのならまた別の金品を他の屋敷に用意しよう」


 と挑戦状を町内に公開した。大泥棒はそれに乗り、泥棒を繰り返す。統治者は、大泥棒のファンが応援することを許し、屋敷の前に陣取る者には観覧料を取った。何をするにも金を取り、彼のグッズまで販売させた。集めた金は被害にあった貴族に返還し、恩を売ることにも成功。


 それは発展し、紙芝居や歌舞伎、様々ところにまで広まる。そうして一種のエンターテインメントに成長させた。その経済効果は統治者の狙い通り凄まじかった。


 そこから幕府は、人気者は犯罪者であれ誰であれ人間国宝と指定するようになったらしい。

 

(もちろん、中途半端な者や、エンターテインメント性がなく金にならない悪党共は捕まえるという)

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