閉じ込められました。2回も。
「開かない……」
「マジかよ……」
ナツメとカイはその場にへたりこむ。
「幸い空気は通ってるみたいだから良さそうだが……」
「なんでよりによってカイなわけ?」
「俺にあたるなよ」
「あーイケメンと2人きりの方が良かったのに‥‥」
ナツメはブーたれている。
「……冷静に考えろ。相手が誰だろうがここから出られんことには何ともならんだろ」
そう言いながらも、無事に出られる保証はない。
「明日のニュースで出るのかな『ミイラ化遺体発見』とか」
「冗談でも言うな。そういうことは」
……しばし流れる沈黙。
「なぇ……なんか暑くない?」
「頼むから、息上げて俺に話かけるな」
余裕そうにふるまっているが、明らかにカイの余裕がなくなっている。
「……なぁ、ナツメよ」
「なぁに?」
「だーかーらー息上げるな」
……俺がおかしいのか?こんな反応するのは。
「で、なに?」
「いや……悪かったな、イケメンじゃなくて」
「今さらそれ蒸し返す?」
クスクスとナツメは笑う。
「……カイ、希望が見えてきた。」
どうやら人の気配がする。
俺達はありったけの大声をあげた。
……しかし、それも無駄に体力を消耗しただけで、人の気配は消えていった。
「疲れたぁ……」
「わかりきってること言わない。あと息上げるな」
いつまでここに閉じ込められるんだろう。
「……ナツメ?」
ナツメはすごいな。この状況下で寝てるよ。
たまに漏れる吐息に過敏に反応してしまう自分にいら立つ。
カチリ、と音がする。
「おい、誰かいるのか?」
「います、ここに二人」
助かった。
閉じ込められてから半日過ぎていたらしい。
ナツメの両親も俺の両親も無事に見つかったことを喜んでいた。
「一応確認するけど、何もないよね?」
「ありません、誓って」
そう、ならよかった。とナツメの両親は安堵している。
「カイ、また学校でね」
「おう」
しかし、それがナツメとかわした最後の会話だった。
風評被害というやつを恐れたナツメの両親は引っ越しを決めたらしい。
実際、そんなものはなかったし、俺とナツメを冷やかす奴もいなかったのだが。
そんなこんなで時は過ぎていき、
制服の時期を過ぎ、俺はそこそこの会社に就職した。
「あー、カイじゃん。久しぶり~」
懐かしそうに目をキラキラさせているナツメがそこにいた。
「……おう」
久しぶりに会ったナツメは相変わらず無防備な奴だった。
「ずっと気になってたんだよ、お別れちゃんと言えなかったし」
「元気そうだな」
俺はまともにナツメの顔を見れなくなっていた。
「そうだ、再会記念に飲み行こう」
「……ナツメよ」
「なに?」
「もう俺に関わるな。話しかけるな」
「カイ?」
「迷惑、なんだよ。嫌でも思い出すだろ。『あの時』を」
ナツメを否定する発言、だとは自分でもわかっていた。
でも、言わずにはいられなかった。
「そう……だよね。ゴメン、もう話しかけない」
それ以降、俺達は挨拶以外は交わさない関係になっていた。
あの日、エレベータで二人きりになるまでは。
不穏な音がして、エレベータの電源が落ちる。
「うそ……」
「マジか…‥」
電源が落ちてる以上、復旧までは時間がかかるだろう。
「カイ…‥」
「とりあえず落ち着け、絶対復旧するから」
「………」
「………」
沈黙は続く。
少なくとも『あの時』とは違う。
そう時間もかからず復旧するだろう。
「カイ……」
「できれば息上げて話すのはやめてくれ」
「わかった」
しかし、警備会社の反応遅くないか?
一応会社は稼働している時間だろ。
「大丈夫か、ナツメよ」
「……うん、大丈夫」
これ、また発見されたらナツメの両親に疑われるのかな。
「復旧、しないね」
「何してんだよ管理会社~」
実際にはそんなに時間は経ってないのかもしれないが、
俺としてはこの状況は非常にまずい。
「非常用ボタン、生きてるかな」
「ダメもとで押してみて」
ナツメがカチカチと押すが、外につながっている感じはない。
「停電、なのか?」
「停電でもすぐ予備電源で復旧するはずでしょ」
一瞬目を合わせたが、すぐにお互いがそらした。
「……悪いな、また俺で」
「いきなり、何?」
「いや、なんとなく」
ナツメはクスクスと笑いだす。
「……笑う元気があるなら大丈夫だな」
チカチカとライトがつきだした。
ようやく復旧したらしい。
「非常ボタン、早く押せ」
「あ、うん」
そこからはさすがは管理会社、対応が早かった。
無事助け出された俺達は病院に運ばれたが、すぐに解放された。
「太陽まぶしー」
「外出られたー」
外はまだ日が高い。
やはり閉じ込められたのはそんなに長い時間ではなかったらしい。
「カイ、また明日ね」
「……」
その時、俺はナツメと離れたくないと気づかされる。
「ナツメよ」
「……?」
「ちょっと散歩しないか、近くの公園まで」
「別に……いいけど」
「ほれ、コーヒー」
自販機の缶コーヒーを手渡す。
「ありがと」
俺は自分の不甲斐なさを知らされる。
「ナツメよ」
「なに?」
「その……なんだ……悪かったな」
「カイは全然悪くないじゃん」
「いや、まぁそうなんだけど……」
がんばれ、俺。
「その……これも縁だし……」
『付き合いません(か)?』
「えっ……と‥‥」
まさかのハモリとは。
お互いに吹き出してしまった。
「と、とにかく健全なお付き合いから、ということで」
「そ、そうですね」
ナツメが俺の名字を名乗るのはそれから数年後の事である。