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お姉ちゃん

作者: 胡桃幸子

 私の朝は、お姉ちゃんを起こすことから始まる。

「お姉ちゃん!起きて!」

「………………」

「早く起きないと朝ごはん冷めちゃうよー?」

「ん、んぅ……」

お姉ちゃんは私の双子の姉。産まれた時からご飯もお風呂も眠るのもずーっと一緒。お姉ちゃんは少し抜けているところがあるからこんなふうに私がお世話してあげないとぐうたら人間になっちゃう。

「うぅ……」

「あっ、やっと起きた!今日の朝ごはんなんだろうね、早く降りて確かめよう?ああ、その前にまず顔洗わないと!」

寝ぼけまなこをこするお姉ちゃんの背を押して洗面所まで促す。のろのろとお姉ちゃんは顔を洗って、またのろのろとリビングに足を向けた。

 「おはよう。ご飯、できてるわよ」

「おはよ……お母さん……」

「おはよー!」

カチャカチャとお弁当を作っているお母さんに朝の挨拶をして、並んで席に座る。するとお姉ちゃんがうげぇ、と声を上げた。

「今日焼き魚じゃん……」

「えー?私は好きだよ、お魚!」

「好き嫌いは駄目っていつも言ってるでしょ?我慢して食べなさい」

「うえぇ……」

文句を言いながらお姉ちゃんはもそもそとお魚を食べる。なんだかんだ言ってちゃんと食べるあたりやっぱりお姉ちゃんはいい子だ。


 ご飯を食べたら歯を磨いて、制服に着替えて家を出る。近所の高校に入学したから徒歩通学なのは楽だ。

いつも通り友達と挨拶を交わして席につく。

「あ、やば」

「どうしたの、お姉ちゃん?」

「教科書忘れた……」

「もー、だからちゃんと確認するように言ったじゃん」

「同じクラスの子に借りるのは出来ないから隣行ってこよ……」

「はいはいいってらっしゃーい」

ヒラヒラを手を振って見送る。

数分して帰ってきたお姉ちゃんは安心したようにふうと一息ついた。


 授業はつまらない。永遠先生の書いたことを板書して問題解いての繰り返し。それをお姉ちゃんは黙々とやっている。クラスのほとんどが寝ちゃってるのに、お姉ちゃんは真面目さんだ。私はふわあとあくびをして黒板を見直した。

 「今日の授業はここまで。次小テストやるからなー」

「うげー」

「俺小テスト捨てる」

「勇者だなお前」

授業が終わってざわざわしだした教室。そんな中お姉ちゃんはすっくと立って教室のドアへ向かう。

「あ、教科書返しに行くんだね。リカちゃんでしょ?私も行くー」

お姉ちゃんを追いかけて教室を出ると丁度隣の教室の前の廊下でお姉ちゃんとリカちゃんが話してた。リカちゃんは可愛くておしゃれでまさにイマドキのオンナノコって感じの娘だ。お姉ちゃんも可愛いけどね!

「ねーねー何の話してるのー?」

「こないだ出来た駅前のクレープ屋さん、あるじゃん?」

「あー、あるね」

「あっ、あそこ?美味しそうだなーっていつも思ってた!」

「なんと!そこの割引クーポンを、ゲットしました!!」

カッコよく、そして高らかにリカちゃんはクーポンを掲げる。

「な……んだと……!?」

「うわぁ、いいなぁ!」

「ふっ……。何と考えているかは分かるぞ、少女よ」

ぴらぴらクーポンを揺らして少しもったいぶったように言うリカちゃん。

「行きたいのだろう、食したいのだろう、クレープを!!」

「行きたいです連れて行ってくださいリカ様」

「リカ様ー!!」

「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ……。いいだろう、連れて行ってやろう。だから今日の放課後は空けといてね!」

ウィンクする彼女にこくこくと二人して頷いた。


 そして待ちに待った放課後。

「ほら、とっとと行かないと。人気のお店なんだから」

「待ってまだ靴履けてない!」

「お姉ちゃん早くー」

ちょっとどんくさいお姉ちゃんは靴を履くのも少し時間がかかる。ようやっと履けたらしいお姉ちゃんは駆け寄って来た。

「隊長、準備万端です!」

「うむ、よろしい!」

「出発しんこー!」

そのままパタパタと走る。早くつかないとたくさん並ぶことになっちゃうからだ。


 走っていると信号に差し掛かった。色は青。人通りは少ないからけっこう走れる。

「ま、待って……」

「ほらー、早くしなよー?信号渡ったらもう一直線だからねー」

体力の無いお姉ちゃんはこれだけの距離で息をきらしている。私はその後ろから見守るように走っていた。

するとその時、私の視界の端に映ったものがあった。

信号無視のトラックだ。そのまま行ったらお姉ちゃんにぶつかる。そうなったらお姉ちゃんはただじゃ済まない。けどお姉ちゃんは走るのに必死で気付く様子もない。

「お姉ちゃん危ない!」

私は全力のダッシュで、お姉ちゃんとトラックの間に入った。トラックがすぐそばに迫って初めてその存在に気が付いたお姉ちゃんはスピードを上げて避けようとする。


ドゥン


視界が回った。数メートル飛んだ感じがして、地面にどしゃりと叩きつけられる。私がぶつかったことでトラックの速度が少し落ちたのかお姉ちゃんは避けきることができたみたいだ。トラックはそのまま走り去って行った。

「ちょっとー、今の何!?めちゃ危なかったじゃん!」

「ヒヤヒヤした……」

「あのトラック!写メったからね!ケーサツに届けてやるー!!」

「それだけで何とかなるとは思わないけど……。取り敢えず、クレープ屋さん、行こ?私は無事だし」

「むぅ……。アンタがそう言うならいいけどさぁ……」

お姉ちゃん達は地面に転がる私には目も向けずにまた走って行く。

うん、そりゃそうだよね。だってお姉ちゃん、












一人っ子だもんね。

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