1-8 4人目……!?
翌朝、俺が教室に入ると、ざわめきが起こった。
「オ、オメー、マッハクンとタイマン張って無傷なンかヨ……!?」
吉本が目を丸くしている。
昨日はあのあと異世界で暴走行為につきあわされたので学校にはもどっていなかったのだ。
「なんとか無事に切りぬけたよ、ハハハ」
俺は笑ってごまかした。前の異世界から能力が引きつがれて――なんてことを説明するわけにもいかない。
同級生たちが俺を遠巻きにして何やらささやきあう。
「このダサ坊がマッハクンとタメ張る実力だってのかヨ……!?」
「この学校の勢力図がかわるゼ……!?」
「やっぱ少年院帰りは伊達じゃねーナ……」
周囲の声の中に聞きずてならないフェイクニュースが交じっているようだが、気のせいだろうか。
彼らの中から3人の男が立ちあがり、俺に迫ってきた。いずれも接客業の面接には決して受かりそうにない髪形・髪色をしている。
「コイツをブッチメりゃー俺もマッハクンと互角以上だってコトだよナ……!?」
「こんな雑魚1匹殺るだけで名前あげられンだからオイシー話だゼ……!?」
「ヒャハァ! 鯖ヶ崎高1年シメンのは俺たちだァ……!?」
何なんだコイツら……。人を殺して名前をあげるってどういうこと? 旅の武芸者みたいな世界観を持ってらっしゃるのな。
取りかこまれて、襟首をつかまれる。
「ヒッ……」
「ヘヘヘ、いただきィ」
DQNが拳を振りあげたそのとき――
背後で戸が開かれた。
「オイオイ、うちの旗持ちに何してくれてンのヨ、彼氏ィ……!?」
ふりかえると、そこにはマッハクンが立っていた。そのうしろにはナイトとフブキもいる。
「えっ……コイツ、イヤこのお方が羅愚奈落の旗持ちィ……!?」
DQNが顔色をかえる。
ナイトが相手の毛穴まで見えそうな距離からソイツにガンをくれた。
「オメー、その手は何ヨ……!?」
「イ、イヤ、コレは……ネクタイが曲がってたンで直してさしあげてたンス……ハイ……」
DQNは俺から手を離し、乱れた襟を撫でるようにして直す。
残り2人のDQNの前にフブキが進みでる。
「オメーら、コイツにアヤつけるってコトは羅愚奈落に弓引くンと同じだかンナ……!?」
彼女がいうとDQNたちは、
「そ、そんなことしませンヨ……」
「勘弁してくださいヨ、フブキサン……」
卑屈な表情を浮かべる。
DQNから解放された俺はほっと一息ついた。
羅愚奈落の面々が来てくれたおかげでDQNの魔の手から逃れられた。まあ、こっちもまたDQNなんだけど。
昨日召喚したドラゴンがいってたことじゃないが、まるでともに冒険をするパーティーだ。
ていうかこの学校、ソロプレイで生きぬくことがほぼ不可能って、難易度設定バグってんだろ……。
「オーシ、オメー、ココに名前書け……!?」
マッハクンが机の上に日の丸の旗をひろげる。
白地の部分に「桜木音速」「荒垣騎士」「大和扶々稀」と書かれている。
ここに名を連ねたらもう引きかえせない。
だが……暴走りつづけるしかねえ! この学校で生きていくためには!
俺はマッハクンから渡されたサインペンで旗に署名した。
「俺が羅愚奈落第4の男、山岡和隆じゃ――――――イ! 文句ある奴ァかかってこいやァ――――――ッ!」
ヤケクソで叫ぶ声は静まりかえる教室に響きわたった。
ごくフツーの高校生・山岡和隆が死んだ瞬間である。
族のみんなが集まってくる。
「夜露死苦な、カズゥ」
「気合入れろヨォ……!?」
「俺らで関東統一すンゾ……!? 羅愚奈落は天下布武だかンヨ……!?」
3人に肩を揺さぶられながら俺は、次に異世界転移するならのんびりスローライフ系のところがいいなあとぼんやり考えていた。