1-4 スピードの向こう側……!?
「ココがスピードの向こう側、異世界だヨゥ……!?」
マッハクンが俺をにらみつける。
困惑している俺を見て、フブキがせせら笑う。
「コイツ、異世界知らねーンかヨ」
「いや、異世界はわかるんだが……なんでバイク乗ってるだけで来れるんだ?」
「そりゃオメー、県内の公道で150km以上出せば異世界来れンだろーがヨ……!? スピードの向こう側だかンヨ……!?」
「マジか……」
そんな楽に来られるなんて、なんだかズルい気がする。俺なんてトラックに轢かれて意識不明の重体になるというヤバすぎる代償を払うことでようやく異世界に行けたというのに。
「俺らの祖父さんの時代は族とかいっぱいいたらしーがよォ――」
ナイトがいう。「警察の取りしまりが厳しくなってみんな解散しちまったンだ。だけど最近異世界来る方法がわかったンで、みんなコッチ来て暴走ってンだヨ」
「みんな……?」
おかしい……。異世界来るのって陰キャの特権じゃねーのかよ。
「ンなコトよりヨォ――」
マッハクンがバイクから降りて俺に詰めよってくる。「早エートコ、タイマン張ろーゼ……!? 俺の原チャみてーにグッシャグシャにしてやッからヨ……!?」
「ヒッ……」
これさあ、ひょっとして俺、殺されて埋められちゃうんじゃないの? 異世界だから警察の目も届かないし。
目の前のマッハクンは、かつて俺の中学校でナンバーワンDQNだった吉本を子供扱いするほどの強者。俺に勝ち目はない。
だが、諦めて異世界の土となるわけにもいかない。俺だって前にいた異世界では勇者をやっていたのだ。わずかでも勝機があるのならそこに賭ける!
「タイマンだァ……?」
俺はポケットに手をつっこみ、マッハクンをにらみつけた。「しねーよ、そんなもん」
「アァ……!?」
相手もにらみかえしてくる。はっきりいってメチャメチャ怖い。さすが本職だ。
「オメー、ビッてンかヨ……!?」
「ビビッてねーよ」
「じゃあタイマンだろーがヨ……!?」
「だからそれはしねーッつッてんだろうがよ」
「テメー、何ノベてンだコラ……!?」
マッハクンは明らかにイラついている。
ここで切り札を出す。
俺はポケットの中の手を出して、マッハクンの背後を指差した。
「タイマンなんかより……バイク勝負じゃオラ――――――ッ!」
「アァ……!?」
キレ顔のマッハクンが鼻の頭がくっつくくらいの距離まで迫ってきた。「なんでオメーと単車で勝負しなきゃなンねーンだヨ……!?」
「ん? 俺に負けるのが怖いのか?」
「アァ……!? 負けるわけねーだろーがヨ……!? ンじゃ、やってやンヨ……!?」
よっしゃ――――――ッ!
喧嘩勝負なら100%負けるが、乗り物での勝負なら腕力のない俺にもワンチャンある。バイクはゲームでけっこう乗ってるからなんとかなるだろう。シフトチェンジのやり方も一応知ってる。
「でもヨォ、マッハァ――」
フブキがいう。「コイツ、単車ねーじゃンヨ」
それなんですよね~。俺の作戦における唯一の穴。
しかしそのとき、それを埋めてくれる救世主が!
「俺の使えヨ」
なんとナイトが自分のバイクを押してこちらへやってくるではないか。
フブキが目を丸くする。
「でもオメー、バリバリ改造ったそのZ400FX、このダサ坊に乗りこなせるわけねーベ」
「なァに、だいじょーぶだベ」
ナイトが俺にほほえみかける。「オメーさっき、この単車が遅せーってゆったよナァ……!? 遅せーンだから当然乗りこなせるわけだ……!?」
「ヒッ……」
意外と根に持つタイプでいらっしゃる。
「オメーが負けたらヨ、俺の愛車に泥塗ったも同じだかンヨ、マッハに代わって俺がオメーをグシャグシャにしてやンゼ……!?」
「たいした話じゃねーな」
俺がいうと、
「肝すわってンじゃねーかヨ……!?」
ナイトがニヤリと笑う。
そう、たいした話じゃない。負けた場合、マッハクンに殺されるかナイトに殺されるかというちがいでしかないのだ。
「チキンレースで勝負すンべ」
マッハクンが背後を指差す。「あッこが崖になってッからヨ……そっち疾走ってってギリギリで止まった方の勝ちだ」
マジか~。一歩まちがえたらアレするやつじゃん、この死亡遊戯。
これだったら素直に殴られてた方がよかったんじゃないだろうか。