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5-5 后瑠轟音……!?

「お疲れサンッス! 自分、唯愚怒羅死琉ユグドラシルのアタマ張らしてもらってるたか海樹かいじゅの妹・莉子りこッス!」


 玄関からリコの声が飛びこんできた。


 ナイトが俺の方を見る。


「オメー、アイツ呼ンだンか?」


「さっきLINEはしたけど、別に呼んだりは……」


 俺はナイトとともに玄関へ向かった。


 ナイト兄の背中の向こうにリコの姿がある。


「オメー、海樹の妹かヨ……!? ンで、どーした……!?」


「自分の彼氏のカズが唯愚怒羅死琉元総会(ソオカイ)チョオ・ガッツサンのトコにお邪魔してるって聞いたンで、ご挨拶アイサツにあがりました!」


 リコは俺に気づくと、小さく手を振り、ほほえんだ。


 こういうとこ、かわいいんだよな。サプライズお宅訪問は勘弁してほしいけど。


 彼女はカーキ色っぽい、つなぎというか、忍者が布を節約したような服を着ていた。ノースリーブで、大きく開いた胸元から黒のチューブトップがのぞく。


 こういうとこ、非常にエッチだよな。


 まあそのおっぱいの有難みにくらべたらかなりどうでもいい情報だが、ナイト兄って唯愚怒羅死琉の元トップだったのね。


「ヘエ、カズとつきあってンかヨ……」


 ナイト兄がふりかえって俺を見る。「オメー、やるじゃねーのヨ……!? やっぱヤンチャな男ってのはモテンだナ……!?」


「ハハ……どうも」


 この理屈でいうと、俺ホントはヤンチャでも何でもないから、自分らしく生きてたら一生モテないってこと? 怖い! 


「海樹は元気にしてっかヨ……!?」


「パパにゆわれて大学受けるコトになって、いまベンキョオしてます」


「そーかヨ……!? 工務店の跡継がなきゃなンねーからたいへんだナ。マ、アイツは気合入ってッかンヨ、ビッとすンだろ……!?」


「ッス」


「ところで表のCBR、アレはオメーのか?」


「そおッス」


「シビーの乗ってンナ……!? オメーもどっかのチーム入ってンかヨ……!?」


「自分、悪糾麗ワルキューレってチームのアタマ張らしてもらってます」


「アァン……!? 悪糾麗だァ……!?」


 ふいにキッチンから恐ろしい声が聞こえてきたので目をやると、鬼の形相をした女が立っていた。


 そのエプロンと髪型からしてさっきまでそこにいたロリ嫁と同一人物のようだが……。思いっきりリコにガン飛ばし、手には包丁を持っていて、非常に怖い。オラつきをとおりこして悪霊がいたんじゃないかと思うほどだ。


「ンだコラ……!?」


 リコの方はまったく動じず、オラつきかえす。


 このあたり、頼もしいというか頭おかしいというか……。


「テメー悪糾麗かヨ……!?」


「だったらどおしたヨ……!?」


后瑠轟音ゴルゴーンは悪糾麗ゼッテーだかンヨ……!?」


「アァン……!? テメー后瑠轟音ゴルゴオンか……!? この家ェ大島てるに載ったゾ、コラ……!?」


「アタシの名前は荒垣あらがき萌香もか。后瑠轟音の元総帥だヨ……!?」


「エッ……モカ(・・)って……あのモカ……サン……!?」


 リコは「サベッ」とつぶやいて小さくなった。


 一方、ロリ嫁の方はその発するオーラゆえにか、さっきより大きく見える。


「オメー、悪糾麗ッつッたら解散したンじゃねーンかヨ……!?」


「ハイ……でも自分らが先代ントコ挨拶行って旗ァ継がしてもらって、そんで復活させたンス」


「先代って森本もりもとここかヨ……!?」


「そおッス」


「ココア、元気にしてッかヨ……!?」


「いま保育士の専門センモン行ってて、もおすぐ保育園に実習行くってゆってました」


「そーかヨ……!? ガキにナメられねーよーにビッとしろッつッとけ……!?」


「ッス」


「ココアとはさんざんやりあったけどヨ、アイツはアタシらの代で一等イットー気合入ってたかンヨ、オメーも悪糾麗の看板ケガすよーなハンパな暴走ハシりすンじゃねーゾ……!?」


「ッス」


「ココアの後輩シタッつッたらアタシの後輩も同じだかンヨ、何かあったらゆってこい……!?」


「ッス」


「いますき焼き作ってッかンヨ、オメーも食ってけ……!?」


「ッス」


 何かさ……この場にいるの俺以外全員悪人ってキツいな。


『アウトレイジ』みたいに「全員悪人」ならエンターテインメントになるけど、「俺以外全員悪人」って単なる体験型の地獄じゃん。


 サンダルを脱いであがりこんだリコはまだ顔を強張らせていた。よっぽどロリ嫁が怖かったようだ。


「ガッツ、オメー居間にテーブル出しとけ……!?」


 ナイト兄がロリ嫁にいわれて折りたたみ式のテーブルを取りだした。


「あーなったらうちのヨメさんエーかンヨ……!? オメーら逆らうンじゃねーゾ……!?」


 そういってテーブルの天板を布巾で拭く。


 いわれなくてもあんな人に逆らったりはしない。


 ロリ嫁が鍋を運んできて夕食となった。


 すき焼きって食べるの人生で3回目くらいだが、おいしいな。舌が異世界基準になっているだけかもしれないが、肉がとろけて実にうまい。


 リコが食べながら俺の活躍を若干盛り気味に語って聞かせる。次第にナイト兄夫婦の俺を見る目もかわってきた。


「オウ、オメーどんどん食え……!? そんだけ暴れンなら腹も減ンだろ……!?」


「おかわりすッか……!? まだ肉あッからヨ……!?」


 なんだかわからんが、ふたりはやたらとメシを勧めてくる。


 なぜ人は年を取ると若手にメシを食わせようとしてしまうのか。


 ナイトの話じゃふたりは21とか22とからしいが、人の親となった時点で年寄りにクラスチェンジしてしまったらしい。


 元来少食な俺は、焼き豆腐の熱さに手こずっているふりをして、はしが進んでいないのを何とかごまかした。




 俺たちが帰る頃には、ナイト甥がすっかりリコになついてしまっていた。


「お姉ちゃん、また来てね」


 玄関でリコに手を振る。


 俺のときは人見知り丸出しだったのに、リコには秘蔵のミニカーまで出してくるほどのデレデレぶりだった。


 将来が危ぶまれるな……。  


 ご馳走になったお礼をいって俺たちは辞去した。


「送ってくヨ……!? アタシのケツ乗ってけ……!?」


 リコの差しだすヘルメットを俺は受けとった。


「ンじゃ、明日学校でナ……!?」


 ナイトが走りさる。


 俺はリコのリアシートに乗った。


「モカサンってヨ、現役時代めっちゃ怖かったンだヨ……!?」


 すこし走ったところでリコがいった。


「だろうな」


「『業務用ホッチキス(ガンタッカー)のモカ』って名前聞いたらこの街のヤンチャなヤツらはみんな震えあがるヨ……!?」


「その異名の由来は聞きたくないな……」


「うちの先代とはいくつもメイショオくりひろげたって話だヨ……!? いまの代の后瑠轟音はアタシ、眼中にねーけど……!?」


 県道は通行量がやや多かった。


 バイクは異世界じゃ最速で無敵の乗り物だが、自動車と比べると華奢きゃしゃで頼りない。


 そんな頼りないものが大きな自動車の間をすりぬけていく。俺がつかまるリコの腰も細くて頼りない。力をこめていいものかどうか迷ってしまう。


「ソオド、かわいかったナ」


「ナイトの甥な。ずいぶんなついてたもんな」


「アタシも子供欲しくなってきちゃったヨ」


 なんてことを話していると、バイクが赤信号に捕まった。


 ふと道路脇を見ると、そこには「HOTEL マンドラゴラ」のネオンサインが夜空に回転していた。


 リコもそれに気づき、俺をひじで突いてきた。


「べ、別にいまの、そおゆー意味じゃねーからナ……!?」


「わ、わかってるよ……」


 そう答えたものの、ちょっとリコの体を意識してしまう。


 俺の体を揺らすエンジンが、彼女の大きなお尻やシートに密着した部分にも振動を伝えているのだと思うと、俺の下半身も落ちつかなくなる。


 県道沿いにはラブホが建ちならび、あざやかな光で人を誘う。


 リコが路肩にバイクを停めた。何やら思いつめたような表情をしている。


「ナア、カズ――」


「どうした?」


「笑わねーで聞いてほしーンだけどヨ……!?」


「うん」


「アタシ、そおゆーのまだしたトキねーんだ」


「そ、そうなの?」


「ウン。だけど男ってやっぱそおゆーのしてーベ? だからヨ、カズがしてーってゆーなら――」


「焦ってすることじゃないだろ。お互いにな」


 俺は平静を装って答えた。


 実際、童貞にできるアドバイスってこれくらいしかないよね!


 リコはぱっと表情を明るくした。


「そ、そおだヨナ……!? 心の準備とかいろいろあるモンナ……!? カズにゆっといてよかったヨ……!?」


「俺も役に立ててよかった」


 いま、人生で最大のチャンスを逃したような気がする。俺はラブホの看板を網膜に焼きつくくらい長々と見つめた。


 リコがつなぎみたいな服のポケットをさぐる。


「ママから電話だ。珍しーナ。何だベ……!?」


 彼女はバイクから降り、歩道に立ってスマホを耳に当てた。


「もしもし、どおしたの……エッ、お兄ちゃんが……!?」


 彼女の声が張りつめる。よくないことが起こったようだ。


「ウン……ウン……アタシもソッコーで行くから……!?」


 彼女はスマホをしまうとバイクに飛び乗った。


「何があった?」


「お兄ちゃんが誰かに襲われて、ビョオインに運ばれたって」


「何……? 誰か(・・)って誰だよ」


「わかンない。とにかく行くベ……!?」


 バイクが走りだす。


 ご休憩を勧めてくるラブホのチープでファンタジックな光があっという間に視界から流れさっていった。

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