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5-4 鍋パ……!?

「我が名はベルゼム。人間たちからはこくきょうと呼ばれている」


 翼竜の背に乗った男がいう。


「アァ……!? テメーが……!?」


 マッハクンは棍棒を肩に担いだ。


「黒幕のお出ましかヨ……!?」


 ナイトが特攻服の袖をまくる。


「ようやくキミたちに会うことができてうれしいよ」


 黒死卿は芝居がかった口調でいう。「はじめまして(・・・・・・)でない者もいるようだが」


「ケッ、気取りやがってヨ……!?」


 スカーレットは彼に向かって中指を立てた。


「で、アタシらに何のヨオだヨ……!?」


 リコがいうと黒死卿は彼女の方に顔を向けた。


「キミたちを我が軍に加えたいと思ってね」


「アァ……!?」


「キミたちは異世界から来ているそうだな。この世界ではありえない、不思議な力を持っている。その力を我がもとで存分にかしてみないか?」


「何ゆってンのヨ、コイツ……!?」


 リコが困惑した表情で俺を見た。


「ナメてンかヨ、コラ……!?」


 マッハクンが棍棒の先を黒死卿に突きつける。「俺らァ誰かにケツ持ってもらわねーと暴走ハシれねー半グレ小僧どもとはワケがちげーンだヨ……!?」


「我がしもべとなるならば、この世の栄華をすべて味わうことができるぞ」


 そういって黒死卿は腕をひろげ、掌を天に向けた。


 このポーズする奴だいたい悪人説、誰か検証して。


「エーガだァ……!?」


 フブキが首をカクカクさせながらガンを飛ばす。「エーガならネトフリで好きなだけ観れッかンヨ……!?」


 黒死卿は、どうやらコイツら話通じねーなとようやく気づいたらしく、俺の方を向いた。


「キミはどうだね? この中では飛びぬけた力を持っているようだが」


 リコが心配そうにこちらを見ている。


 俺は彼女を安心させようとほほえんでみせ、それから黒死卿を見据えた。


「悪いな。経験上、そういうフードかぶってる奴は信用しないことにしてるんだ」


 黒死卿はフードの下で笑う。


「その虚勢をいつか後悔することになるだろう」


 そういって翼竜の腹を蹴り、遠くの空へ飛び去っていった。


 この場でやりあうことは回避できたが、心配だ。ああいうタイプって「そんなことよりイベント限定レア入手しなきゃ」っていうふうに気持ち切りかえたりしてくれないからな。


 これ以上揉め事が起こらなければいいが……。


「ッのヤロー、次会ったらコレモンだゾ……!?」


羅愚奈落ラグナロクは黒死卿ゼッテーだかンヨ……!?」


「関東統一の前に景気づけでアイツタコにして異世界統一すンベ……!?」


 俺の心配をよそに羅愚奈落の3人は気勢をあげていた。




 ミルホート城主に挨拶して俺たちは元の世界にもどった。


 時速150km目指して加速していると、龍たちがバイクに追いすがろうとした。


『イヤなのだ! ボクもご主人様といっしょに行くのだ!』


 もちろん彼らにそんなスピードは出せないので、ついてはこられない。


「ウチ、あーゆーのエーンだヨナ……!?」


 青い光の中に飛びこみながらフブキが鼻をすすった。


 その後、羅愚奈落は(下校時に待ち伏せしていた他校の連中を返り討ちにする以外の)トラブルもなく無事に過ごした。


 日曜日の夕方、期末試験に向けて勉強していると、スマホが鳴った。


 ナイトからの電話だ。


『オウ、オメーすき焼き好きか……!?』


「えっ?」


 突然そんなことをきかれて俺は面食らってしまった。「まあ、好きだけど……?」


『ンじゃ、迎えに行くからヨ……!?』


「はい?」


 要領を得ないまま電話は切れてしまった。


 仕方なく、家の前に出る。


 ナイトはあいかわらずやかましいバイクに乗ってやってきた。


「兄貴ントコですき焼きやるっつーからヨ、オメーも来い……!?」


「なんで俺も?」


「兄貴がオメーに会ってみてーッつーからヨ……!?」


 ナイトの兄貴かあ……絶対怖い人だよな。逆らったら何されるかわからない。


「それじゃあ行こうか……」


 俺はナイトのケツに乗って走りだした。


「お兄さんってどういう人?」


「むかしはヤンチャだったけどヨ、いまは結婚して子供も生まれたから丸くなったゼ」


「そっかあ……」


 そういうの全然当てになんねーんだよなあ。歴史上、戦争起こした奴ってだいたい結婚して子供いるもん。


 住宅街の中にあるアパートの前で俺たちはバイクを降りた。2階にある一室のチャイムを鳴らす。


 ドアが開いて、ガチムチタンクトップの男が現れた。ナイトもゴツいがこちらはさらにゴツい。日焼けした肌と短く刈られた金髪から明らかに只者ではない印象を受ける。


「オウ、来たナ……!?」


「カズ、コレが俺の兄貴」


 この兄弟、イカツすぎる……。


 俺は頭をさげた。


「はじめまして、山岡やまおか和隆かずたかです」


「ナイトから話は聞いてるゼ……!? マア入れ……!?」


 おことばに甘えて俺はお兄さんの家に入った。


 玄関あがってすぐのところがキッチンになっていて、ポニーテールの女の子がクッキングヒーターに向かっていた。


「あっ、いらっしゃい」


 ふりかえった彼女は、デコっ娘ロリエプロンという海鮮丼的フェチ盛りあわせガールだった。


「おじゃまします」


 俺はナイト兄の方を見た。「こちらは娘さん?」


「俺のヨメだヨ……!?」


「えっ?」


「コイツは俺の1コ下だけど、むかしっからガキみてーだったかンヨ……!?」


 兄のことばにナイトが笑いだす。


萌香モカチャン夜中コンビニとか行ったらゼッテー警察マッポに補導されンベ……!?」


 からかわれてモカチャン(・・・・・)は頬を膨らませた。


「も~、闘士ガッツもナイトもひど~い」


 そうやって怒るところもロリ感ある。


 居間に行くと、3歳くらいの男の子が床に座っていた。


「オウ剣士ソード、アイサツしろ……!?」


 いわれて男の子は立ちあがり、ナイト兄の脚にしがみついた。


 太腿に顔を押しつけ、俺の目から隠れようとする。


「オメー何ビッてンのヨ……!? ナイト叔父ちゃんのダチだゾ……!?」


「ソード、お兄ちゃんにトミカ見してやれ……!?」


 ナイトが男の子の頭を撫でる。


 ソードくんはミニカーを床に並べはじめた。


 俺はしゃがみこんでその作業を観察した。


「これは何ていう車かな?」


「グロリア」


「これは?」


「シーマ」


「へえ詳しいねえ」


 俺がいうとソードくんは鼻高々でミニカーを指差す。


「セドリック、クラウン、ソアラ、マークⅡ3兄弟」


 えらいもんだな。俺がガキの頃って「はたらく自動車とそれ以外」って認識しかなかったような気がする。


 ナイト兄が床に座り、息子を膝の上に乗せた。


「カズ、オメー異世界でドエレー派手に暴れてるそーじゃねーか……!? ナイトから聞いたゼ……!?」


「いやまあ、暴れてるってほどでは……」


「ナイトがそーやって人のことゆってくンの珍しーかンヨ……!? よっぽどラリったヤローなンだベナって思ってたンだ……!?」


「ナイトもけっこうやってますけどねえ」


「俺が現役の頃より異世界も過激になってきてるみてーだナ……!? ゾンビの大群とかデッケー龍とか、見たトキねーゾ……!?」


唯愚怒羅死琉ユグドラシルの連中がドラゴンの尻尾にやられて何人か死にかけたンだヨ」


 ナイトが甥っ子の足をくすぐる。


 ナイト兄は険しい顔をして膝の上の息子を見つめた。


「オメーらヨォ、あんまムチャすンじゃねーゾ……!? 何かあったトキ残されるモンの気持ち考えろ……!?」


「カズー、オメーのコトだゼ……!?」


 ナイトにいわれて俺は肩をすくめた。


「ムチャしてるつもりはないけどな」


 実際ムチャなんか全然してないんだけど、ムチャサイドの方から俺に襲いかかってくるんだよな。


 キッチンの方からすき焼きの割り下の香りが漂ってくる。うちは両親共働きだったから、夕食前のこういう感じって味わったことがなかった。


 何だかいいなあ。こういう平和な時間が続いてほしい、


 ――と思っていたら外から暴力的な音が飛びこんできて、俺の心の平穏は破られた。


「ヤンチャな音出してるヤツがいるナ……!?」


 ナイト兄が息子を抱いて立ちあがり、窓際に寄る。「オッ、あのチェリーピンクのCBRかァ……!? モリワキのフォーサイト管たァトッポいじゃねーのヨ……!? ハリケーンのセパハンにナポレオンミラーつけて……アリャ走り屋だナ……!?」


 ナイトが俺に目くばせしてくる。


「オイ……チェリーピンクのCBRッつッたらヨ……!?」


「ああ」


 俺はうなずいた。


 嫌な予感がする……。


 玄関のチャイムが鳴った。


「ガッツ、いまちょっと手が離せないから出てくれない?」


 キッチンのロリ嫁にいわれてナイト兄が息子を床におろし、玄関に向かった。


 ドアが開くと、暴力的な大声が部屋に飛びこんできた。 


「お疲れサンッス! 自分、唯愚怒羅死琉のアタマ張らしてもらってるたか海樹かいじゅの妹・莉子(りこ)ッス!」


 マジか……。

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