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5-1 ダベリ……!?

第5突堤(ゴトツ) スピードのこっち側




 平日の夜だというのに集会だった。


 集会といっても、校長が出てきてなにやらありがたいお話をしてくれるやつではなく、総長が出てきて「気合入れてくンで夜露死苦ヨロシクゥ!」とかいいだすタイプのアレである。


 異世界では特に厄介なモンスターにも他のゾクにも会わずに済んだ。


 元の世界にもどってきてまず向かうのはコンビニだ。食べ物と飲み物を買って駐車場でくるまになる。


「うめー、ファミチキうめー」


 スカーレットが肉汁と唾液を垂らしながら肉に食らいついている。


 彼女は「独立どくりつ連隊れんたい拷死苦(ゴシック)」という1人だけのチームを旗揚げし、羅愚奈落ラグナロクと行動をともにしていた。しかし、どこでおぼえてくるんだろうな、こういうワード……。


「これ100個くれー持って帰ったら異世界アッチ統一できンベ。アッチにゃーこんなうめーモンねーかンヨ」


 彼女は脂でギトギトになった唇を舐めた。


「ンならとっととアッチーれヨ……!? アタシが100個買ってやッかンヨ……!?」


 リコがそういってカフェオレをストローで吸った。


「アァ……!?」


「ンだコラ……!?」


 ふたりはにらみあう。


「まあまあまあまあ」


 俺は間に入って仲裁した。


 確かにスカーレットのいうとおり、こっちの食べ物はうまい。


 というか異世界の食べ物がひどすぎるのだ。


 魔王城周辺のエリアなんてスープがほとんどお湯だったからな。主食はっすい粥だし。


 この間ミルホートの城でメシ食わせてもらったけど、これはうまかった。さすがに城主レベルだといいもの食ってる。


 まわりの現代っ子どもは「肉しょっぱ」「スープくっさ」っていって食が進んでいなかったが、俺はパクパク食った。それを見た彼らから「さすカズ」の声を頂戴したが、さすがにチョロすぎるのではないかと思った。


 メシ食うだけで褒められるって離乳食を食いはじめたとき以来だぞ。


「そーいやオメーこのKH400(ケッチ)ドコで手に入れたンだ?」


 マッハクンがスカーレットのバイクを指差す。


 彼女はファンタをラッパ飲みして口を拭った。


「拷死苦の奴に『よこせ』ッつッたらウダウダいいやがったっけェ、ボゴってそのまま乗ってきた」


「免許はどーしたヨ」


「ンなモンねーよ。警察マッポ来たらブッチギッから」


 いまの会話だけで複数の違法行為が含まれていたわけだが、おわかりいただけただろうか。


「ケッチッつッたらヨォ――」


 フブキがハイチュウを口に放りこむ。「むかしは『マッハ』ッつッたんだヨ」


「へー、そーなンかヨ」


「マッハの親父が750(ナナハン)のマッハ乗りでヨ、そんで息子にマッハって名前つけたンだと」


「ンじゃ、オメーもいつかソレ乗るンかヨ」


 スカーレットがたずねると、マッハクンは苦笑した。


「マッハがマッハ乗るってなんか変だベ。もし大型取っても、オメーらにイジられッからオリャー絶対ゼッテー乗ンねー」


「マ、18ンなったら四輪だベナ、俺らもヨ……!?」


 ナイトが空になったコーラのペットボトルを投げあげる。


 駐車場に入ってきたトラックのヘッドランプが、俺たちを囲むように停めてあるバイクのマフラーを鋭く照らした。


 俺たちは何となく黙りこんだ。


 コンビニの看板が高い柱の上から俺たちを見おろしていた。


 星なんか見えなくて、県道の車がそれなりに個性的な残像を目に焼きつけて流れ去る。


 空気は蒸し暑いのにケツの下のアスファルトは冷たくて、居ても立ってもいられない気がした。


「ちッと15ゴオ流してからーンベ」 


 立ちあがるリコに、


「おう」


 俺もつられて立ちあがり、旗を担いだ。




 羅愚奈落と悪糾麗ワルキューレ、そして独立愚連隊拷死苦は県道を走った。


 まあ多少はうるさいが、暴走ってほどではない。異世界での走りとくらべたらおとなしいものだ。


 北上して雫原しずくはらみなみ交差点に差しかかる頃、前方に青い光が見えてきた。


「オイ、アリャーまさか……」


 俺たちが異世界に行くとき見るのと同じ光だ。


 その中から1台のバイクが飛びだしてきた。

 

「あれ? ヒロヤサンじゃン」


 リコが声をあげる。


 俺たちの前に現れたのは唯愚怒羅死琉ユグドラシルのナンバー2だった。


「オオ、リコチャンかヨ」


 ナンバー2が俺たちと並んでバイクを停める。


「ヒロヤサン、ひとり? どおしたの?」


「それがヨ、ミルホートの城がこくきょうの軍隊に襲われてンだヨ」


「ハァッ……!?」


「この間のドリッジとりでとは別の方角から来やがった。高瀬クンも戦ってンだけど、なにしろ数が多いかンヨ」


「ンで、なんでヒロヤサンココにいンの?」


「応援呼べってたかクンにゆわれてヨ。リコチャンも出てこれるヤツ呼びだしてくンねーか?」


 ナンバー2は俺たちの方を見た。「羅愚奈落も、頼むゼ。連絡まわして単車ゲタあるヤツ集めてくれ」


 マッハクンは一度俺たちをふりかえり、またナンバー2に目を向けた。


リーがソリャームリだナ……!?」


 彼のことばにナンバー2が顔色をかえた。


「アァ……!? こんなトキにコクジョーカマしてンじゃねーゾ……!?」


 マッハクンは一度エンジンを吹かす。


「連絡なんざァまわしてるヒマねーヨ……!? 俺らァいまからソッコーでその戦場に特攻ブッコむかンヨ……!?」


「オウヨ」


 フブキが笑いだす。「敵ァ多けりゃ多いほど伝説だベ……!? 行くッかねーヨ……!?」


「早く異世界アッチ行かしてくれヨ……!? エモノが減っちまうだろーがヨ……!?」


 ナイトがくしで髪をビシッと分ける。


 あ~、やっぱこういう流れになりますか……。


「あーしも行くヨ……!? 黒死卿とは落とし前つけなきゃなンねーかンヨ……!?」


 スカーレットが舌なめずりする。


「悪糾麗、シャワーの前にもッぺん飛沫シブキ浴びンゾ……!?」


 リコの号令に悪糾麗が「オウヨ」と声をそろえる。


「ッたくヨォ……このラリ坊どもは俺じゃ止めらンねーナ……!?」


 ナンバー2はかぶりを振った。


「オッシャ、パツだァ!」


 俺たちは急発進してやがて青い光に包まれた。

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