表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜露死苦! 異世界音速騎士団"羅愚奈落" ~Godspeed You! RAGNAROK the Midknights~  作者: 石川博品
第4突堤 百機夜行 "拷死苦" 侵略すること死の如し!
42/54

4-9 決着……!?

 ボーンドラゴンはスカーレットを後足でつかんだまま飛んでいく。


 運転手を失ったバイクが転倒する。


 じんはリコをうしろに乗せたまま疾走していた。


「アイツを止めろ、ボーンドラゴン!」


 俺は空に向かって叫んだ。「ただし彼女は傷つけるな」


ギョノママニ」


 ボーンドラゴンは大きく羽ばたいて加速した。


 神野の正面にまわりこみ、咆哮ほうこうしてかくする。


「ヒッ……」


 神野が急ブレーキをかける。


 俺はそのとなりにバイクを停めた。


「追いかけっこは終わりだぜ」


「ウッ……ク、クソがァッ……!」


 神野がバイクを降りて殴りかかってくる。


 俺も降車して迎え撃った。


「ッダラァツ!」


 大振りのパンチを余裕でかわし、ボディーブローを叩きこむ。


「オッゴォッ……」


 神野は腹を押さえて地面にうずくまった。しばらくはまともにメシが食えないだろう。


 俺はその長い髪をつかんでひっぱった。むりやり顔をあげさせ、のぞきこむ。


「貴様には10年後スメアゴルみてーな髪型になる呪いをかけた」


「ヒッ……」

 

 強烈な心の傷も与える完全勝利だ。


「カズゥ……」


 リコがこちらにやってくる。


「怪我はないか?」


「ねーヨ」


 俺は彼女の手を縛る紐を引きちぎった。


 自由になった彼女は、倒れている神野に馬乗りになりボッコボコに殴りはじめた。


「ッチャネーゾ、オオッ……!?」


 神野の顔面が見る間にグシャグシャになっていく。返り血がリコの体に飛ぶ。


 神野についてはさっきのひとことでいい感じに締めたつもりだったんだが……。


 相手を達磨だるまにして気が済んだのか、リコは立ちあがり、俺と向かいあった。


「来てくれると思ってたヨ……!?」


「俺がもっと注意していればおまえが人質になることもなかった。すまん」


リーのは油断してたアタシだヨ……!? カズのせいじゃねーから」


「二度とこんなミスはしない」


「アタシだって二度と人質になったりしねーヨ……!?」


 リコの体の大部分はよろいに覆われず、露出している。汗ばむ肌につちぼこりがついて、それが不思議に生々しかった。返り血が一条ひとすじ、胸の谷間に流れこんで乾く。


 間近で見ているとドキドキしてしまう。


「ンで、アイツはどおすンだ……!?」


 彼女が空に浮かぶスカーレットを指した。


 スカーレットはボーンドラゴンの爪の間で、引き裂かれたスカートをかきあわせ、むきだしの下半身を隠そうとしている。


異世界こっちの人間だからな。異世界のルールにまかせよう」


「何だヨ……!? アタシがこの手でブッチメてやりたかったのにヨ……!?」


 リコが掌に拳を打ちつける。


 俺はスカーレットに向かって呼びかけた。


「おーい。おまえ、どこかで術者を見つけてその洗脳解いてもらえ。しっかり自分を見つめなおして、やりなおすんだぞ」


「ッセーンだヨ、ダボがァ!」


 彼女はまだ減らず口を叩いている。


 あとはもうご両親に何とかしてもらうしかない。まあ、俺が親なら地下牢なりどこかのヨットスクールなりにブチこむね。


 リコが俺を見つめている。その頬に返り血がぽつんとついていた。俺はそれを袖で拭ってやった。


 彼女が目をつぶり、こころもちあごを持ちあげる。


 ん……?


 これはまさか……キス待ちの表情ではないか?


 キスかあ……。


 指輪あげたら即婚約ってかんちがいしちゃう相手だから、キスなんかしたら想像妊娠くらいやらかしてもおかしくはない。


 だが彼女の柔らかそうな唇を見ていると、吸いつきたくなってしまう。ちょっとだけならだいじょうぶだろうか。


 俺は彼女の腰に手をまわし、その体を引きつけた。


 顔を近づけ、そっと唇を重ねようとした、そのとき――


「リコォ、カズゥ、無事か……!?」


 やかましい音が聞こえてくるのでそちらに目をやると、たかとその仲間たちが荒野を駆けてきていた。


「ゲッ……」


 あのお兄様(・・・)にキスしてるとこ見られるのはまずい。


 俺は彼女の体をそっと押して距離を置いた。


「また今度にしよっか」


 彼女が目を開く。


「アァ……!? 今度(・・)って何がヨ……!?」


「え? いや、その……キスを……」


「アァ……!? キス(・・)って何がヨ……!?」


 そういいながら彼女は顔を真っ赤にしている。


「キスしようとしたじゃん」


「アァ……!? してねーヨ……!? オメーが勝手にしよおとしたンだろおがヨ……!?」


「いやいや、あの顔は完全に欲しがってたでしょ」


「アァ……!? アタシがファーストキスまだだから焦ってるっていいてーンかヨ……!?」


「は? 急に何の話?」


「ッセーヨ、ッラァッ!」


 彼女は俺のケツを思いきり蹴った。


イタッ!」


 彼女はそのまま神野のバイクに乗って去っていく。


 ボーンドラゴンが俺の頭上に飛んでくる。 


「サスガ我ガ主、きすヨリきっくヲ選バレルトハ。変態性欲ノ王ト呼バルルニフサワシキオ方ヨ」


「サラッとトンデモない称号つけてくれたな」


 俺はケツをさすりながらナイトのバイクにまたがった。


 高瀬と唯愚怒羅死琉ユグドラシルの面々がやってくる。羅愚奈落ラグナロクのみんなは治癒魔法で回復したようだ。ナイトがマッハクンのケツに乗っている。


「オオッ、神野もあの女もアイツひとりでやったンかヨ……!?」


「つーかあの女、下が裸だゾ……!? もしやヤッたンか……!?」


「単車・けん・オンナ……アイツにかかっちゃどれも瞬殺だナ……!?」


「さすカズ」の声が満ちる中、俺は彼らの方へと走りだした。




 それから1週間、俺はずっとぐったりしていた。


 異世界で長時間バイクに乗っていた疲れが取れない。それに、1対1の喧嘩じゃなく集団を相手にするのは骨が折れた。もうああいうのは勘弁してもらいたい。


 神野率いる拷死苦ゴシックは唯愚怒羅死琉にボコボコにされ、解散することになったらしい。


 金曜の朝、ホームルームのために担任が教室に入ってきた。


「オイ、あれ……」


 そのうしろに金髪碧眼(へきがん)の美少女がいたので教室中がざわめいた。


「パツキン……!? マビーじゃねーのヨ……!?」


「留学生かァ……!?」


「シャバ高にしか入れねーよーな奴がよく入国できたナ……!?」


 俺の前の席に座るマッハクンがふりかえる。


「オイ、あの女……まさか……!?」


「ああ……アイツだ」


 髪はツインテではなくまっすぐおろしていて、服はしゅう入りゴスロリドレスではなくシャバ高の制服だが、アイツにまちがいない。


「今日からみんなといっしょに勉強する転校生だ」


 担任が黒板に名前を書く。「では自己紹介を」


 いわれて転校生(・・・)は教卓に飛びのり、あっけに取られるDQNたちを見おろした。


「スカーレット・スカムスカルだァ……!? 今日からあーしがこの学校ノシてくンで夜露死苦ヨロシクゥ……!?」


 教室内が一瞬静まりかえり、またざわめく。


「オイオイ、ヤベーのが来ちまったゾ……!?」


「転校生ってもっとしおらしーモンなンじゃねーンかヨ……!?」


「海外にもいるンだナ、こーゆーヤツ……!?」


 担任がうろたえつつ教卓の上のスカーレットを見あげる。


「ス、スカーレットさん……とりあえずおりてもらえるかな?」


「アァ……!?」


 スカーレットは担任をにらみつけながら教卓からおりる。


「えーと、キミの席は――」


「あッこ空いてンじゃンヨ」


 彼女は机の間をこちらに向かって歩いてくる。その目は完全に俺をロックオンしていた。


「オーイ、こっち来いヨ」


 俺のとなりで吉本よしもとが手を振る。


 スカーレットは俺と吉本の間で足を止めた。


 吉本は金髪美少女を前にしてすっかりニヤケ顔だ。


「オメー俺のとなり座れヨ。いま机と椅子持ってきてやッかンヨ」


「いらねーヨ」


 彼女は吉本にほほえみかける。「ココ空いてンベ」


「え?」


 首をかしげる吉本にスカーレットが飛び膝蹴りを食らわせた。


「ゴボォッ……」


 顔に食らった彼は壁まで吹きとび、失神する。


 スカーレットはひっくりかえった椅子を起こして、そこに腰かけた。


「ホラ、空いてンじゃン……!?」


「ヒッ……」


 俺はそっと机を持ちあげ、彼女から離れようとした。


 だが彼女は乱暴に机をくっつけてきた。


「カズ、オメーに会いに来たヨ……!?」


「あ~、やっぱそうですか……」


「オメーこの間、あーしに『目をさませ』ってゆってくれたベ? そんであーしは気づいたンだ。もっとビッとしていかねーとナってヨ……!?」


 う~ん……この人がこうなったの「洗脳」のせいだって決めつけてたけど、もともとこういう奴だね、きっと。


 スカーレットは俺に脚をからめてくる。


「これからはオメーみてーにあーしのこと本気マジで心配してくれるオトコとつきあうコトにするヨ……!?」


「そ、そうですか……」


 マッハクンがふりかえる。


「にしてもオメー、よくコッチの学校入れたナ。パスポートとかあンのか?」


「拷死苦のケツ持ってたギルドがパスポート偽造してくれたンだわ」


「それ、ギルドじゃなくて()では?」


 なんでコイツは剣と魔法の世界からウシジマくんの世界にワープしてんだ?


 1時間目は現国で、担任がそのまま授業をする。


 スカーレットは机にひじをつき、ずっと俺のことを見つめている。


 そもそもこの人、転校初日なのにカバンすら持ってきていない。


 やがて彼女は俺の膝の上にケツを乗せてきた。


「あ~つまんね~。カズゥ、森でも行ってパコるベ……!?」


「ねーよ、森なんか。海山市は人口15万の大都会だぞ」


「ナアいいじゃンヨ……!? ウズくンだヨゥ……!?」


 担任が板書する手をを止めてこちらを見た。


「スカーレットさん、授業中は静かにしてね」


「アァ……!?」


 スカーレットは立ちあがる。「テメーあーしの領地ジモトだったらいまごろ絞首台で風に揺れてンゾ……!?」


「ヒッ……」


 担任は俺たちに背を向け、板書にもどった。


 俺は太腿の上で腰をグラインドさせるスカーレットからなるべく意識を遠ざけようとした。これまで受けてきた性教育のカリキュラムに「太腿に性器をぐいぐい押しつけられたらどうすべきか」という問題に対する答えはない。


 もうすぐ授業も終わるという頃、廊下が騒がしくなってきた。


 何やら緊迫したムードの会話が聞こえてくる。


「オウ、ソコのブリ商、こんなトコで何してンだコラ……!?」


「テメーにゃ関係ねーだろおがヨ……!?」


「その顔、見おぼえあンゾ……!?  オメーこないだアタシのツレ、単車でいたベ……!?」


「おぼえてねーナ……!? 道に落ちてる石コロならしょっちゅーハネトバしてッけどヨ……!?」


 この声、そしてこの会話の流れ――心当たりがある。


「ッゾ、クソガキャァ……!?」


「ッダラネーゾ、オォッ……!?」


 ドカッバキッと激しい音が聞こえてくる。


 失神していた吉本も気がついたようだ。


「た、戦っている音だ。それも一進一退の大攻防戦だ!」


 起きあがり、廊下の方へ行く。


「ちょっち見てくンベ」


 そのとき教室の戸がドバンとはずれ、吉本はその下敷きになった。


「ギャ――――ッ!」


「吉本――――ッ!」


 戸の上には血まみれになった女子が倒れている。


 その向こうから鬼の形相をしたリコがやってきた。


「スカーレットォ……テメー、人のオトコにコナかけてタダで済むと思ってンかヨ……!?」


「ンだコラ……!?」


 スカーレットが立ちあがる。


「キ、キミィ……」


 担任が教壇から飛んできた。「どこの生徒だ。勝手に入ってきちゃダメじゃないか」


 リコは彼の胸倉をつかみ、顔を近づけた。


「ココで殉職ジュンショクしても2階級特進はねーゾ、センセイ……!?」


「ヒッ……」


 担任はあわてて教壇へもどっていく。


 スカーレットがリコに迫った。


「カズがオメーのオトコって誰が決めたヨ……!?」


「アタシはカズから指輪もらってンだヨ……!?」


 リコは歯をむきだしにしてスカーレットをにらみつける。


「でもヤってねーベ……!?」


「ハァ……!?」


「あーしは相手が処女がどーか一発パツイチでわかるンだヨ……!? オメーはションベンくせーからゼッテー処女だナ……!?」


「アタシも人の寿ジュミョオがわかるンだ……!? オメーの寿命はあと30ビョオだヨ……!?」


「サエズってンじゃねーゾ……!? ネンネは帰って白馬の王子様ァ夢見てろ……!?」

 

「ッセーヨ、ズベがヨ……!? 残りすくねー寿命、有効ユーコオに使え……!?」


 ふたりはにらみあっていたが、やがて取っくみあいをはじめた。


 リコがスカーレットを押したおすとスカーレットはすぐ上になり、くんずほぐれつして、床を転げまわる。


 これはいったいどういうことなんだ……。


 いくらDQN高だといったって授業中にこれほどのヴァイオレンスが襲ってきたことはいままでなかった。はたして目の前で起きていることは現実なのか……?


「カズ、止めなくていいンかヨ……!?」


 マッハクンがいう。


 俺はすぐそばの修羅場から目を逸らし、前を向いた。


「先生、授業を進めてください」


「何ッ……!? コ、コイツ……完璧パーペキ現実逃避キメてやがる……!?」


 マッハクンが俺の顔をまじまじと見る。


 そう、俺がいまいるこの世界は現実ではない。目に見えるものはみな幻……この世はすべて白昼夢(ゆめしばい)……現実オレ異世界アイツ異世界アイツ現実オレで……。


「カズのヤロー、この状況で余裕ブッコいてやがンゾ……!?」


「自分を取りあって女が喧嘩するコトなんて日常茶飯事だってツラだゼ……!?」


「もはや王者マハラジャの貫禄だナ……!?」


 教室のざわめきにも、犬の喧嘩みたいに転げまわるリコとスカーレットの怒声にも耳を貸さず、俺は板書をノートに写しつづけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ