4-8 追跡……!?
スケルトンがリコのビキニアーマーにあてがった刃を一閃させた。
「イヤァッ……!」
リコが悲鳴をあげる。
胸当てが切り裂かれ、彼女のおっぱいがこぼれでる――はずが、何の変化もない。
「何ッ……!?」
神野が顔色をかえる。
フブキが笑いだした。
「バーカ。ソリャ伝説の鎧だゾ……!? 雑魚モンスターごときに破壊できるワケねーベ……!?」
俺は安心と落胆の入りまじった不思議な思いにとらわれていた。
前の異世界でも、中ボス的な奴にベアトリーチェが人質に取られ、ビキニパンツのサイドの部分を切られそうになったことがあった。あれも伝説のビキニパンツだったので敵の刃が通じなかったんだった。
だがいま考えてみると、あの中ボスは何のためにガチムチ男のパンツを切ろうとしたのだろうか……。
「笑いごとじゃねーヨ……!?」
リコが顔を真っ赤にしながらフブキをにらむ。「コッチはマジでビビったンだからナ……!?」
「クソッ……」
神野がスカーレットの方を見る。「こーなりゃアレでアイツらやっちまえ」
スカーレットは杖の先端をこちらに向ける。
「ッシャァ! 地獄見したらァッ!」
特大の青いエフェクトがふたつ、俺たちの眼前に発生した。
「オイオイ、今度は何ヨ……!?」
マッハクンは槍を肩に担いだ。
光の中から、身長3mくらいあるスケルトンが2体、姿を現した。腕が長く、脚が短くて、ゴリラ感ある骨格だ。
「キャハーッ、ボーンオークはいままでのとはワケがちげーヨ……!?」
スカーレットが舌を出して笑う。
「ッダラァツ、このデカブツがァッ!」
ナイトが剣で斬りかかる。
ボーンオークはそれを棍棒でやすやすと受け、逆に打ちかかった。
ナイトは剣で防いだが、吹きとばされ、壁に叩きつけられる。
「グハッ……」
彼はずるずると床に滑りおちて動かなくなった。
「ッタラネーゾ、オオッ……!?」
「ナイトの仇じゃァッ!」
マッハクンとフブキが飛びかかる。
それをボーンオークは軽く弾きとばした。
「危ない! うしろだ!」
彼らの背後にもう一体のボーンオークが忍びよっていた。振りおろす棍棒をマッハクンとフブキはジャンプしてかわした。
ふつうのスケルトンとは段ちがいの腕力で、石の床が大きくへこむ。
そろそろ俺が行かなきゃダメみたいだ。
手にした鉄の棒を構え、2体の巨大骸骨の間に立つ。
「オイオイ、ムリすンじゃねーゾ、ダサ坊がヨ……!?」
神野がニヤニヤ笑っている。
正面の敵が棍棒を振りかぶった。
俺はすばやく飛びこんで、その腹に鉄棒を叩きこんだ。
肋骨が砕けて飛びちる。
バランスを崩して前のめりになったところを、思いきり殴りつける。今度は顎が粉々になった。
ボーンオークは倒れ、バラバラの骨片と化した。
「な、何だと……!?」
「コ、コイツ……ハンパねーゾ……!?」
神野とスカーレットが驚愕の色を浮かべている。
もう1体のボーンオークが棍棒を振りおろす。俺はそれを跳んでかわした。
相手の肩の上に乗り、頭蓋骨をつかんで首をねじ切る。
前のめりに倒れる体から飛びおりた俺は、お化けカボチャくらいあるでっかい頭蓋骨をスカーレットの足元に放った。
「で、地獄ってのはいつ見せてくれるんだ?」
「クッ……」
スカーレットが下唇を噛む。
俺たちは玉座に迫った。
「オイ、ソイツら止めろ……!?」
神野が部下に指示を出す。みずからはリコをひっぱり、タペストリーの裏の隠し通路へと消えた。スカーレットもそれに続く。
「神野クン……俺らァどーしたら……」
うろたえている拷死苦の連中を俺は一蹴した。
「オラァ――――ッ!」
スケルトンも粉砕して、隠し通路に飛びこむ。同時に高瀬も来たので、狭い通路の中はギュウギュウになってしまった。
「どけやコラァ、カズゥ……!?」
「いや、そっちこそどいてくださいよ」
先頭を高瀬に譲り、走りだす。
暗くてカビくさい通路は途中から急なくだり階段になった。
足を踏みはずしそうになりながら駆けおりる。
なかなか出口に着かない。2階建ての建物だったはずだが。
ようやく光が見えてきた。通路が水平になる。
バイクのエンジン音が聞こえる。
「クソッ、逃がすか」
高瀬を追いこして足を速める。
まぶしさに、俺は顔の前に手をかざした。目の前には荒野がひろがっていた。背後は崖で、さっきまでいた砦がはるか高いところに見えた。
「アバヨ!」
神野とスカーレットがバイクに乗って走っていく。
「カズゥ!」
手を縛られたリコが神野のうしろに乗っている。2台のバイクは土煙の向こうに消えた。
「単車取ってくンゾ……!?」
高瀬が通路に取ってかえそうとしたとき、中から3台のバイクが飛びだしてきた。
羅愚奈落の3人だ。
「カズ、ケツ乗れ……!?」
ナイトが急停車する。俺は彼のうしろに飛びのった。
「さっきやられてたけど、だいじょうぶなのか?」
「治癒魔法が効いたかンヨ……!?」
ナイトは笑顔を見せる。
「乗れヨ、大将……!? 追っかけンゾ……!?」
マッハクンがいうと、高瀬は地面に唾を吐き、リアシートにまたがる。
「小僧と2ケツとはナ……!? 俺もヤキがまわったゼ……!?」
「オッシャ、行くゾ……!? ヤツら捕まえてタコにすンベ……!?」
フブキを先頭に俺たちは走りだした。
「追いつけるか?」
俺がきくと、ナイトはふりかえりもせず答えた。
「バーカ、あんな半グレ小僧に俺らが負けッかヨ……!? 羅愚奈落は走り屋だゾ……!?」
そのことばどおり、神野たちの姿が見えてきた。じわじわと距離が縮まってくる。
スカーレットが一度こちらをふりかえる。その表情に驚きの色が浮かんだ。
彼女は後方に杖を向けた。
青いエフェクトが生じる。
「来るゾ……!? ドーグ出せ……!?」
マッハクンが怒鳴る。
スケルトンが荒野を埋めつくす。
ものすごい数だ。
この杖をスカーレットに与えた黒死卿とやらはおそらく只者ではない。
俺たちはスケルトンの戦列を突破しようとした。
スケルトンたちは俺たちを撃退しようとはしない。むしろ武器を捨てて地面に伏せる。無数の骨が折りかさなって、不気味な防塁が誕生した。
「何ッ……!?」
羅愚奈落はブレーキをかけようとした。だが間に合わない。
前輪が骨の壁に衝突し、俺たちは宙に投げだされた。
「うああああっ」
地面に叩きつけられる。一瞬痛みが走るが、すぐに消えさった。
立ちあがり、周囲を見渡す。他のみんなが倒れている。
俺は近くにいたナイトに駆けよった。
「だいじょうぶか? いま治癒魔法をかける」
「イヤ、いいからヨ……」
ナイトは苦痛に顔をゆがめる。「ヤツら、追っかけろ……!?」
「カズ、何やってンだ……!? 行け……!?」
「リコはオメーのオンナだベ……!? 守ってやンねーでどーするヨ……!?」
マッハクンとフブキは起きあがることもできない様子だった。
「カズ……妹を頼む……」
高瀬の腹に巻くサラシに血がにじんでいる。
俺はひとつ息を吐いた。
こうしている間にもリコの乗せられたバイクは遠ざかっていく。
「わかった。行ってくる」
俺はナイトのバイクを起こし、またがった。
奴らを追って急加速する。
ずっとナイトのうしろに乗ってその運転を観察してきた。だからシフトチェンジもうまくなっている。
ずっと乗ってたから、このバイクがバリバリに改造されたモンスターマシンだってことがわかる。
ナイトにとっての宝物だってこともわかる。
だからコイツに乗って負けるわけにはいかない。
大きく引きはなされて見えなくなっていた2台のバイクが次第にはっきり見えてくる。神野のリアシートに乗ったリコが体をひねってこちらを向く。
「カズ!」
「待ってろ! いま行く!」
もう1台のスカーレットがふりかえって俺を見る。彼女は杖の先をこちらに向けた。またスケルトン軍団が荒野に立ちあらわれる。
そう来るならば受けて立とう。本当の死霊魔術を見せてやる。
「召喚! 出でよ、ボーンドラゴン!」
空が裂ける。
巨大な影が地面に落ちる。
骨だけのドラゴンが朽ちはてた翼をひろげ、俺の頭上を舞った。
「ゴ命令ヲ、我ガ主」
地を震わせて人ならぬ声が響きわたった。
俺は前方のスケルトンどもを指差した。
「奴らに礼儀ってものを教えてやれ」
「御意ノママニ」
ボーンドラゴンが羽ばたき、加速していく。やがてホバリングし、スケルトンどもを見おろした。
「下郎ドモ、不死ノ王タル我ニヒレ伏スガイイ」
スケルトンどもが次々にひざまずいていく。その光景はまるで海原を波が渡っていくようだった。
「ウ、ウソだベ……!?」
スカーレットが驚きの声をあげる。
俺は服従姿勢を取るスケルトンたちの間を抜けていく。
進路に何の障害もなくなって、俺はいっそう加速した。スカーレットのバイクに迫る。
「観念しろ。おまえの死霊魔術は敗れた」
「コンダラァッ! ッタラネーゾ、オオッ……!?」
彼女はわけのわからない恫喝の文句をぶつけてくる。
俺は空を見あげた。
「あの女を黙らせろ」
「御意」
ボーンドラゴンが魚を狙う水鳥のように急降下していき、バイクのシートからスカーレットの体をつかみとった。
「分ヲワキマエロ、小娘」
そういって彼女のゴスロリスカートを爪で引き裂く。
「キャ――――ッ!」
悲鳴が空に響いた。
彼女の下半身があらわになる。
この世界ではそういうものなのか、下着はつけていなかった――反射的にスキル「鷹の目」を発動させてしまったため、俺にはそれがはっきりと見て取れたのだった。
「バババ、バッカモ――――ン!」
俺はこの破廉恥な召喚獣を叱りつけた。「貴様、何をやっとるかァ――――ッ!」
「申シ訳ゴザイマセン、我ガ主」
ボーンドラゴンは滑空しながら首をすくめている。
「まったくもう……でもあとでお小遣いあげちゃう」
「アリガタキ幸セ」
コイツ絶対出世するタイプだな。かわいい奴だぜ。




