4-7 砦……!?
先の戦闘で怪我をした者の治療を終えると、俺たちはドリッジ砦に向けて出発した。
「ッダラアッ……、拷死苦ァ首洗って待っとけ……!?」
「俺のドーグがヤツらの血ィ吸いてーって泣いてンヨ……!?」
「命乞いしよーが皆殺しだァ……!?」
周囲のみなさんも気合が入っている。
何度もいうようだが、俺たちは魔王の手先から人々を解放しようという正義の味方である。
ドリッジ砦は最初に見た城ほどではないが、石の壁に囲まれていて、さっきの町よりは守りが堅そうだった。
壁の向こうからスケルトンが矢を放ってくる。それを火炎魔法で迎撃しつつ俺たちは門に接近した。
「コリャーさすがに単車の特攻じゃ破れそーにねーナ」
ナイトが門扉を見あげてつぶやく。
確かにさっきのよりも格段に大きくて頑丈そうだ。
「何台かでブチ当たってみンベーヨ」
マッハクンがいう。
「フッ」
俺はそれを鼻で笑った。
「アァン……!? 何が可笑しーンヨ、カズゥ……!?」
「俺にいわせりゃしゃらくせーよ」
俺はナイトのケツから降りて、掌を門に向けた。
「極大火炎!」
強烈な炎で門扉を消し炭にかえる。
「オオッ、さすがカズ!」
「ッシャァー! この城ァいただいたァー!」
族のみなさんが砦の中につっこんでいく。
「俺らも行こう」
俺はナイトをせっついてバイクを発進させた。
いまの俺は、拷死苦とやらのドスケベ洗脳行為をやめさせるべく進撃する、反鬼畜エロス十字軍である。停滞は許されない。
門の中で暴走族対スケルトンの死闘がくりひろげられている。
機動力で勝る族が次第に押していって、ついには敵を敗走させた。
城壁沿いに小屋がいくつか建っている。その内のひとつから手を縛られた男が飛びだしてきた。
「助けてくれえ!」
「アァ……!? オメー人質か……!?」
高瀬が部下に指示して縄をほどかせる。
「私はこの砦の主であるロイ・スターナー様の家令です」
「その殿様はドコヨ……!?」
「奥方様とともに、西の塔の地下牢に」
「拷死苦の総長はヨ……!?」
「おそらくは居館の広間でしょう」
「塔の方はアタシが見てくるヨ……!?」
リコがいう。「悪糾麗、ついてこい……!?」
彼女は仲間とともに走り去った。
特攻服の裾がひらめいてビキニアーマーに収まりきらないヒップがのぞく。
「俺らァ拷死苦の首取ンゾ……!?」
高瀬の号令で残りの者たちが発進する。
狭い階段をバイクのままのぼり、屋内でも土足ならぬ土タイヤで走りまわる。
2階にあがると、広間になっていた。
広間といっても200人が入れるほどの広さはない。
唯愚怒羅死琉の幹部たちと羅愚奈落だけが中に入り、残りは廊下や階下で待機となった。
正面に玉座的な椅子がふたつ並んでいて、例のスカーレットとV系っぽいロン毛の男が座っている。その周囲には特攻服の男たちが立っていた。
壁には年代物のタペストリーがいくつもかかっている。戦のときには矢狭間も兼ねるであろう細い窓から光が射しこみ、バイクの排気ガスを浮かびあがらせる。
俺たちはバイクを降りた。
「海山唯愚怒羅死琉、参上! 俺ャー総会長の高瀬海樹じゃァ……!?」
「同じく羅愚奈落総長・桜木音速! 天下布武なンで夜露死苦ゥ!」
こちらのトップ2人の名乗りをV系男は座ったまま聞いていた。
「黒死連合拷死苦総長・神野音王だ。オタクらトッポいねェ」
皮肉っぽく笑う。
「余裕コイてンじゃねーゾ、色男……!?」
ナイトがにらみつける。
だが神野の顔から笑いは消えない。
「異世界まで来てそーゆーノリ、やめてくンねーかナ……!? 暑苦しーンだヨ……!?」
「そーゆーテメーはどーヨ……!?」
高瀬が一歩進みでる。「城や町襲って、戦国大名気取りかヨ……!?」
「俺はオメーらみてーに単車転がしてババンブーいってりゃ満足ってワケじゃねーからナ。金も欲しーし、チームもデッカくしてーしヨ」
「そんで魔王の手下になったッつーンかヨ……!? ダサすぎンゼ……!? ダサさのインフレ起こしてンかヨ……!?」
「誰につこーが俺の勝手だろーがヨ……!? オメーらのついてる王様がこんなチカラくれンのか……!?」
神野がとなりに座るスカーレットに目くばせする。「オイ、見してやれ」
「オウヨ」
スカーレットがうねうねの杖を振りかざす。
「来るぞ!」
俺はスケルトンの来襲に備えて身構えた。
……が、来ない。
「あれ?」
あたりを見まわしていると、上から何かがのしかかってきた。
見ると、天井付近に召喚魔法特有の青いエフェクトが発生し、その中からスケルトンたちがボロボロと降ってきていた。
「おわー」
広間が骨で埋まっていく。俺たちはその下敷きになって身動きが取れなくなった。
なんだかスケルトンの扱いが雑になってきてないか?
スカーレットと神野が見つめあっている。
「黒死卿サンがこの杖くれたっけェ、あーしはホントの自分になれたヨ……!? 砦のお嬢じゃなくてヨ、親とかブッチして、単車乗りまわして、アンタみてーなワルいオトコくわえこむ、ホントの自分にね……!?」
「アブネーオンナだゼ、オメーってヨ……!? けどソコがたまンねーゼ……!?」
「ネエ、そんなコトゆわれたら淫紋浮いてきちゃうヨ……!?」
「コイツら片づけたあとで、ナ……!?」
俺はこの洗脳イチャコラ劇場を骸骨の下敷きになりながら見物していた。
マジで許せんなコイツら。なんで異世界に来てまで陽キャとの恋愛格差を見せつけられなきゃならんのだ。
「オラァ――――ッ!」
俺は気合とともに体の上のスケルトンたちを吹きとばした。まわりの骨も払いのけて羅愚奈落の面々を救出する。
スカーレットは目を丸くしていた。
「ウ、ウソだベ……!? あんだけの数のスケルトンをヨ……!?」
「聞いてねーゾ、こんな奴がいるなンてヨ……!?」
神野が椅子のアームレストに拳を叩きつけた。
「これ以上スケルトンを召喚されちゃ面倒だ。その杖、へし折らせてもらうぞ」
俺はスカーレットに向けて突進しようとした。
そのとき、彼女の背後にかかっていたタペストリーの裏から特攻服の男が現れた。どうやら隠し通路があるようだ。
「神野クン、作戦成功したゼ」
彼のうしろからぞろぞろとスケルトンの群れが出てくる。
その中にリコの姿があった。
手首を縛られた彼女をスケルトンたちが突きとばして歩かせる。あらわになった肌を隠していた特攻服はもうない。
「カズゥ……」
彼女は俺に気づくと、顔をくしゃくしゃにした。
「リコ……いったいどうなってる……?」
「オヤ~? ひょっとしてコイツ、オメーのオンナかァ……!?」
神野が立ちあがり、リコの体を見まわす。
「オメーらさっき、うちの家令って奴に会っただろ……!?」
スカーレットが愉快そうに笑う。「アレ、あーしの部下だから。うちの親が地下牢にいるってのは人質取るためのウソだヨ……!?」
「下手な真似すンなヨ……!? コイツがどーなっても知ンネーゾ……!?」
神野がリコの髪をつかむ。
「このゲス野郎……」
俺は拳を握りしめた。
「しッかしコイツ、上玉だナ……!? 鎧の下の具合も見てやるとすッか……!?」
神野が目で合図すると、1体のスケルトンが短剣を抜いた。
リコの胸の谷間に刃を添わせ、乳房を覆うアーマーの紐に切っ先をひっかける。
「テメー神野、妹に手を出すンじゃねェ!」
骨の下から抜けでた高瀬が怒鳴る。そこに神野は冷たい目を向けた。
「高瀬、オメーが悪いンだゼ……!? オメーが俺の邪魔すッからオメーの妹がこんな目に遭うンだ」
「ブッ殺す……ゼッテーブッ殺してやるかンヨ……!?」
「相手が悪かったナ……!? 俺らは百機夜行、悪魔に魂売った集団ヨ……!? 欲しいものは必ず手に入れるし、調子クレてるヤローはどんな手を使っても潰す」
神野がひとつうなずいた。「オメーのしでかしたことの償いはオメーの妹にしてもらう。その体でナ……!?」
スケルトンが刃を一閃させた。