4-5 スカーレット……!?
「オモシレーゾ、彼氏ィ……!?」
鐘楼の中から現れたのは金髪ロリな美少女だった。
彼女はそこからためらいもなく飛びおりる。地上3階建てくらいの高さがあったが、余裕で着地して涼しい顔だ。
ツインテールに結ったブロンドの髪、青く澄んだ瞳、抜けるように白い肌――俺の住んでいる海山市ならわっと人が集まってそれを目当てに露店のひとつやふたつ出てしまうレベルの美少女だった。
ゴスロリっぽい黒のドレスもよく似合っている――ただ、残念ながら胸の部分とスカートに「百機夜行 拷死苦」「侵略すること死の如し」というでっかい刺繍が入っている。
何だろうな……最近、俺の人生に登場する新キャラってこういうのしかいない気がする。
「黒死連合拷死苦総長代理、スカーレット・スカムスカル推参!」
彼女はそう叫んで、ワルモノ特有の妙にうねうねした杖を掲げてみせた。
ひとつひとつの固有名詞がパンチききすぎてさっぱり頭に入ってこない。
「ス、スカーレットサン……」
腰を抜かしていた金カップくんがほっとしたような顔で彼女を見る。
彼女は俺に迫ってきた。
「オメー、あーしがあッこに隠れてるってどーしてわかった……!?」
「妖気がダダ漏れだからな」
「ふーん。オメーやっぱオモシレーナ……!? それにドエレー強エーしヨ……!? あーしの好みのタイプだヨ……!?」
その青い目で見つめられるとドキドキしてしまう。
「そ、そりゃどうも」
「オメーみてーなヤツを力で屈服させたらサイコーに気持ちイイだろーナ……!? 這いつくばってあーしに許しを請うトコ想像するだけで淫紋浮いちまうヨ……!?」
「えっ、淫紋ですか!?」
正直、大好物である。
現実にはありえない現象だが、この異世界ならば存在しても不思議はない。
「マ、とりあえず城の出方うかがうッつー目的は果たしたかンヨ……!? あーしはフケンゼ……!?」
そういって彼女は停めてあるバイクにまたがり、エンジンをかけた。
「ち、ちょっと、スカーレットサン……俺らはどーすりゃ……」
金カップくんが追いすがろうとする。
スカーレットはふりかえらなかった。
「ンじゃ、流れ解散だ……!?」
そういってバイクを急発進させる。
「そ、そんなァ……」
金カップくんは泣きそうな顔になっていた。
スカーレットは去り際、俺に向かってうねうねの杖を振った。空間に青い光が生じて、中からスケルトンがぞろぞろと出てくる。
「またコイツらかよ!」
俺は仕方なくさっき使った武器を拾ってスケルトンどもを薙ぎたおした。
「も、もう許して……」
かたがついたときには、武器は口から泡を吹いていた。
広場を囲んでいたスケルトンの方もあらかた退治しおえたようだった。
高瀬がこちらにやってくる。
「カズ、さっきの女ァ拷死苦ッつッてたヨナ……!?」
「何なんですか、それ」
「海山市の族だヨ。総長は鱶津学園の神野って奴だ」
鱶津学園・通称フカ学といえば、入試で名前さえ書けばほぼ受かるといわれている学校だ。
ちなみに我がシャバ高は入試当日、会場に来なくてもほぼ受かるといわれている。
「拷死苦は性質が悪いゼ。一般人攫ったりドラッグ捌いたり何でもアリだ」
「えっ、怖ッ!」
さすがにドラッグに手を出すのはシャレにならんだろ……。引くわぁ……。
「あの~」
俺たちの間に入ってくる者がいた。道案内のために連れてきた男だ。
「どーしたヨ……!?」
「さっきのおかしな名前の女性、スターナー家の一人娘・エミリア様だと思うんですが」
「アァン……!? スターナーッつッたらドリッジ砦を守ってるヤツじゃねーかヨ……!?」
「ご近所ですからエミリアお嬢様のことはよく存じあげています。服装はいつもとちがいましたが、あれはお嬢様にまちがいありません」
「どーゆーコトヨ……!?」
高瀬は首をひねった。「そのオジョーサマがなんで自分トコの城奪ったヤツの味方してやがンだ……!? 洗脳でもされてンかヨ……!?」
「えっ、洗脳ですか!?」
俺は思わず声をあげてしまった。
ドラッグ……洗脳……金髪ロリ……そんな魔法の組みあわせ、朝凪先生の漫画でしか許されんだろ……。
拷死苦とやら……生かしちゃおけん。
高瀬は俺が倒した連中に近づいていった。
「オメーら、拷死苦だベ……!? だったら黒死連合ってのは何ヨ……!?」
「異世界で暴走ってたらヨ、黒死卿とかゆー厳チーおっさんが『連合組むベ』ってゆってきたンだ」
意気消沈した様子の金カップくんが答える。
「そんでオメーントコの総長はOKしたンかヨ……!?」
「コッチで何やってもいいってゆわれて、神野クンそーゆーの好きだかンヨ、とりあえずミルホートの城取れってコトで、手はじめに俺らァこの町襲ったンだ」
「アァン……!? このシャバ僧がァ……!?」
高瀬は金カップくんをブン殴った。
「ゲブァツ」
相手は血を吐いて地面に転がる。
「俺らァ道交法は守ンねーがヨ、人の道からはずれるよーなハンパはしねーゼ……!? おまけに、誰かにゆわれて動くなンてヨ……!? テメーらにスピードの向こう側ァ来る資格はねーヨ……!?」
「ゆ、許してくれ……知ってるコトは話したからヨ……!?」
「いいや、許さん」
俺は彼の頭をガッツリつかんだ。「貴様にはこれからの人生で一人称が『オイラ』の女としかつきあえなくなる呪いをかけた」
「ヒッ……」
まあそんなピンポイントな呪いかける方法なんて知らんけどね。
「ア、アイツ……血も涙もねーンかヨ……!?」
「本物の悪魔だ……」
「あのヤローが味方でよかったゼ……」
唯愚怒羅死琉の面々が若干引き気味のコメントをつぶやいていた。




