4-4 死霊魔術……!?
門を破って町に侵入した族のみなさんは、さしたる抵抗も受けず、町の中心部へと雪崩れこんだ。
「唯愚怒羅死琉参上ッ!」
「この町ァもらったゼ!」
「天誅じゃオラァツ! 動いてる奴みんな殺せェッ!」
一見するとこの町を略奪しに来たマッドマックス騎馬民族といったような様相だが、一応正義の味方である(たぶん)。
木造のみすぼらしい住宅が建ちならぶ中を抜けると、広場に出た。正面には、これも木造ながら鐘楼のついた礼拝堂がある。町で一番背の高い建物だ。
その前に特攻服姿の3人組がいた。
礼拝堂や民家から持ちだしたっぽい装飾品やら食器やら燭台やらが山と積まれていて、それを2人の男が手に持って調べている。椅子に座って金属の杯で何やら飲んでいる男もいる。その横には縛りあげられた美女たちが5人、身をすくめて立っていた。『ゴブスレ』的なアレはまだされていないようだ。
バイクが3台停めてある。
「ずいぶん大勢でおでましじゃねーのヨ……!?」
椅子の男が俺たちを見ていう。
「テメーら黒死連合だナ……!?」
高瀬がバイクを降り、彼らに近づいていく。
「だったらどーしたヨ……!?」
「オメーら、スピードの向こう側まで来てやることがソレかヨ……!? 盗みだの女攫うだの、ハンパな真似してンじゃねーゾ……!?」
「アァン……!? お説教かヨ、先パイ……!?」
ふたりはにらみあう。
ナイトがマッハクンを肘でつついた。
「なあ、アイツ何かおかしくねーか?」
「何がヨ」
「余裕コキすぎだベ。アイツら3人でコッチ200人だゾ?」
「ゆわれてみるとそーだナ」
俺は周囲を見まわした。
「妖気を感じる。何かいるぞ」
「ヨーキ?」
フブキが笑いだした。「カズ、オメー霊感でもあンのかヨ」
高瀬と黒死連合の男はにらみあいを続けている。
「オメーら、この町を出ていくか俺らにシメられるか、どっちか選べ……!?」
「俺らをシメる? ソリャ無理だろ」
「無理かどーか試してやろーか……!?」
「いや、ゼッテー無理」
黒死連合の男が不敵に笑う。「だってヨ……いまからオメーら死ぬンだからヨ……!?」
周囲の民家からスケルトンの群れがどっとあふれでてきた。武器を手に襲いかかってくる。
唯愚怒羅死琉の面々が迎え撃つ。
「ンダラァッ!」
「手応えねーゾ、オオッ……!?」
「おとなしく死ンどけやコラァッ!」
構成員のみなさんはかなり強い。1対1ならまず負けないだろう。
ただ、敵の数があまりに多かった。
俺たちは完全に包囲されてしまっている。
「オイ、俺らどーするヨ」
マッハクンが槍を地面に突いて寄りかかる。
「どーするッたって、どーしよーもねーべヨ」
ナイトは櫛を取りだして髪をビシッと撫でつけた。
俺を含めた羅愚奈落のメンバーはスケルトンたちに包囲されているだけでなく、唯愚怒羅死琉にも囲まれていて、いまのところ何もすることがない。
「ちッとウチらにも敵まわしてくンねーかナァ」
フブキが自分のバイクに腰かける。
唯愚怒羅死琉は奮戦して、かなりの数の敵を倒した。
だがスケルトンは次から次に攻めてくる。ばらばらになった味方の骨を乗りこえ、それもまた叩き潰され、やがて骨の山となるが、途切れなく出現し、また襲いかかってくる。
これだけの数を町の中に伏せさせていたのだろうか。
いや、ちがう。
それならもっと早く妖気に気づいたはずだ。
おそらく死霊魔術師がこの場で召喚しているのだ。
ソイツを叩かなければいつまでたっても攻撃はやまない。
視界の端にリコが見えた。大きな戦斧を両手で振るい、近づくスケルトンを粉砕している。
俺は彼女の背中に呼びかけた。
「リコ、この密集地帯を抜けたい。道を切りひらけるか?」
彼女は斧を肩に担いでふりかえった。
「オメー誰にゆってんのヨ……!? 黙ってアタシの喧嘩見とけ……!?」
そういってバッカンバッカン敵の首を伐採していく。
民家までたどりついたので、俺は壁に向かってジャンプした。そのまま重力を無視して壁を走り、スケルトンと暴走族の抗争現場を迂回する。
「オオッ、スゲー!」
「アイツ、忍者かヨ……!?」
「サスガうちの総会長が一目置く男だゼ……!?」
俺は教会の壁に飛びうつり、黒死連合のみなさんの前で着地した。
金属のカップを持った男が目を丸くしている。
「ウ、ウソだベ……!? 壁を走るとか、映画の中の話じゃねーンかヨ……!?」
「フフ……母が対魔忍やって25年のベテランなものでね。その遺伝子を受けつぐ俺にはこれくらい朝飯前よ」
俺がいうと、盗品の値踏みをしていた2人が声をあげる。
「何ィ……!?」
「母親が熟女対魔忍とか、ドエレー闇抱えた家庭で育ったナ……!?」
金カップくんが俺に迫ってきた。
「テメー、俺らとやろーッてンかヨ……!?」
「ああ、そうだ。何人でもいいぜ。かかってこいよ」
俺は手招きする。
相手は顔色をかえた。
「ちびっこ相撲のようにはいかねーゾ、ボクゥ……!?」
俺をにらみつけるが、チラリと俺の背後の礼拝堂に視線を送る。
ハッとしてふりかえると、礼拝堂の扉を蹴破ってスケルトンの大群が飛びだしてきた。
「何人でもいいってゆったよナァ……!? お望みどーり相手してやンゼ……!?」
金カップくんの高笑いを聞きながら俺は手にした鉄棒で敵の攻撃を受けとめた。
まあたいしたことない奴らだが、数が多すぎる。
両手武器があれば一掃できるんだが。
「うしろがガラ空きだゼ……!?」
「ヒャハァッ、もらったァ!」
盗品鑑定団の2人がつっかけてくる。ひとりは両手剣を持っていて、もうひとりは棍棒だ。
そうそう、両手武器が欲しかったんだよ俺は。
両手剣の斬撃を鉄棒で弾きとばしておき、俺はもうひとりの男に飛びかかった。
「 キ ミ に き め た ! 」
奇声を発しながら胴タックルで押したおし、脚をつかんで振りまわす。ジャイアントスイングの要領だ。
「オラァ――――ッ!」
回転しながらつっこんでいき、スケルトンたちを薙ぎたおす。あっという間に俺の周囲には骨の外輪山ができあがった(地理の素養)。
金カップくんが俺のパワーに腰を抜かしていた。
「バ、バケモンだ……」
俺は振りまわしていた男の体を放りすてた。
「さてと、このスケルトンどもを消してもらおうか。死霊魔術師ならできるだろ?」
「お、俺じゃねーヨ……」
「わかってる」
俺は礼拝堂の鐘楼を見あげた。「テメーにいってんだよ。特等席で見物してねーで出てきな」
鐘楼のアーチの向こうに鐘の吊られているのが見える。その前を横切る影があった。
「フフッ……ハハハハハハ! オモシレーゾ、彼氏ィ……!?」
笑い声が響く。
鐘楼の中から金髪ロリな美少女が姿を現した。




