4-3 モンスター……!?
「唯愚怒羅死琉の前は誰にも走らせねーゾ、オオッ……!?」
「ッタラネーゾッ……!? 戦乙女のケツ、せいぜい追っかけてこいや……!?」
「羅愚奈落ナメンじゃねーゾ……!? 俺らァ暴走りでも天下布武だかンヨ……!?」
200台からなるバイクの集団は絶えず先頭争いをくりかえしていた。
俺たちは暴走族とモンスターに襲われたというドリッジ砦を奪還すべく、街道を急行している。
急行しつつも先頭争いはやめない。移動のときくらい仲良くすればいいのに、と思うのだが、そうもいかないらしい。
俺は蛇行したり幅寄せしたり急加速したりするナイトのバイクのうしろに乗っていて、ちょっと酔いそうになっていた。
オールトン公は俺たちに武器を貸してくれただけでなく、騎兵と歩兵をつけてくれたのだが、爆走するバイクに遅れを取って、いまではすっかり見えなくなっていた。
土埃でじゃりじゃりになった耳の穴をほじくっていると、前方に行列が見えてきた。
農民らしき人々がこちらに歩いてくる。ツアーの観光客なんて存在しない世界なので、ちょっとめずらしい光景だ。
「オウ、あッこで停まンゾ……!?」
高瀬が部下たちに声をかける。
「カズ、うしろの連中に停まるよう合図しろ……!?」
マッハクンがいうので、俺は後方に向かって羅愚奈落の旗を振ってみせた。
バイクを停めて近づいていく俺たちに行列の人々はややビビッている様子だった。
「オウ、どーしたヨ……!?」
高瀬がたずねると、長老っぽい感じのおじいさんが進みでてきた。
「町が襲われたのです。あなたたちのような鉄の車に乗った者たちと、骸骨の化け物にです」
「何ィ……!?」
高瀬の表情が険しくなる。「オメーら、どの町出身ヨ……!?」
「サレーという町です」
「ドリッジ砦とミルホートの中間くれーにある町だゼ……!?」
唯愚怒羅死琉のナンバー2がいう。
「黒死連合とやら……ドエレー調子クレてるみてーだナ……!?」
マッハクンが腕を組む。
「オウ、ジーサン――」
高瀬が老人の顔をのぞきこむ。「俺らがソイツらブッ潰して、町ィ取りもどしてやっかンヨ……!?」
それを聞いて老人はその場に平伏し、額を地面にこすりつけた。
「お願いします。若い娘たちも奴らに奪われました。どうか無事取りもどしてください」
マジかよ……。
まさか『ゴブスレ』みてーなエロティックヴァイオレンスな光景が展開してるんじゃねーだろうな? 絶対許せんぞ、そんなもん。俺が行ってひねり潰してやる。
「オウ、悪糾麗は黒死連合ゼッテーだかンヨ……!?」
リコも俺と同じ怒りを抱いたようで、仲間たちに号令をかける。
高瀬がなおも平伏する老人を立たせた。
「ンじゃ、ジーサン、このままミルホートの城まで行ってくれ。王様が面倒見てくれッかンヨ……!?」
「いや、ちょっと待った」
俺は老人に歩み寄り、その肩に手を置いた。「あなた方はゆっくりでいいので俺たちのあとを追ってきてください」
「アァ……!? テメー、ジーサンらが戦いに巻きこまれたらどーすンだヨ……!?」
高瀬がにらんでくる。
俺はそれをにらみかえした。
「いまから行ってソッコーで町を解放する。黒死連合だか何だか知らねーが瞬殺だ。この人たちが町に着く頃には俺のアップした奴らの死体画像がインスタでバズってるだろうぜ」
俺の中で敵に対する怒りがメラメラと燃えていた。マジで『ゴブスレ』みたいなことが現実に起こると、コミカライズ版のエロティックシーンを素直に楽しめなくなるんだよな……。
俺のことばに羅愚奈落の面々が騒ぎだす。
「オオッ、さすがカズ!」
「あいかわらずラリってやがンゼ……!?」
「コイツから暴力とスピード取っちまったら何も残ンねーだろーナ……!?」
俺のことをにらんでいた高瀬の表情がふっとゆるむ。
「オメーって奴は……トコトン武闘派だナ……!?」
「気に食わねー奴は潰す。それだけだ」
そう、俺から楽しく読書する権利を奪う奴は誰であろうと許さない。感想といいつつネタバレしてくる奴も即ブロ余裕だからな。
「オーシ、ンじゃ行くぞ。町の奴らは俺らのあとついてこい……!?」
高瀬は道案内として町の若い衆を1人うしろに乗せた。
200台のバイクがふたたび走りだす。
俺は後続する町の人たちに向けて旗を振ってみせた。
サレーの町は街道からすこしはずれたところにあった。
高瀬のケツに乗る町民の案内に従って凸凹の道を行くと、丸太でできた高い柵が見えてきた。門は閉じられている。
「ドーグ解禁しろ……!?」
暴走族のみなさんが、現実世界だったら持ってるだけで即現行犯逮捕されそうな鈍器や刃物を取りだす。
俺も城から持ってきた六角柱の鉄の棒を握りしめた。
バイクの群れが町に向かって攻めよせる。町を囲む柵は、上の方が凸凹に加工されていた。その隙間に人影が見え隠れする。
「矢が飛んでくるぞ!」
俺は注意を喚起すべく、大声を発した。
柵上部の凸部分に身を隠した敵が矢を放ってきた。
「火炎!」
族のみなさんが火炎魔法で飛んできた矢を焼きつくす。
柵の下まで到達すると、弓を構えた敵が身を乗りだしてきた。スケルトンの弓部隊だ。
こちらは下からの火炎魔法で牽制し、矢を射させない。
「早エートコ門破れ……!?」
高瀬が剣で町の門を指差す。
門は木製だが、年季が入ってなかなか頑丈そうだ。こちらの斧やメイスの攻撃にもびくともしない。
「オウ、カズ――」
俺の乗るバイクを運転するナイトがこちらをふりかえった。「しっかりつかまってろ……!?」
「え? どうしたの?」
「いいからヨ……!?」
バイクが急加速した。
俺はあわててナイトの背中にしがみつく。
味方の間を抜け、俺たちは門に向かって突進していった。
「おい、これヤバイだろ!」
「ッダラアアアッ!」
バイクが門に激突し、門扉を吹きとばした。
ナイトはタイヤをスライドさせて停まった。
「羅愚奈落親衛隊長・荒垣騎士が一番乗りじゃァーッ!」
「でかしたゼ、ナイトォ!」
マッハクンも門の内に飛びこんでくる。
「ッシャァーッ! 羅愚奈落、特攻むゾッ!」
フブキがトゲトゲ鉄球つき鎖を振りまわしながら俺たちを追いこしていく。
「オウ、俺らも行くぞ……!?」
「気合入れてけェ……!? 手柄ァ横取りされンじゃねーゾ……!?」
唯愚怒羅死琉と悪糾麗も門に殺到してギッチギチになる。
それを見ていて俺は、「戦国時代の先陣争いとかリスクデカすぎるしアホだろ」って思ってたけどこういうことなのか、と理解した(理解はしたが共感はしない)。




