3-5 ボスキャラ……!?
ファミレスの駐車場で爆音が鳴り響いている。
「オウ、見に行くベ」
マッハクンたちが席を立ち、窓のそばに寄る。只事ではなさそうなので、俺もついていった。
「ゲッ……何だこれ……」
さっきまでスカスカだった駐車場が、いまやヤカラ感丸出しのバイクで埋めつくされていた。ざっと見た感じ、50台はある。そこから降りたヤカラの方々が俺たちのいるファミレスに入ってこようとしていた。
「この辺でこんだけの人数集められる族ッつッたらヨォ……」
窓の外を見つめるナイトの声は心なしか震えているようだった。
「オイ、アレ見ろ……!?」
フブキが店の入り口近くに停めてあるド派手なバイクを指差した。
「黒金ファイヤーパターンのZ2……!? ウ、ウソだベ……!?」
マッハクンが顔色をかえる。
「知っているのか、マッハクン」
「オ、オウ……アリャー、シャバ高最大の族・唯愚怒羅死琉のアタマ張ってる高瀬海樹の単車にまちがいねェ」
「唯愚怒羅死琉ッつッたらヨォ――」
フブキが声をひそめる。「県内に支部がいくつもあって、メンバーは合計200人を超えるらしーゾ……!?」
「それを仕切ってる総会長の高瀬は生涯喧嘩無敗って強者だ。マ、この辺じゃ太刀打ちできる奴はいねーだろーナ」
ナイトは窓の外を歩くヤカラにメンチを切る。
どうやらシャバ高のラスボスが登場してしまったようだ。
「ん? 待てよ……?」
俺はいま聞いた名前を舌の上で転がしてみた。「高瀬海樹……高瀬……タカセってまさか……」
そのとき、ヤカラの先頭を切っていかにもイカツいお方が店内に入ってきた。
テッカテカのリーゼントに薄い色のグラサン、口ヒゲというわかりやすすぎるスタイルで、シャバ高の制服を着ていなければ同じ高校生だとは信じられなかっただろう。
彼は、DQNの本能がそうさせるのか、「何名様ですか」とたずねる店員さんに答えるよりも早く、こちらにガンをつけてきた。
「オウ、シャバ高の1年坊か……!? こんなトコで何やってンのヨ……!?」
「アァ……!? ッせーンだコラ……!? ココはテメーの店かヨ……!?」
マッハクンがにらみかえす。
ナイトとフブキも臨戦態勢だが、相手は背後にたくさんの部下を従えている。どう見ても勝ち目はない。
ファミリーレストランのファミリーってそういうマフィア的な意味なのか?
最悪、窓ガラスを叩き割って逃げようかと考えていたそのとき――
「お兄ちゃん……?」
ひとりテーブルに残っていたリコが声をあげる。
ボスキャラがそちらをふりかえった。
「オウ、リコじゃねーか。どーしたヨ、オメー」
「お兄ちゃんだと……!?」
マッハクンが声をあげる。
「アイツ……高瀬海樹の妹だったンかヨ……!?」
「トンデモねー兄妹がいたもんだゼ」
フブキとナイトが顔を見合わせ、あきれたようにいった。
リコは席を立ってお兄ちゃんに近づいていく。
「お兄ちゃんこそ、こんなトコで何やってンの」
「ココは唯愚怒羅死琉のダベリ場だかンヨ」
妹に話しかける高瀬海樹はどことなく優しげな声になっていた。「オメー珍しいな、シャバ高の方来ンのはヨ」
「アタシ、コッチに彼氏いるから」
リコのそのことばに優しいお兄ちゃんの雰囲気は一変した。
「アァ……!? 彼氏だァ……!?」
あれ……? 何かこれ、まずい流れじゃないか……?
「うん、あッこにいる」
嫌な予感は見事に当たり、リコが俺を指差した。
ほら~、も~。宿題やってないときに限って先生に当てられる俺の運の悪さがここで発揮されてしまった。
「オウどいつヨ、リコの彼氏ッつーのはヨ……!?」
高瀬海樹が部下を引きつれ、こちらに向かってくる。
彼はマッハクンたちがにらむ間をとおりぬけると、やや腰を屈め、俺の顔を真正面から見た。
「コイツがそーなンかヨ……!?」
威圧感がすごい。ビーフジャーキーを使ってライオンとポッキーゲームしているような気分だ。
なんとかして逃げだしたい……。
――だが待てよ。
このお兄様に嫌われればリコも俺から離れていくのではないか。
どう考えても俺はこのお兄様のお眼鏡にかなう要素を持ちあわせていない。「こんな陰キャが俺の妹と……? 俺は認めねーぞ!」となるのは確実だ。
そうすると自然とリコも「よく見りゃクソ陰キャ丸出しじゃねーかコイツ」と俺のことを見限ってくれるかもしれない。
ならばお兄様に嫌われそうなキャラをさらに強調して――
「はじめまして!」
俺は高瀬海樹に向かって90度のお辞儀をした。「ワタクシ、リコさんとおつきあいをさせていただいております、鯖ヶ崎高校1年A組、山岡和隆と申します! 将来の夢は公務員です!」
決まった……。
真面目一辺倒、DQNとは真逆の男であることを見事にアピールできたぜ。
「アァン……!? テメェ……」
高瀬海樹が俺の胸倉をつかんできた。顔を近づけてくるのでサングラスの向こうの鋭い目を見とおすことができる。
作戦どおりだ。
これで「ふざけんじゃねえ!」とお叱りを受け、リコともオサラバできる。
だが次の瞬間、高瀬海樹の口から信じられないことばが飛びだした。
「カズッつッたナァ……オメー、気に入ったゼ……!?」
何ィ――――ッ!




