2-14 ~Princess Side~ 「出会い」
――何かを壊したかったわけじゃない
――何かを奪いたかったわけでもない
――私はただ自由になりたかった
――街を吹きぬける疾風のように
――愛車にまたがって私は走った
――夜の街
――異世界
――そしてアイツに出会ったんだ
ここは異世界。
夜の森の静けさを松明のパチパチいう音とペチャクチャしゃべる声が破った。
ひとりでいたら不気味な場所だけど、
みんなでいるから怖くない。
私の名前は高瀬莉子。
暴走族・悪糾麗の総長だ。
悪糾麗は3年前に解散したチームだった。
その最後の代の走りを中学1年生の私たちは見ていて、
「高校生になったら族を結成しよう」と誓いあった。
そして高校に入り、先代の総長――通称"頭突きの心愛"さんに挨拶して旗を継がせてもらった。
いま私たちは森の中の道で検問を張っている最中だ。
土曜の夜にはいつも暴走ったあとに検問を張る。
こうやってモンスターや他の族を叩き潰し、
悪糾麗の名をあげていくつもり。
――ブォン
単車の排気音が聞こえてきた。
「3台来るよ」
見張りの仲間が声をあげた。
やってきたのは3台の単車に乗った4人。
みんな特攻服を着ている。
二人乗りしたうしろの男が旗を持っていた。
「あれラグナロクって読むのか?
聞いたことない名前だな」
副総長の陽菜がその旗に目を凝らす。
「たった4人か。雑魚だな」
親衛隊長の結月が笑う。
このふたりは私の幼馴染だ。
たった4人のチーム相手なら楽勝だろう。
私たちは16人いる。
「行くよ」
私はCBR400Fのエンジンをかけ、
陽菜と結月を連れて彼らの前に進みでた。
正面にまわると、CBX400Fにまたがる金髪マッシュボブの男が声をかけてきた。
「俺は羅愚奈落総長・桜木音速。
シャバ高の1年だ」
シャバ高、つまり私立鯖ヶ崎高校は県内一の不良校として有名だ。
だからってビビる私じゃないけど。
それにしてもこのマッハって男、かなりのイケメンだ。
まつ毛が長くて肌がきれい。
ちょっとメイクしたらかなりの美少女になりそう。
私のとなりにいる陽菜と結月が見とれてしまっている。
おいおい……
いまからコイツらと喧嘩するってこと忘れてないだろうな。
別の単車にはバーバースタイルでバッチリキメた男が乗っている。
こっちもタイプはちがうが、なかなかのイケメンだ。
背が高くて、
袖まくりした特攻服から伸びる腕は筋肉質で、
マッチョ好きには人気がありそう。
そのうしろに座る旗持ちはなんだかフツーっぽい奴だった。
冴えない感じで、印象に残らないタイプだ。
特攻服の下はTシャツとジーンズ。
他の奴らにむりやり連れてこられたんだろうか。
羅愚奈落には女の子もいた。
髪が左右で色がちがうツートンですごいおしゃれ。
原宿とかにいそうな感じだ。
(行ったことないから想像だけど)
すごいかわいいから、他の3人はきっとこの子のこと好きなんだろうな。
実は私もけっこうモテる。
(自慢じゃないけど)
でもナンパしてくるような奴は嫌いだから、だいたいボコってきた。
つきあうなら一途で気合入った人がいいな。
あの旗持ちみたいな、フツーなくせに族に片足つっこんでるハンパな奴が一番嫌い。
まあでも、いまは悪糾麗を大きくすることの方が大事だから
男とつきあってる暇なんかない。
「私は悪糾麗第22代総長・高瀬莉子。
あんたたち、とりあえずカネと旗置いてって。
でなきゃボコるよ?」
私がいうと、紅一点の女の子が向かってきた。
「私は大和扶々稀。
ボコられるのはあんたの方だよ」
「どうかな」
私は特攻服を脱いで陽菜に預けた。
「行くよ!」
ドカッ
私は得意の蹴りでフブキを倒した。
実は私、空手やってるから蹴りには自信がある。
倒れた相手にとどめを刺そうとしたそのとき、強い風が吹いた
――ように思った。
ふと見ると、
倒れていたはずのフブキがいない。
「リコ、うしろ!」
陽菜の声がする。
ふりかえると、
さっきの旗持ちの男がフブキをお姫様抱っこしていた。
ウソ……
一瞬で彼女を抱きあげてあそこへ移動したの?
人間業じゃない……。
旗持ちは胸の中のフブキを見つめる。
「おまえは俺が守る」
「う、うん……」
フブキは恥ずかしげに目を伏せる。
なんかこのふたり、いい感じなんだけど。
もしやつきあってる?
喧嘩の最中だってのにふたりの世界に入らないでほしい。
にしても……
他にイケメンが2人いるのに、なんでコイツなんだ?
そのイケメン2人は私の方に向かってこようとしていた。
フブキの仇を取ろうってことだろう。
「テメー、今度は俺が相手だ」
「そこを動くんじゃねーぞ」
それを旗持ちが一喝する。
「 黙 れ !」
ビクッとするイケメン2人。
「ここは俺にまかせてもらおうか」
旗持ちがいうとイケメンたちはひっこんでしまった。
どういうこと……?
総長よりもコイツの方が強いってことなの?
「今度はこの山岡和隆様が相手だ」
そういってフブキを地面におろす。
何このカズタカって奴……
さっきまでと雰囲気がちがう……。
まるで値踏みするかのように私を冷たい目で見る。
何だかわからないけど、戦うしかない。
悪糾麗第22代総長の看板を背負っているのだから。
私は飛びこんでいって蹴りをお見舞いした。
バッ ババッ
すべてかわされた……!?
こんなスピード、空手の大会でも見たことがない。
「フッ……そんなものか」
カズタカは息ひとつ切らしていない。
「じゃあ今度は俺から行くぜ」
カズタカが掌を地面に向ける。
「極大突風!」
ブワァァッ
強い風が吹きつけられる。
それに乗ってカズタカは空高く舞いあがっていた。
風の魔法にあんな使い方があったなんて知らなかった。
カズタカの手に今度は炎が巻きおこる。
「極大火炎!」
激しい炎が私の頭上から降ってくる。
ゴォォォッ「キャッ」
私は倒れた。
カズタカが地面に降り立ち、こちらに迫ってくる。
「こんなところで……
負けるわけにはいかない!」
私は立ちあがった。
カズタカは私を見てニヤニヤしている。
「へえ、意外といいカラダしてんじゃん」
「えっ?」
見ると、服が焼けて、私は全裸に近い状態になっていた。
「キャーッ」
私は手で胸を押さえ、その場にしゃがみこんだ。
恥ずかしくて死にそうだ。
カズタカが特攻服を脱ぎながらゆっくりと近づいてくる。
まさか……
みんなの見ている前で私を犯すつもり……?
怖いよ……
やっぱりコイツ、とんでもないワルだ……。
だが彼はその特攻服を私の肩にかけた。
「えっ……?」
まさか……族にとって命の次に大事な特攻服を、私のために?
さらに彼は指にはめていた指輪を抜きとった。
「これ、オマエにやる」
それを私の手の中に落とす。
私はその指輪を、何かに操られるように、左手の薬指にはめた。
「えっ……ピッタリ……」
どういうこと……?
まさか「喧嘩に勝ったんだからおまえは俺のオンナだ」ってことなの?
そんなの強引すぎるよ……。
困惑する私にはお構いなしで、カズタカは仲間のもとへと帰っていく。
喧嘩に勝ったっていうのに、その背中はなぜか寂しげだった。
私にはアイツがわからない。
ものすごく強くて、とんでもないワルで、
女はみんな自分のものだって思ってて……
でもあの背中――
まるで迷子になった子供のよう。
見ているだけで胸が締めつけられる。
私どうしちゃったんだろう。
アイツがわからないし、自分自身のこともわからない。
「リコ……」
「あんただいじょうぶ?」
陽菜と結月が顔をのぞきこんでくる。
いつの間にか私の目からは涙があふれていた。
なんで私、泣いてるんだろう……。
「うん……だいじょうぶだよ」
私はカズタカの特攻服を目に押しつけて涙を吸わせた。
彼の特攻服は私の知らないにおいがした。
月曜日。
放課後になって私はひとりシャバ高に向かった。
アイツに特攻服を返すためだ。
悪糾麗の仲間たちには内緒だった。
そんなの絶対反対されるに決まってる。
単車を校門の前で停めた。
シャバ高は県内でも有名な不良校だ。
下校する生徒たちが私をにらみつける。
やがてカズタカと羅愚奈落のメンバーがやってきた。
「何しに来たんだテメー」
フブキがこちらに向かってこようとする。
その肩をカズタカが抱いた。
「やめとけ。
相手ビビッてんじゃねーか」
肩を抱かれたフブキはうっとりとした顔でカズタカを見あげる。
やっぱりふたり、つきあってるのかな……。
「あの……これ……」
私は特攻服を差しだした。
「何だよ、このために来たのかよ」
カズタカはそれをひろげる。
「洗濯してあるじゃん。
意外と気が利くじゃねーか」
「汚れちゃったから……」
「ああいうときならいつでも貸すぜ」
カズタカはニヤリと笑う。
「ああいうときって――」
私はハッとなった。
彼の前で私は裸になったんだった。
「やだ……」
そのときの恥ずかしさがよみがえってきてカアッと顔が熱くなる。
もう帰りたい。
でも、どうしてもきかなきゃならないことがある。
そのために今日ここに来たんだから。
「あ、あの……
これって……
どういうことなの……かな?」
私はあのときもらった指輪を見せた。
「ん?」
彼はそれを見て笑いだした。
「おまえそれ左手の薬指にはめてんのかよ。
何かカンチガイしてんじゃねーの?」
「えっ……?」
「ひょっとして、
俺のオンナになれ
みたいなことだと思った?」
「いや……そんな……」
「バーカ!」
フブキが笑いだす。
「カズがオメーみたいの相手にするわけねーだろ」
「オイオイ、あんまキツいこというなよ。
コイツ泣いちゃうだろ」
彼がフブキを抱きよせる。
彼女は彼の胸に頭をすりつけた。
かんちがい……
だったのかな……
そうだよね……
これだけのワルだもん、
きっといろんな女の子に声かけてるんだ……
でも――
「オゥコラァ!」
声がしたので見ると、怖い顔をした女子2人が校門の方からやってきていた。
「ウチの学校に何か用かよ」
「その制服、ブリ商だな?」
私に喧嘩を売るつもりらしい。
やっぱり不良校だ。
面倒なことになりそうなので単車を急発進させる。
でもすこし行ってからブレーキをかけた。
「ねえ――」
ふりかえり、カズタカの方を見る。
「何だよ」
「……ううん。
何でもない」
私はふたたび走りだした。
いえなかったことばを呑みこんだまま――
――すごく強くてワルなあなたと
――優しくてどこか寂しそうなあなた
――どっちが本当のあなたなの?
――私だけに教えてほしいよ
――胸がドキドキする
――こんなのはじめて
――CBRのエンジンが響くせい?
――それとも……




