2-13 再会……!?
校門の外でバイクにまたがる高瀬莉子に対し、もっとも著しい反応を見せたのがフブキだった。
「オウコラァ、ヨソモンがココで何してンのヨ……!?」
そう叫んで向かっていく。
「アァ……!?」
リコはバイクにまたがったまま彼女をにらみつける。「オメーにゃ関係ねーだろおがヨ……!?」
「アァンコラァ、テメー体育館裏に埋めてシャバ高七不思議増やしたろーか……!?」
フブキがつっかかろうとするので、
「まあまあまあまあ」
俺はその肩をつかんで止めた。
この間の身のこなしから見て、おそらくこのリコは現実世界でも喧嘩が強いタイプ。一方の俺は完全なる異世界弁慶。ここはなんとか武力衝突なしにやりすごしたい。
「オメー、カズタカッつッたナァ……!? ちッと来いやァ……!?」
リコが今度は俺をにらんでくる。
向こうから来といて「来いや」とはいったいどういうことなのか。
俺はおそるおそる彼女に近づいた。
「オウ、コレ――」
彼女は紙袋を差しだしてきた。
「え、何?」
中を見てみると、見おぼえのある特攻服だ。
「あっ、これ……おとといの……」
俺が火炎魔法で彼女の服を灰にしてしまったとき、体を隠すために貸したものだ。ひろげてみると、ふんわり柔軟剤の香りが立ちのぼった。
「ひょっとして洗濯してくれたの?」
「まあヨ」
リコは顔を背ける。
「そんな気をつかわなくていいのに」
「でも汚れちまったかンヨ」
「いやでも、ああいうときは仕方ないからさ」
「あーゆートキって何ヨ……!?」
彼女はにらみつけてくるが、その頬は心なしか紅潮しているように見えた。
「あ、いや……ゴメン」
裸の件を蒸しかえしそうになってしまったので俺は口をつぐんだ。
リコはスカートのポケットからスマホを取りだす。
「オウ、オメー、LINE教えろ……!?」
「はい?」
突然話がかわったので俺は面食らってしまった。
「いいから教えろヨ……!?」
「いやあ……それは勘弁してください」
「ハァ……!? なンで教えねーンだヨ……!?」
「そういうのは個人情報に当たるのでちょっと……」
「何ヌカしてンだコラ……!?」
リコはうつむき、大きく息を吐いてからふたたび俺をにらんだ。「だってオメー……つ、つ、つきあってたらLINEすンの当たりメーだろおがヨ……!?」
「ん?」
いっている意味がわからない。
「ん?」
俺の背後でも疑問の声があがっている。
リコの顔は真っ赤になっていた。
「オメーあんトキ……アタシに指輪くれたベ……!? ソレってそおゆーコトなンじゃねーンかヨ……!?」
そういって彼女は拳を突きだしてくる。
左手の薬指――そこには俺のあげた回復の指輪がはめられていた。
あの指輪は魔力によってどの指にもサイズがぴったり合うようになっているんだが……わざわざそこにはめる……?
「いやいやいや、それはちがう! そういう意味で差しあげたのではない!」
俺は政治家のようにきっぱりと疑惑を否定した。
「アァ……!? じゃあどおゆーコトだヨ……!? テメー、アタシの心もてあそンだンかヨ……!?」
「いや、もてあそぶとかいう話では……」
「テメー何ひとりでフキあがってンのヨ、オラァ……!?」
ここでふたたびフブキが話に割りこんできた。「カズがオメーみてーなクソブスを相手にするわきゃねーだろーがヨ……!?」
「アァン……!?」
「はいはいはいはい、話がややこしくなるから、あなたはちょっとさがっててね」
俺は彼女の肩をつかんでリコから引きはなした。
リコは俺に殺人的な熱視線を送ってくる。
「オウ、オメーどっちなンだヨ……!? アタシとつきあうのかつきあわねーのか……!?」
うーむ……この選択肢、まちがえると一発無言の帰宅だぞ……。
会話で即死とかになるゲーム、俺ホント嫌い。
ふつうに考えて、彼女とつきあうってのはありえない。俺の学校生活だけでなく私生活もDQN一色に染めあげられちまう。
なんとか回答を先延ばしにできないかと考えていたそのとき、まさかの助け舟がやってきた。
「オウコラァ、オメー何高ヨ……!? ブリ商か……!?」
「他人様の学校に道の駅気分で立ちよってンじゃねーゾ、オラァ……!?」
ギャルンギャルンな先輩ふたりが校門のところに立っている。
助かった……。助け舟っていうか助け巡洋艦くらいの迫力だが。
「ちッとオメー、コッチ来ォー……!?」
「シャバ高のおもてなしってのを教えてやンヨ……!?」
先輩たちが手招きする。
リコはうつむき、動かない。さすがの彼女もビビったらしい。
――と思いきや、突然バイクを発進させ、前輪でギャル先輩の1人を撥ねとばした。
「ギャアアアアッ! 痛テーッ、痛テーヨォッ!」
「サ、サベーヨ……血ィ出てンゾ……!?」
のたうちまわって苦しむ先輩とそれを見て腰を抜かしている先輩――そんなふたりには目もくれず、リコは急ブレーキをかけ、こちらをふりかえる。
「また来ッかンナ……!? アタシら悪糾麗は一恋托生だかンヨ……!?」
そういいのこして彼女は走りさった。
俺は恐怖に震えていた。もうちょい括約筋がナイーブだったら、いまごろパンツの中が大惨事になっていただろう。
「カズ、オメー――」
マッハクンに肩を叩かれた。「やるじゃねーかヨ。イツの間にあのゲロマブオトしたンだ?」
「ハァ……!? あんなモンただのクソブスじゃねーかヨ……!?」
フブキはリコの去った方角をにらみつづけている。
ナイトはシャツのポケットから取りだした櫛で髪をビシッと分ける。
「カズゥ、女が勇気振りしぼって告白したンだからヨォ、恥かかすよーなシャバい真似すンじゃねーゾ……!?」
うーん……2対1でおつきあいに賛成が多数派なのね。どこかに恋愛禁止を掲げる族ってないもんかなあ……。BSZ48的な。
俺は天を仰ぎ、目を閉じた。おかしな奴にからまれっぱなしで、これから俺はどうなっちゃうんだろう。お先真っ暗だ。
だがどういうわけか、まぶたの裏の真っ暗な中に、頬を赤らめながら俺を見つめるリコの面影が浮かんでいた。




