2-12 勝利……!?
「極大突風!」
地面に向けられた俺の掌から強い風が吹きだす。それに舞いあげられて、体が宙に浮いた。周囲の木々の梢と同じ高さにまで達する。
「ウ、ウソだベ……!?」
「飛んだ……!?」
「な、なんて魔力だヨ……!?」
はるか下では悪糾麗の面々が騒いでいる。
俺は片手で風魔法を維持しつつ、もう片方の手で別の魔法を発動させた。
「極大火炎!」
激しい炎が獲物に食らいつく龍のように地上のリコを襲う。
「バ、バカな…………うわああああっ」
彼女はガードしようとしたが、体ごと吹きとばされて地面に倒れた。
俺がちょっと本気を出せばこのとおりだ。もちろんフルパワーにはほど遠いが。
両手の魔法を解除して地上に降り立つ。
リコが地面に手を突き、起きあがってきた。
「テメー……こんくれーで悪糾麗22代目を倒せると思うナヨ……!?」
その姿に俺は目を見張った。
「おい……それは……」
やはり彼女の装備していた魔法耐性向上アイテムは高性能のものだったらしく、そのもの自体は焼失してしまっていたが、彼女の体には火傷ひとつなかった。
なぜそれがわかるのかというと、目で見て確認することができたからだ。つまり、服もすべて灰になってしまっていて、彼女の胸も、腹も、脚も、つまりその……そういう部分もすっかりあらわになっていたのだ。
「あの~、非常に申しあげにくいんだが、その……服が……」
「えっ?」
彼女は自分の体に目を落とした。「キャ――――ッ!」
意外とかわいらしい悲鳴をあげて、彼女はその場にへたりこんだ。体の前面を手で覆い、さらに体を丸めることで俺の目から逃れようとする。だがそれによってお尻が俺からバッチリ見おろせるポジションに位置することとなった。
「総長ォ!」
道の両脇で待機していたリコの部下たちがこちらに駆けてくる。
マ、マズイ……。このままではセクハラ野郎・山岡和隆メンバー(16)という烙印を捺されてしまう。
俺はすばやく特攻服を脱ぎ、彼女の背中にかけた。
うまいことお尻まで隠れる。裾が長い服で助かった。
「えっ……?」
彼女が顔をあげる。すこし目が潤んでいた。恥ずかしさのあまりに涙を浮かべていたようだ。
よく見ると、彼女の膝には擦り傷ができていた。最初に転んだときやったのか、へたりこんだときか。
「これ、よかったら……」
俺は指輪をはずして差しだした。「つけていれば傷が治る。必要なければ売ってお金にしてくれ」
「あ、うん……」
彼女はそれを掌に受け、握りこんだ。
悪糾麗のみなさんが迫ってきていたので、俺は急いでその場を離れた。
羅愚奈落のみんなのもとへもどりながら、さっきのことについて考える。おっぱいその他諸々がモロに見えてしまったわけだが、あとで訴えられたりしないだろうか。不安で足取りが重くなる。弁護士ってどうやってさがせばいいのかな……。
「オメー、やるじゃねーかヨ」
旗を持ったフブキが肩をぶつけてくる。
「いやあ、たまたまだよ」
マッハクンとナイトも俺を温かく迎えてくれた。
「オウ、火炎魔法ブリバリだったナ」
「やっぱオメーはドエレーヤローだゼ」
「ハハ……どうも」
俺はふりかえり、リコを囲むようして集まる悪糾麗の方を見た。
あの人たちとは二度と会いたくない。王我伐闘流とちがって別の学校なのが幸いだ。
今夜は長い夜になった。でもこれでようやく元の世界に帰れる。
俺はフブキから旗を受けとり、ナイトの後部座席にまたがった。
週が明けて月曜日、俺は学校が終わるとすぐに帰宅しようとした。録画したニチアサのアニメをまだ全部消化できていないので忙しい。
しかしそこを羅愚奈落のメンバーに見つかってしまった。
「オウ、いまからワークマン行くゾ……!?」
マッハクンに肩を抱かれる。
「えっ、なぜに?」
「そりゃオメー、ニッカと安全靴買うんだヨ」
「靴の代わりに地下足袋でもいいけどナ」
ナイトがペタンコの鞄を肩にかけて俺たちの前を歩く。
「靴はウチみてーにマーチンの10ホールでもいいゾ。UKっぽくてシビーべ」
フブキがうしろ歩きで俺の顔をのぞきこんでくる。
マッハクンが鼻で笑う。
「族がUKっぽくてどうすンだヨ」
「いいじゃねーかヨ。いつかウチらもベスパデコって『さらば青春の光』みてーにするベーヨ」
ナイトはふりかえらずにいう。
「俺ャー断然ロッカーズ派だかンヨ」
そんな意味のわからない会話を聞きながら校舎を出た。
みんなのバイクが置いてあるところに連行されていると、ブオンブオンとただならぬ音が聞こえてきた。
「オッ、ツッパッた音鳴らしてくれてンじゃねーのヨ」
「コレ、モリワキ管だナ」
「ちょっち見に行くベ」
今度は校門の方へと連れていかれる。
門を出てすぐのところに1台のバイクが止まっていた。ド派手なピンクの車体。乗っているのは下校中の誰もがふりかえって見てしまうほどの美少女だ。制服の短いスカートから伸びる脚がガソリンタンクの曲線と官能的な調和を見せている。茶髪が午後の日差しを浴びて輝く。
欠点はバイクにまたがったまま腕を組んで『AKIRA』の鉄雄みたいな貫禄を見せてることだけだ。
「オッ、ゲロマブじゃねーのヨ」
「あのチェリーピンクのCBR……」
「アイツ……お礼参りに来やがったンかヨ……!?」
服装がちがうので一瞬誰だかわからなかったが、まちがいない。あの夜、俺と戦った高瀬莉子だ。