2-10 ステータス……!?
「今度は俺がやる」
俺がいうと、フブキはふりかえり、にらんできた。
「アァ……!? ウチにやられっぱなしで黙ってろッつーンかヨ……!?」
「いいから。おまえは代わりにこの旗を守れ」
そういって俺は羅愚奈落の旗を押しつける。
「でもヨォ……」
彼女はまた何かいいかえそうとして口をつぐんだ。俺の醸しだす殺気を感じとったようだ。
ナイトとマッハクンはバイクを降りてイキリたっていた。
「高瀬リコォ、今度は羅愚奈落親衛隊長・荒垣騎士様が相手だ……!?」
「いいや、総長どーし、この桜木音速様とやりあうべーヨ……!?」
俺は大きく息を吸い、ふたりを怒鳴りつけた。
「待て待て待て~い!」
ふたりの視線が俺に向けられる。
「アァン……!? カズ、オメー誰に口きーてンのヨ……!?」
「新入りがデケー面してンじゃねーゾ、オラ……!?」
俺はふたりをにらみかえした。
「ドコの馬の骨とも知れねー奴相手にいちいち幹部が出ていったら、シメシがつかねーだろうがよ。ふたりとも、自重してここは俺にまかしとけや」
ナイトとマッハクンが顔を見合わせる。
「カズのゆーコトにも一理あるナ」
「確かにそーかもしンねーナ……。カズのヤロー、こんなトキにも冷静だゼ」
よし、思惑通りにコトが進んでいる。
ブリ商といえばシャバ高からも近い。マッハクンやナイトがリコを倒したとしたら、現実世界でも検問張ってお礼参り、なんてことがありうる。そうなれば、羅愚奈落のみんなはいいが、あっちじゃ雑魚の俺は彼女たちに襲撃されて重傷を負い、警察ではなんらかのトラブルがあったものと見て慎重に調べを進めることになるだろう。
ここはひとつ、圧倒的な力を見せつけて二度と俺の前でオラつけなくしてやる必要がある。
「誰が馬の骨だとコラ……!?」
リコが大工さんみたいなズボンのポケットに手をつっこんで俺をにらんでいる。「ハネッかえってンじゃねーゾ、三下クンがヨ……!?」
「三下じゃねーよ。山岡和隆って名前がある」
俺がいうと、悪糾麗メンバーの間でざわめきが起こった。
「シャバ高のヤマオカ……?」
「聞いたトキあンのかヨ」
「少年院帰りだって話だ。なんでも、駅前の信金強盗いて中学の3年間を棒に振ったとか」
「マジかヨ……ドエレーヤローじゃねーかヨ」
部下たちのことばを聞いたリコが俺の方を見て笑う。
「ヘエ。ただのシャバ僧かと思ったら、けっこお気合入ってンじゃねーのヨ……!?」
俺の心は身におぼえのない濡れ衣を着せられたことに対するとまどいと「それたった3年で出られるの?」という驚きとに引き裂かれつつあった。
愛想笑いで内心の動揺をごまかしながら彼女との距離を測る。5mほどか。向こうは俺の攻撃が届かないと思って油断しているだろう。
俺はすばやく手を突きだし、掌を彼女に向けた。
「火炎!」
炎が彼女を襲う。力を抑えめにしたので、火傷するほどではない。ちょっと服でも焦がしてビビらせてやろうという寸法だ。
だが彼女は微動だにしなかった。炎が彼女の体に当たって消える。
「な、何……?」
「オイオイ、いまのショッペー炎は何ヨ。充電中のスマホほども熱かねーゾ……!?」
彼女のことばにギャラリーから笑いが起こる。
「クソッ……」
俺はさっきよりも強めの火炎を出した。
しかしこれもダメージはない。
「バ、バカな……いったいどうして……」
ダメージがないことよりも、防御の姿勢を取ろうともしないことがひっかかる。
気合で消しとばしたとかいう話ではない。明らかに彼女は俺の魔法に反応できていなかった。その程度のレベルのくせにどうして魔法を無効化できるのか。
「待てよ……」
思いついて、別の魔法を発動させる。
「解析」
彼女のステータスが視界に表示される。
タカセ リコ
Lv 5
HP 180
MP 54
ATK 95
DEF 78
INT 39(+500)
AGI 135
LUK 83
KIAI 4649
ふむ……INT(知性)にボーナスがついているな。なにか特殊な装備が――おそらく首のバンダナだろう。そのために魔法耐性が向上し、簡単な魔法ではダメージがとおらなくなっている。
ん……? 待てよ……。いま何か見慣れない項目があったような……。気のせいか。
「今度はアタシからいくヨ……!?」
リコがじっくりと腰を割り、拳を構えた。




