2-8 検問……!?
モンスター狩りはあっさり終わった。
俺たちはバイクの機動力を活かして、サイくらいあるでっかいオオカミを倒した。
オオカミは死ぬときに石を吐きだした。ぼんやり光るその石こそが魔導石というやつだ。燃料にもなるし、貨幣が流通していない場所では物々交換のネタとしても使える。
ついでに毛皮も剥ごうと提案してみたが、みんなに反対された。
「ンなモン乗っけたら単車汚れンじゃねーかヨ……!?」
マッハクンが露骨に嫌な顔をする。
まあ俺もはじめて毛皮を剥いだときにはグロさにショックを受けて3日間メシ食えなかったしな。あまり無理強いはできない。
帰りは来たときと別のルートをとおった。森の中の細い道で、なんだか不気味だ。
「あー、もーガスねーヨ」
フブキがいう。
燃料がないと元の世界にもどれなくなるのだからたいへんだ。いくら俺でも自分の足で時速150kmは出せない。
「コッチにもスタンドありゃいいンだけどナ」
ナイトがそういって笑う。
しばらく行くと、先の方に明かりが見えてきた。
「何だアリャー」
「魔導石の光じゃねーナ。焚火か……!?」
「山賊か何かかヨ……!?」
近づいてみると、道が木の柵でふさがれている。その向こうに立てられた松明がバチバチ音を立てる。
羅愚奈落の面々はバイクを停めた。
「オイ、誰かいンゾ!」
ナイトが道の外を指差す。見ると、木々の間に人影があった。
「オウ、悪糾麗の検問だァ!」
「降りろオラァ!」
「財布出せ……!? グズグズすンじゃねーゾ……!?」
オラついた女の声が聞こえてくる。
まばゆい光が俺たちを襲った。バイクのヘッドライトが道の外にずらりと並ぶ。15台ほどはあるだろうか。
「ワルキューレェ?」
マッハクンが周囲を見渡す。「女暴走族かヨ」
「聞いたトキねー名前だナ」
「俺は知ってンゼ。でも確か何年か前に解散したはずだが……」
俺の前に座るナイトがいう。
すると森の中から、「よく知ってンじゃねーのヨ、彼氏ィ……!?」という声が返ってきた。
3台のバイクが道の上に出てくる。真ん中のピンク色したのにまたがっていた者が降車してヘッドライトの光の中に進みでてきた。
「悪糾麗第22代総長・高瀬莉子。悪糾麗は解散してたけどヨ、アタシらが先代から旗ァ受けついで今年から復活させたかンナ……!? よぉくオボエとけ……!?」
名乗りをあげる彼女は、袖をとおさずに特攻服を羽織り、腕を組んでいる。長い茶髪が背後からのライトを透かす。顔をバンダナで覆っていたが、それを首までさげると、キリッとした顔の美人だった。
「オオッ、ドエレーHOTな女じゃねーのヨ」
マッハクンが声を弾ませる。
「ハァ? ドコがヨ……!?」
フブキは顔をしかめる。
確かに俺たちの前に立つ高瀬リコはいい女だ。クッソオラついていることと、どうも俺たちからカツアゲしようとしてるらしいことを除けば、の話だが。
「オメーら、羅愚奈落ッつーンかヨ……!?」
高瀬リコが俺の持つ旗に目を凝らす。
「オウ、俺らァ全員シャバ高の1年で、今年チームを結成したンだ。俺は総長の桜木音速。オメーらは何高ヨ」
マッハクンがたずねると、高瀬リコは彼をにらみつけた。
「鰤島商業だヨ。アタシらも全員1年」
鰤島商業・通称ブリ商といえば、シャバ高と同じ海山市にある県立校だ。
「オオ、そーかヨ。学校はちがうけどヨ、同じ1年で族はじめたどーし、仲良くやろーや」
マッハクンのことばに、高瀬リコは鼻で笑った。
森の中から罵声が飛んでくる。
「何が仲良くだオラァ!」
「オメーらの置かれた立場よく考えてみろ……!?」
「早エートコ、カネと旗置いて消えろや、ボクゥ……!?」
高瀬リコが一歩進みでる。
「族どおしが道で出会ってヨ、仲良しこよしで終われッかヨ……!? オメーらは昨日今日できたばっかの族だからソレでイイかもしンねーけどヨ、アタシらは先輩方から受けついだ重い旗ァ背負ってッかンヨ、オメーらみてーにフヌケた新感覚暴走族コメディやってらンねーんだヨ……!?」
「ンだとテメー……!? 女だと思って優しくしてりゃイイ気になりやがって……!?」
マッハクンがバイクを降りようとする。
しかし、それに先んじてフブキが飛びだしていった。
「ッダッラアッ! 高瀬リコォ、この羅愚奈落特隊の大和扶々稀様とタイマン張れやコラアッ!」
「アァ……!?」
高瀬リコは動じない。「シャシャッてンじゃねーゾ……!? おとなしくアイツらの姫やっとけや、彼女ォ……!?」
「ッセーゾ……!? ウチはテメーらみてーなブスとつるみたくねーだけだヨ……!?」
「ンだコラ……!? 生意気コいてンじゃねーゾ、クソチビがヨ……!?」
ふたりの間に見えない火花がバチバチと散る。
俺はホンッッット早く帰りてーと思いながら暗い森の梢を見あげた。




